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セッション33 武具

 翌日、萬屋(よろずや)にて。

 ステファに案内された先は、武器屋と防具屋が合わさった店だった。入り口から入って右側が武器屋、左側が防具屋になっている。品揃えはなかなかで、伝説級のレア物でなければ大概の物は売っていそうだった。


「うおっ、ビキニアーマー売ってる!」


 防具屋の一角にて珍妙なデザインの鎧を見付けた。

 乳と股間、肩と腕の部分にしか装甲がない鎧だ。これをこのまま装備すれば他の箇所は肌が剥き出しになるだろう。太い血管がある太腿や内臓を収めた腹部は無防備になる訳だ。「身を守る」という鎧の必要性を真っ向から無視する概念がそこにはあった。

 ビキニアーマー、実在していたのか。


「ステファ、こういうのは装備しねーの?」

「しませんよ、こんな露出の多い鎧! 恥ずかしい!」


 しないのか。残念だ。

 ビキニアーマー姿のステファは是非とも見てみたかった。


「それに、それは軽やかな動きが出来る人が装備しないと意味がないですよ。戦士でも武闘家寄りだったり踊り子寄りだったりする人ですね」

「あー……重要な所以外取っ払って最小限に軽量化した鎧だもんな。そりゃそうか」


 きちんと理に適ったデザインだったんだな、これ。

 それでもあまり深い理屈ではなかったが。防御力を下げてまで軽量化する位なら最初から着ない方が良いんじゃねーか? それか藤甲やクロスアーマーみたいな軽い物で我慢するとか。


「藍兎さんこそこういうの着ないんですか? 盗賊は素早さ重視の前衛職でしょう?」

「やだよ、こんな恥ずかしいの」

「自分でも恥ずかしいと思うのを私に勧めたんですか!?」

「あ、いやまあ……そこは何と言うかだな……僕とステファとは恥ずかしさが違ぇし」


 ビキニを十七歳の少女が着るのと元二十九歳の男が着るのとではハードルに差があり過ぎる。

 悲しい事に女着物を着る事にはもう慣れてしまった。だが、それでもビキニはまだ駄目だ。まだっていうか未来永劫駄目だ。


「というか、僕は今回武器を買いに来たんだよ」

「そうですか。じゃあ藍兎さんのビキニアーマーデビューはまた今度という事で」

「…………そんなに僕にこれ着せてーの?」


 不味いフラグを立ててしまったかもしれない。

 ま、まあ後の事は後で考えよう。うん。


 ステファから離れて武器屋の方に目を向ける。銅の剣、鋼の剣、鉄槍に弓矢、爪……と色々な種類の武器が展示されていた。選り取り見取りだ。


「まあ、何を選びてーかをまだ決めてねーんだが」


 品揃えを見れば心が決まるかと思ったんだが、そうでもなかった。盗賊という現職業を考えれば爪や短剣などの軽量武器を選ぶべきだろうが、食屍鬼には『剛力』というスキルがある。盗賊という職業に別に未練もないし、ならば重量武器を選ぶ選択肢もある。


「……ビキニアーマーを回避する為に重い武器を選ぶってのも手だな」


 であれば、両手剣や斧槍を選択するべきか。あるいは鬼らしく金棒というのもアリだな。

 性転換――錬金術師を目指すなら武器は何になるだろう。本か杖か。あるいは武器には拘らないのか。


「ん? こいつは?」


 ふとある武器が目に付いた。

 それは槍の棚にあった。商品名の欄には『バルザイの偃月刀(えんげつとう)』と書かれている。

 偃月刀。中国における大刀の一種。長い柄の先に湾曲した刃を取り付けたもので、刃は幅広で大きい。日本でいう薙刀に相当する武器だ。


「おう、嬢ちゃん。それに興味があるのかい?」


 偃月刀をまじまじと見ていたら店主が話し掛けてきた。


「あ、ああ……。バルザイって何だろうと思ってな……」


 どうも嬢ちゃん呼ばわりされるのにはまだ慣れない。

 さっきも言ったが、中身はアラサーだからな、僕。


「バルザイってのは大昔の賢者の名前だな。いや、称号だったか? どっちだったかな……? ともかくこの地上じゃない、異界の賢者だったってのは覚えているんだが」

「大昔の異界の賢者ねえ……」

「まあいいや、そんなのは。それよりこいつのギミックよ。こいつは面白い武器でな。刃の根元に宝玉があるだろう? ここに魔力を通してみな」

「こうか?」


 言われ、軽く魔力を指先から放出する。すると、偃月刀が柄の半ばで折れた。

 否、折れたのではない。外れたのだ。魔力で二つの柄を組み合わせていたのだ。柄が短くなった偃月刀はまさしく、


「曲刀になった!」

「必要時には槍にも剣にもなるって訳だ」


 成程、偃月刀でもあり曲刀でもあるという事か。通常時は偃月刀のリーチで戦い、乱戦時には曲刀に変えて小回りを得られると。便利だ。


「――気に入った。これを買う」

「毎度あり」


 店主に代金を渡し、改めて偃月刀を手にする。

 いやはや、よもや可変武器を入手出来るとは。興奮を抑えられないな。男の子はこういうの大好きだからなあ。良い買い物をしたものだ。


「藍兎さん、決まりましたか?」

「ああ。そっちはどうだ?」

「ええ、こちらも」


 ステファが新品の盾を掲げる。表面に五芒星が描かれた長方形の盾(スクトゥム)だ。五芒星の中央には目の意匠があり、魔術的な雰囲気を醸し出している。


「そちらは槍ですね。それを選んだのであれば、転職先も決まりましたか」

「槍じゃなくて偃月刀なんだが……まあどちらにしても転職先は同じだな」

「では、地球神達の神殿に行きましょうか。案内します」

「あいよ」

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