#006 派手なルーキー
12時間前、3月26日PM10時26分。
真夜中だというのに耳障りなサイレンを聞き流しながらも、
派手な髪をくしゃくしゃと掻きまわし男は歩いていた。
本来ならば、
今頃は自宅として居を構える4特区『ラウンジヒルズ』六本木
某高級ホテルのロイヤルスイートで
ゲーム三昧だった筈が非通知の電話に出たのが運の尽き。
4月から本格的に着任を迎えることとなる本庁捜査一課。
オレの上司に当たる予定の巌城警部補からだった。
『―――悪いが、本庁管轄内で変死体が見つかったから行ってくれ』
という一方的な命令だった。
確かに年齢や経歴からいっても上の人間ということになるが気が進まなかった。
第一、今回の人事異動には反対だった。
他人の言うことをとやかくいうつもりはないが、普通・・・刑事となったなら
本庁つまりは警視庁捜査一課に憧れを抱く者が過半数を占める。
しかしオレはそんなものに興味の欠片もない上、
死んでも父の下に就くという立場・状態がキライだったからだ。
オレにはかつて、本当の血の繋がりがある母親がいたらしい。
―――らしい、
と言うのもオレには実の母親の顔を思いだすことが出来ないからだ。
元々病弱だった母はオレを産んだ後、亡くなったらしいが事実は違った。
知らない方が良かった、とその時は思った。
だが真実を例え知らなくとも
オレは父という『絶対的な悪』をキライになっていただろう。
まあ、しかしなんだ。
この何とも言えぬ環境があったからこそ
―――オレは今まで好き勝手に生きてきたと言えるのだが。
人事異動について未だにイラッとくる、
その衝動を抑えて死体発見の現場に入ろうとした矢先のことだった。
行く手を阻むように制服警官が男を止める。
「すみませんが、ここから先は関係者以外の立ち入りを禁止しています」
まあ当然こうなることは予想していた派手な外見をした男は、
所持していた手帳を警官に着き付けた途端に目を丸くする。
「し・・失礼しました!!」
立ち番をしていた警官はまだ疑っているようだ。
男が予想していた通り、当然のようにジロジロと派手な外見に目が自然と動く。
どこからどう見ても、その青年が刑事には見えないからだ。
まず視線が真っ赤に染め上げられたかなり短めの髪に向けられ、
白のVネックセーターに加工入りされた青味の掛かったデニムパンツ。
チンピラか非行に奔る青年にしか見えない。
派手な赤い髪の毛を注目すると同時にひそひそと耳障りな小声が周囲を支配する。
男にとってそれ自体に興味なく、遺体袋の前で合掌一礼。
捲ろうと手を添えたところで現場にいたひとりの青年風の刑事が手首を抑えた。
「アンタ―――、誰だ。本庁の人間じゃあ、ないだろ」
抑えられた青年の手を払って、その質問を冷静に冷たい声で答える。
「4月から本庁捜査一課、巌城班に配属されることになっている、
「―――赤刃陣瑛です。以後、お見知り置きを。




