#025 裏社会の闇
高峯の話しをすべて聞き終えたわたしは、
推測から考察を重ねに重ねてとある真実に到達した。
まず、河島順子がどうやって不正情報を入手したかだ。
これについて、高峯が答えたのは『偶然』と言ったがそれは間違いだ。
恐らく情報をリークしたのは『アンダーグラウンド』の上層部だろう。
彼女の働く『木嶋サプライズ』は『アンダーグラウンド』の下請け企業、
リークするのは造作もないだろう。
さて、ここで問題が発生する。
なぜ、『アンダーグラウンド』は彼女にリークしたのか?
答えは簡単だ。
河島順子が大嶽和馬の彼女、
恋仲にあることと彼女の性格を知っていたから。
そこまで来ると、標的は自然と大嶽に絞られる。
大嶽が勤めていたのは金融庁の検査局。
最近の金融庁でトラブルと言えば、わたし自身も関わった2カ月前の
―――『詐欺事件』に繋がってくる。
あの事件で絡んでくるのは、ストリートギャングだけではない。
ギャングはただの『おまけ』に過ぎなかったからだ。
当時、金融庁の検査局の大嶽は
証拠が全く浮上せず事件からは蚊帳の外にいたが、
詐欺事件が起きることを予め知っていた大嶽が取った行動は
西のディーラーにとって不都合が生じた上にある物を奪っていた。
そのある物というのが、
―――スマートフォン『スクリューム』ではない、なにか。
高峯の口振りから察するに、それはすでに回収済みといったところだろう。
さて、ここまでがディーラーの表の筋書。
一番の問題と言うよりは、
そもそも彼等が欲しかったのは
不正の情報が保存されているSDカードではない。
彼等が本当に遣りたかったことは、
大嶽和馬と恋仲つまりは情報を共有する親しい人間である河島順子を
消し去る過程を作ってまである人間を騙す必要があった。
その根拠は本人からの1通のダイレクトメールがすべてを物語っていたからだ。
ダイレクトメール
【宛先】探偵 古賀明彦
【送信者】解析屋
【文章】ツバサネットワークにウイルス侵入のため、
暫く仕事を受け付けられません。
このタイミングでの不正アクセス、
『アンダーグラウンド』のマーケティング戦略、
監視カメラ『エキスパート』を国から委託までくれば、
答えはひとつしかない。
ハッカー集団『天使』から翼をもぎ取るのが真の狙いだ。
それを裏付ける様に大嶽宅で亡くなっていた、
―――わたしとトビが見たあの画像こそが、
ツバサネットワークに介入するための仕掛けていた罠だった。
人物検索ツール『アルゴ』を手っ取り早く使うには、
何処にでも円滑・安全に侵入することが出来るツバサネットワークだけだ。
つまりだ。
あの遺体と言うよりは画像、そのものが偽物だったということを指す。
補足として加えれば、Barに寄る前に巌城刑事に調べてもらった結果から
わたしの推測は実証されたのだ。
―――最悪の結果として。
この上なく、見事に出し抜かれた気分だ。
しかしあの心理戦からひとつ得られるものはあった。
未だに推測の域ではあるが、
あの高峯は恐らくディーラーではない。
掃除屋に的確に指示を与えていたところから見て時間的には不可能だ。
わたしと車の中で対談していた高峯には。
そうなると真のディーラーは、リムジンを運転していた
―――運転手が黒幕という可能性が高いと見ていいだろう。
こうして振り返ってみると、
矢張りわたしのミスが今回の事件を生んでしまった、
と言っても過言ではない。
そうこう考えている内に、神崎は自分なりに答えを出したのだろう。
中途半端な考えではなく、
いまの自分に向き合った精一杯の答えを口にした。
「い・・・いまの私に出来ることを教えてください」
神崎のその言葉から分かるのは、
自分がどれほど無知で無能なのかを
理解したひとつの答えであり証拠だった。
わたしがいまの神崎に向けて言えるのもひとつだ。
「ここに毎朝、通え」
わたしにはもう必要のないものだから、と言って神崎にある物を渡した。
国内で最も多くの書物が保管されている
国立大学図書館の図書貸し出しカードを。
「・・・・・・、はい」
神崎の涙を見るのは2回目だが、あの時とはまるで印象が違う。
大切な家族であった弟を失った悲哀の涙ではなく、
無知で無能から自らの安易な考えで生んでしまった悔しさが滲み出ていた。




