今から将来なんて決めれない
図書オリエンテーションも終わったけど、図書委員になる人は居なかった。最初希望者が何人か来たけど、仕事の内容を説明すると断られた。
理由は簡単、一人で受付をしないといけないからだ。来た希望者のほとんどが私と一緒に受付をやれると思っていたらしい。それが出来ないと分かるとがっかりしたように帰って行った。
結局今年も三年生と私、二人で交代で受付をしている。図書委員会の担当の先生は司書の肩書を持っているのに受付には興味が無い様だ。でも三年生は一学期まで、二学期は私一人になるし、来年どうすのかな?
担当の先生は各期の選書とかの時は思い切り口を出してくるけど、それ以外は、毎週行っている委員会も私達二人に任せきり。職員会議でどんな報告をしているのか聞いてみたくなる。
今日も私は図書室の受付に座りながら自習をしている。
図書室に来る生徒は大体が常連。ここで本を読むか、勉強するかだ。偶にボケっとしている人もいるけど。そして稀に本を借りたり返しに来る人の対応しているだけ。
でも新学期になっていや、三学期から続いている事がある。それは工藤君が図書室に毎日来てくれる。図書委員は断られたけど、教室の席は隣だし、近づけるチャンスは十分にある。
とにかく、友達関係でもいいから休日一緒に会えるくらいに持って行きたい。
彼に近付く人は結構いる。緑川優子さんと門倉野乃花さん。でもこの二人は部活が忙しくて放課後は全く彼の傍には行けない様だ。
水島里奈さんもクラス委員になってしまったおかげで、何かと忙しいらしい。残るは元カノ達。この子達は工藤君が完全に避けているから。問題ない。
つまり、今が近付くチャンスだ。でも図書室は原則私語禁止。だから話しかけれない。予鈴が鳴って、彼が帰る時声を掛ければいいのだけど、そのタイミングは結構貸出しや返却の処理が多い。だから中々声を掛けれない。
新学期になって直ぐに門倉さんが話しかけて来たけど、彼女は部活が忙しいらしくあれ以来、放課後声を掛けて来る事は無かった。緑川さん、水島さんからも声を掛けられていない。
だけど、美月と心菜がしつこく俺に絡んで来ようとする。放課後、そのまま帰ろうとすると彼女達が付いて来ようとするので、放課後は図書室に行くようにした。
最初、あの二人が付いてきたら面倒だなと思ったけど、図書室まで付いてくることはなかった。おかげで静かに出来ている。
教室で隣の席になった新垣さんが、図書委員になる事を勧めて来たけど、断ったらそれきり言って来なくなった。
毎日図書室に来ているけど新垣さんは三年生と交代で受付をしている様で毎日いる訳では無い。それも気が楽でいい。
今日も一人で復習をしていると珍しく門倉さんが図書室に入って来た。そのまま俺の所に来ると
「工藤君、ここ良いかな」
「構いませんけど」
「ありがとう」
門倉さんが、隣に座ると直ぐに本を読み始めた。側に来たので何か話しかけられるかと思ったけど良かった。
予鈴が鳴って帰り支度を始めると
「工藤君、一緒に帰らない?」
「いいですけど」
俺達は図書室を出て下駄箱で履き替えると並んで校舎を出た。
「工藤君、理系か文系か決まった?」
「うーん、取敢えず理系かな。将来どうなるか分からないけど、今はそれでいいかなと思っている」
「そうかぁ。じゃあ私も理系にしよう」
「門倉さんは将来何になりたいとか決めているの?」
「全然。今は演劇部に入っているけど、別に女優になりたいわけじゃないし」
「ふーん。俺も家を継ぐわけじゃないからな」
「家を継ぐ?」
「あっ、気にしないで。君には関係ない事だから」
家を継ぐってどういう意味なんだろう。そう言えば工藤君のご両親って何をしているのかな?でも今聞く事じゃないよね。
「ねえ、工藤君、前に言った事覚えている?」
「前に言った事?」
「うん、偶には休日に会ってくれるって事」
「うーん、日付さえ合えばいいよ」
「じゃあ、今度のGWのどこかで。前半か後半か。工藤君決めてくれると嬉しいな」
「今は分からないから近くになったらね」
「うん」
「じゃあ、俺ここで降りるから。また明日」
「うん、また明日」
よし、これで工藤君とデート出来る。優子が新入部員対応で忙しい間に決着付けないと。でも工藤君、家を継ぐってどういう意味だろう。実家で何か商売でもしているのかな?
翌日俺が教室に行くと隣に座る新垣さんが
「おはよ工藤君、私今日図書室当番なんだ。だからもし工藤君が今日も図書室に来るなら一緒に帰らない?」
「おはよ、新垣さん。図書委員勧誘の話でなければいいよ」
「あははっ、流石にそれはないよ」
「じゃあ、良いよ」
「工藤、新垣さん。朝から熱いねえ」
「小見川、何誤解しているんだ。一緒に帰るだけじゃないか」
「全く、工藤は世事に興味無いのか、疎いのか」
「どういう意味だ?」
「新垣さんは校内でも凄い人気があるんだぞ。ちょっと周りを見て見ろ」
俺は、小見川の言葉を聞いてクラスの中を見ると確かに男子達からの嫉妬の視線が痛い。やっぱり一緒に帰るの止めようかな。
「あの、新垣さん…」
「駄目よ工藤君。もう約束したんだから」
「…………」
参った。
予鈴が鳴り、図書室も閉めると新垣さんが職員室に鍵を返すというので下駄箱で待った。
そこによりによって、緑川さんがやって来た。
「あれ、工藤君。誰かと待ち合わせ?」
「うん…」
「工藤君、お待たせ」
「えっ?!」
新垣美優。学年では一二を争う人気のある子だ。どういう事?
「工藤君帰ろうか」
「ああ」
工藤君と新垣さんが一緒に帰って行く。工藤君、心菜と別れてからライバルは野乃花だけだと思って居たのに。まさか新垣さんが工藤君に近寄って来るとは。
不味い。私が新入部員の対応に追われている間に工藤君の周りに新しい変化が起きている。そう言えば野乃花が静かだ。まさか、私の知らない所で工藤君と会っているって事ないわよね。でも可能性はある。何とかしないと。
そうだ、GWに彼と会う事にすればいい。そうすれば状況が見えるかもしれないし、また工藤君と近づくチャンスになる。
俺は新垣さんと一緒に駅に向かっていると
「ねえ、工藤君。理系か文系か決めた」
「うん、一応理系にした」
「一応?」
「まだ、将来の事なんて分からないし、取敢えず今はこれで良いかなと思って」
「そうかあ、工藤君は理系か。じゃあ私も理系にしよう」
「えっ、だって新垣さん、将来何になるか決めているんじゃないの?」
「うん、工藤君と同じ。でも一つだけ決まっている」
でもそれはまだ言えない。
「ふーん、まだ高二なのに一つだけでも決まっていれば凄いよ」
「そうかな。まあ、工藤君のお嫁さんになるなんて希望もあるかも」
ごほっ、ごほっ
「あははっ、新垣さん、冗談がきついね。俺なんか、どうなるか分からないのに。もしかしたら、碌な仕事にもつけない駄目人間かも知れないよ」
「うーん、今の君を見ている限りそれは無いと思うけど」
「分からないよ人間なんてどうなるか」
実際、俺は次男坊ってだけで家を出された。普通の家庭じゃあり得ない。でもしきたりだって言うし。実際俺、どうなるんだ?全然将来図が見えないや。
俺達は駅に着くと
「俺、こっちだから」
「私は反対方向。じゃあ、また明日ね」
「うん、また明日」
私は工藤君と別れてから気が付いた。
あっ、いけないGWに一緒に会う約束入れないと。彼は他の人に絶対に渡さない。それが私の使命。緑川さんや門倉さんそれに水島さん、強敵だけど私だって容姿には負けない自信がある。
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