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第三十話 決断



 翌日、俺達は王都へ到着した。

 途中幾つかの障害はあったが全速力で飛ばして来た。

 一刻も早くアリアに会いたかったから。

 伝えたいことが沢山あったから。


 けれど、王都にアリアの姿は無かった。


「…………」


「剣聖は騎士団が早急に連れてくるって話だったわ。まぁ、騎士団のペースに合わせていたとしたら、あと数日掛かってもおかしくはないわね」

 

 俺とエマは、王城の一室に居た。

 王城に戻って来たエマは見張りの兵達に見つかり一時は大騒ぎになっていたが、今は既に落ち着いていた。彼女が勝手に抜け出すことはこれが初めてではないのかもしれない。

 

 部屋は広く、また照明一つ取っても村の生活に慣れた俺には気後れする程のものだったが、エマはそれらの価値を特に気にした風もなく、部屋に置かれたこれまた一つで村の家が恐らく十数軒は立ちそうな予感がするソファに無造作に座った。

 俺は立ったまま、壁に掛けられた絵を見たりして時間を潰していた。


「姫様!」


「どうしたの、そんなに慌てて。…………っ!」


 突然扉を開き現れた家令が、エマに耳打ちする。

 報告を聞いたらしいエマは顔色を変えた。

 家令に退室するように命じ、部屋には俺とエマの二人だけが残った。


「落ち着いて聞いて。剣聖は、スタンピードの対処に当たっているらしいわ」


 俺は部屋の扉へと向かった。だがより近い位置にいたエマが扉の前に立った。


「退いてくれ」


「待ちなさい。騎士団も対処している。スタンピードは危険だけれど、恐らくは彼らなら……」

 

「恐らく? 万が一があったらっ……!」


「話があるの」


 睨むようにしても、エマは目を逸らさなかった。

 俺は弾む息を大きく吸ってから、一歩扉から離れ、壁に寄り掛かった。


「…………頭に血が上ってた。ごめん」


「いえ良いわよ、心配なのはもっともだし。……それで、正式発表はまだだけど。伝承の通り、剣聖と勇者が揃った時点で、魔王が復活している」


 室内の気温が何度か下がった気がした。

 魔王。全ての魔物を使役する存在。全ての魔族を統括する人類の敵。


「剣神の加護を持っていたなら、勇者の旅について調べたりした?」


 両腕を組んだエマに問われ、俺は頷いた。

 剣神の加護から逃れるため、剣聖に関しての記録は漁り尽くした。

 

「じゃあこのことも知ってるわよね。剣聖や勇者は、最初から強い訳じゃない」


 知っている。

 剣聖や勇者はいわゆる、大器晩成という言葉で表されるタイプだ。

 多くの伝承における勇者と剣聖は、旅の序盤は仲間に助けられる描写が多い。しかし数年間の旅の中で力をつけ、やがて魔王を打倒する際には主力となって活躍する。


「それがどうかしたのか?」


「これは有力な仮説なのだけど。魔王も同じじゃないか、と言われているの」


「同じ?」


「魔王も、覚醒してから徐々に強力になっているんじゃないかってこと」

 

 記録においても勇者の旅が長引いた場合には、取り分け魔王が強力な存在として描かれている場合が多い。


「それで? それが何故、俺がアリアの所に行くのを止める理由になる?」


 俺は、焦る気持ちを留めるように、エマを問い詰めるような口調にならないように、極力穏やかに尋ねた。

 エマは一度唇を舐めた。



「今の貴方と私なら、魔王を殺せるわ」



 しばし、言われたことの意味が分からずに困惑する。


「は? ……え?」


「私、小さい頃から勇者になろうと思って鍛錬を続けて来たわ。騎士団長にもここ数年は負けてないし、加護を貰ってからは更に力がついた実感がある。十六歳まで戦いとは一切縁のない生活をしていた場合もあった歴代の勇者と比べると、それなりのアドバンテージは保証する。それに、何より」


 とんとん、とエマの足が床を叩いていた。


「ここに来るまでの道のりで、貴方の力は見させて貰ったわ。魔物と対峙した時と、盗賊を捕まえた時にね。……一体どうなってるの? まるで底が見えない。かと言って、加護に振り回されている感じもしない。本当に、己の手足のように加護を使っている。身体への負担も問題なさそうだし。まるで、」


 生まれた時から加護が使えたみたい。


「あ、」


 思わず自分の口を抑える。

 納得する。エマが何を言いたいのか。

 俺の異常性。十六年分の経験と、魔物の肉を喰い続けた結果強化された肉体。


「だけど、俺の力は……」


「そう、貴方は既に剣神の加護を失った。今はもう残滓が残っているだけ。それもやがて消えてなくなる。記録通りなら、およそ数日の間に。だから今だけが機会なの。歴史上未だ誰も為しえていない――魔王の早期討伐の。もし為されれば、どれだけの人が救われるか。貴方にも分かるでしょう」


 記録を見たことがあった。故に魔王が復活してから討伐が為されるまでに、世界各地で何が起きるのか。それは知っていた。


「……………………今から村に戻って、アリアを確保してから、魔王を倒せば」


「それじゃ間に合わない。今で恐らく成功するかの瀬戸際。それは貴方が一番分かっているでしょう」


「…………っ」


 必死に考える。

 魔物の暴走に襲われた村で、今アリアが戦っていること。

 通常の魔物相手なら、幾ら数が居たところでアリアが負けることは無いだろう。

 しかし、今は魔王が復活している。

 非常事態中の非常事態。

 何かイレギュラーが起きても不思議じゃない。


 異常な魔物に心当たりもあった。

 かつて森で出会った悪魔のような魔物。

 アリアの背中に癒えない傷を残したあいつのような存在が出て来た場合を考えると、急いで向かった方がいいのは明白だった。


 ……もし、ああいうのが複数出てきたら、幾らアリアといえど。

 最悪の状況が頭に浮かび慌てて振り払ったが、完全に拭い去れないくらいには俺はこの世界の残酷さを知ってしまっていた。

 

 だからこそ、魔王を可能な限り迅速に討伐することの重要さも分かる。大勢の人に俺やアリアがかつて味わったのと同じか、あるいはそれ以上の恐怖や死をまき散らす存在は、何としても止めなければならない。


「…………人類を盾に取るようなことをして、御免なさい。それでも、貴方にしか出来ないことです。どうか、お願いします」


 勇者であり一国の姫であるはずの少女は、床に膝を突き、額を擦りつけた。

 普段なら慌てて止めただろうが、そのことに気を配る余裕さえなかった。


「…………」


 選ばなければならないのか。

 世界か、彼女か。


「…………」


 俺がここに来た理由は、アリアに会いたいという気持ちだけだった。だから俺にとっての優先順位はまずアリアが一番に来て、他の全部は後回しだ。

 それでも世界のことなんてどうでもいい、と思えないくらいには、俺はこの世界に浸り過ぎた。

 

「…………選べるわけ、ない……っ」


 どっちかが欠けたら意味が無い。

 世界を選んでも、アリアがいなかったら、生きている意味が無い。

 アリアを選んで、何万人もの人が俺のせいで死んだことに気付いても、俺は多分生きていけない。第一、アリアに合わせる顔が無い。


 答えの出せる筈の無い問い、その出題者。


「――――良かった」


 エマが顔を上げていた。

 

「貴方が、悩んでくれる人で良かった」


 目線が合った。


「一つ、方法があるの。世界も女の子も救う、夢みたいな方法が。ちょっと型破りで、失敗したらあっさり世界は滅ぶかもしれない、悪夢みたいな方法だけど。どうする?」


 そもそも転生してから、悪夢以外の夢を見た記憶は無かった。



 お久しぶりです。

 無限にタイトルが変わります。今はこれでいこうと心に決めています。

 前回の二十九話について少し書き直しました。よろしくお願いします。

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