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第九話 魔物襲来

 警報の鳴った村の通りに、人の気配は無かった。

 静まり返ったそこを、アリアが駆けていく。

 たなびく青い髪を必死に追いかける。


「待てって!」


「なに」

 

 村の外れ、外壁の傍。

 何度目かの制止の声で、彼女は立ち止まった。


「どこ行くんだよ」


 アリアは、目の前の巨大な壁を見ていた。


「魔物のところ」


「何しに」


「殺すに決まってるでしょう」


 迷いなき瞳は、宙を睨み。


「あの叫び、かなり近かった。早く始末しないと村が危ない」


「俺達じゃ無理だ」


「じゃあ誰がやるの?」


「……自警団の人達、とか」


「無理よ。さっきの声、貴方も聞いてたでしょう」


 未だ耳に残る、村中に響いた遠吠えのような咆哮。

 確かに、普段は畑を耕している村の大人たちが、何とか出来るとは思えなかったが。


「だからって、俺らが命懸けで戦わなくても、逃げれば……」


「私たちは逃げ切れるかもしれない。でも、他の村の人達はどうするの? 恐らく麓の町まで逃げられない。下手したら全員死ぬわよ」


 アリアは淡々と、最悪の予想を告げた。


「……でも、戦うのは危険過ぎる。そもそも、俺が剣を教えたのは、お前の自衛の為で――」


「大切なものを護る為、でしょ。私にとって、家族の命は自分の命と同じかそれ以上には大事なの」


 親のいない前世と、半ば放って置かれている今世しか知らない俺は、自分の命より大事な物があるなんて信じられない。

 けれど、アリアの意思は固いようだった。


「貴方も一緒に来て。私一人だと、多分死んでしまうから」


「……何だよ、それ」


 そんなの、殆ど脅しみたいなもんじゃないか。

 平然とした口調で、淡々と告げるアリアは、覚悟を決めているように見えた。

 もし俺が断っても、一人で魔物の下へ行ってしまいそうに見えた。

 

「くそっ……」


 血が出そうな程に拳を握りしめる。


「くそっ……!!」


 判断は一瞬。

 震える膝を叩き、アリアの方へ一歩踏み出す。 


「必ず、必ず生きて帰るぞ!」


「ありがとう、助かるわ。私の命も、村の皆も」


 俺達が戦わなければ村が潰れる。知っている人が死ぬ。

 血を流し倒れ伏すアリアの姿が頭をよぎる。そのイメージは五年前にあの魔物と遭遇した時から、頭にこびりついていた。


 俺だって分かってるさ、逃げたら後悔するって。

 でも、怖いんだよ。

 勇気の無い、ただの凡人には。



---



「よいしょ、っと」


 俺はトントン、と靴の調子を確かめてから、村の外壁を少し勢いをつけ駆け上がる。


「えっ……」


 こちらを見ていた彼女がぽかんとした顔をした。


「思ったより、上りやすいな。外壁」


 たしか、五年前はよじ登ったんだっけな。あの頃の俺は、今のアリアよりも身体能力は低かった。ろくに鍛えてもいなかったし、加護の力一本頼みだった。……今から考えれば、よく生きて帰れたな。


「貴方といっしょにしないで。………っと」


 と、彼女は幾らか手間取っていたようだが、外壁の僅かな取っ掛かりを足場にして無事外壁の上へと登ってきた。

 誰かに見つかる前にさくっと外壁を降り、二人で村の外へと抜け出すことに成功する。

 やや感慨深そうに辺りを見渡していたアリアに、教会の裏から大急ぎで取って来たものを渡す。


「……これ、切れる」


「おう。手、注意してな」


 木刀を更に鋭く削り、石で磨き上げた俺渾身の一振りである。

 加護の力があっても、うまく剣として削るためには鋼の意志が必要だった。なんなら俺の鋼の意志で出来てるから実質鋼と言っても……過言ですね、はい。


 アリアはそれを軽く振ると、やがて納得したように小さく頷き、丁重な手つきで併せて渡した鞘に納め、腰に括り付けた。


「急ぎましょう」


「……ああ」


 もう後には引けない。

 


---



 鬱蒼とした森は、常よりも何か禍々しい雰囲気を醸しているようにも思えた。

 すぐに、茂みから飛び出してきた兎の魔物の群れと遭遇した。


「……おかしい」

 

 幾らなんでも、魔物と遭遇するのが早すぎる。

 魔物は未だ森の浅い場所に出現した。まるで、何かに追い立てられているかのように。

 

 いや。

 俺は首を横に振る。

 不吉な想像は後でいい。今は、目の前の魔物に対処しなければ。

 俺は牙を剥く魔物達を眺める。


 口元に小さな牙を生やしたこの兎の魔物は、森に生息する魔物の中では比較的楽な相手だが、数が多く常に集団で行動するため、場合によっては十分に脅威になりうる。

 

「ぎゃぎゃ」

「ぎゃぎゃぎゃ」

「ぎゃぎゃぎゃぎゃ」


 不気味な鳴き声を上げる魔物を前に、隣の少女が一歩前へ出る。


「任せて」


 こちらを見ずに言い切り、蒼い髪を風になびかせ、木剣を手に対峙するアリア。

 剣柄に手を掛けた彼女は、一つ深呼吸をすると、足を広げ腰を落とし、居合の構えを取る。

 そんな彼女に向けて、一斉に飛びかかる魔物達。


「――――すぅ。ッ!」


 ふわりと蒼い髪が舞った。


「「「――ギャギッ」」」


 空中で斬られた魔物が堕ちていく。彼女はじっと斬った魔物の死体を見つめ、確かに戦闘が終わったことを確認すると、剣を鞘に納めた。


 ……アリアの成長は、やはり異常だ。

 彼女に突出した剣の才能があることは、この五年間で確信に変わっていた。


「雑魚にかかずらっている暇はない。急ぎましょう」



---



 時折現れる兎の魔物を狩りながら、森の中を駆けていた俺達は、立ち止まった。


「…………っ」


 気が付いたアリアの視線に、頷く。


 空気に紛れる、微かな血と、獣の匂い。

 構えると、やがて魔物の群れが姿を現す。


 村で聞こえたの咆哮の主……狼の魔物だ。

 一匹一匹が、俺達よりも一回り以上大きな体躯を持ち、太く鋭い牙を剥いていた。

 

 この魔物は群れで出会った場合、森の魔物の中で最も脅威的な存在である、と村の書物には書かれていた。

 普段は三匹程度で群れを組むが、その対処は村の自警団総出で行われるものだ。それすら追い払うのが目的であり、討伐を目指すものではない。


 それが今、二十匹以上の群れを作って俺達の目の前に揃っていた。


 群れの中には一匹、一際大きな狼がいた。そいつは群れの他の個体の体毛が茶系色なのに対し、この世界の夜と同じ深い黒色をしている。群れの主だろうか。


 アリアは既に剣を構え、俺も自分の木刀の柄に手を掛けた。

 道中に倒した兎の魔物とは脅威の度合が違う。


 様子見のつもりなのか群れの主が一声鳴くと、端にいた1匹の狼がざり、と地を擦り群れから前に出てくる。


「――来なさい」


 木剣をするりと抜き放ったアリアの周りを、魔物はしなやかな筋肉を活かし、素早い動きで彼女の視界を目まぐるしく跳び回る。

 そして並みの相手では目で追うことさえ出来ない速度で、一撃を繰り出す。


 ガキン、と魔物の牙と木剣が打ち鳴らされる音がした。


 アリアが次の攻撃を繰り出そうとした瞬間には、もう魔物は彼女の剣の間合いから跳び退いていた。

 頭上の木の枝。傍の草むら。岩の上。

 縦横無尽に駆け回る魔物に、アリアは身動き出来ずに一つ舌打ちする。


 背中越しに木剣をかざし、なんとか魔物の攻撃をずらす。しのぐことで精一杯に見える。

 戦いは魔物に有利に動いているかのように思えた。

 だが。


「キャインッ!」


 次の瞬間、地面に着地した魔物が悲鳴を上げた。

 見れば、その腹部から鮮血が噴き出していた。


「――――見えた」


 片手に持った木刀の先を地面にだらりと垂らしたアリアは、キラキラとした虹彩を持つ金色の瞳を大きく開き、魔物を見つめていた。

 魔物が暴れた拍子に鮮血が飛び散ったが、瞬きすらせずにその様を観察している。

 ここから、手負いの魔物の攻撃は更に激しさを増した――だが、当たらない。

 彼女は最小限の身体の動きで魔物の攻撃を躱す、躱す、躱す。

 痺れを切らした魔物が嘶くと、一際大きく跳び上がり、彼女の小さな体躯へと飛びかかる。


 その瞬間。


「……――――疾ッ!」


 空中にいた魔物の首が落ちた。

 魔物の身体は、振り切った状態から静かに剣を下ろした彼女の後方へと崩れ去る。


「……っ……」


 軽く呼吸を乱しながらも、アリアは、剣を軽く振り、そこに付着した血を払いながら辺りを見渡し、


           「「「「「「「――――」」」」」」



 仲間を殺された、残り二十頭余りの魔物達の朱い瞳が、じっと自身を捉えていることに気が付く。

 気圧されたように、アリアは小さく息を呑む。だが彼女は、臆することなく剣を構え――その肩に、俺は手を置く。


「これ以上はやめとけ。あとは……俺が、やる」


 昨日投稿したつもりが、不具合で投稿できていなかったようです。すみません。

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