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第六話 生き延びた俺は決意する

 村の教会に置いてあった本曰く。


 この世界には魔王と呼ばれる存在が、数百年に一度の周期で誕生する。

 その時には神に選ばれた勇者と、剣神の加護を持った人間が魔王討伐に向かう。

 そういうことになっているらしい。


「……やりたくねぇな」


 あの魔物に襲われた日から数日後。

 村に一つしかない教会の裏で、座り込んだ俺は呟いた。

 ここは辺りに植えられた木々に視線を遮られ、おまけに静かで考え事をするにはうってつけの場所だ。


「……マジで、やりたくねぇな」


 こちとら平成に生まれ令和を生きたごりごりの甘ちゃん世代。前世では命懸けの戦いは論外として、派手な喧嘩さえもしたことがない。

 そして先日の魔物との遭遇で身に沁みた。


 俺には無理だ。


 せっかくチートを貰ったのに勿体無い? お前それ、殺され掛けて拷問みたいに傷口ぐちょぐちょやられて、痛みで髪の毛真っ白になっても同じこと言えんの?


 あの魔物に遭うまではいっちょ英雄になったろかと上がっていた気分も、雲散霧消。


 勇者の旅に行くことは、何としても回避する。


 剣神の加護は他者に譲り渡すことが出来るらしい。

 教会の本によると過去の勇者の旅において、旅の途中で重傷を負った剣聖が、弟子に加護を引き継がせたことがあるみたいだ。

 受け取る方も剣神の加護を受け取るだけの実力が必要らしいが、そんなの命がけの戦いの旅への恐怖にうなされていた日々と比べれば雲泥の差だ。


 俺は十六歳になるまでのあと十年の間に、加護の継承者を探せばいい。


 俺が今後の方針を確認して、必ず穏やかな将来を掴んで見せると一人拳を固く握り決意していると、


「――あ、ここにいた!」


 がたと教会の裏手の扉が開き、一人の少女が顔を出す。

 袖の所に刺繍の入った真っ白な修道服を身に纏い、長く伸びた金髪が太陽の光に輝く。


「どした少年、真剣な顔して! ついこの前までは気持ち悪い感じだったのに!」


 少女は教会のシスターだ。

 若くして村の教会を管理する優秀な人物だが、明け透けな物言いが心に刺さりやすい。


「気持ち悪いって……酷くないすか、幼気な子供に」


 まぁ、確かに異世界転生と神の加護に調子に乗ってた俺は、気持ち悪かったかもしれないけど。


「幼気な子供はそんなこと言わないよ!」


「っすかね……」

 

 彼女とは一人で教会に入り浸っているうちに話すようになった。俺が教会に通っているのは、ここが基本的に静かで考え事に向いているからという敬虔さとは無縁な理由だが、彼女はそれを特に気にした様子もなかった。


 俺に信仰を強制するようなこともなく、どころかたまにおやつをくれたり、書庫にあるこの世界では貴重品の本を好きに読ませてくれたりする。


「でも良かったよ。最近、ちょっと元気無さそうだったし」


「え? なんすか? 急に優しくなって。好きになっちゃうんすけど」


「あはは、いいんだよぅー。お姉ちゃんのこと好きになっても」


 あの日から色の抜けて白くなってしまった髪を、くしゃくしゃに撫でられる。


「そんなませた君にお客さん。お互い、完治してから会うのは初めてかな?」


 シスターの視線を追いかけると、先ほどシスターの出て来た扉から小さな影が現れる。


「――ヴァン? いるの?」


「……アリア」


 数日前俺と共に魔物から生き延びた、良く晴れた日の空と同じ色の髪をした彼女は俺をその黄金の眼に捉えると、ばっと扉から飛び出して来た。

 そして傍まで来たかと思うと、ぺたぺたと身体を触ってくる。


「……もう、どこも、わるくないの?」


「お、おう」


「…………」


 彼女の様子にやや動揺しながら俺が頷くと、アリアは忙しなかった動きをぴたりと止めた。そして次の瞬間、抱きつかれる。

 

「……~~!!」


 耳元で、言葉にならない嗚咽が聞こえた。

 背中に手を回し、俺は彼女の震える背中をぽんぽんと叩く。 


「アリアちゃん……。……本当、二人共無事でよかったよぉ!」


 泣きじゃくるアリアを見て、感極まった様子のシスターは、俺たち二人をまとめて抱き締めた。



---



 暫くして。


「……落ち着いた?」


「……ん」


 身体を離したアリアの目は未だ赤く、すんと鼻を鳴らした。

 シスターは少し前に教会の中に戻っていったので、ここには俺達以外に人は居ない。


「まものからにげずに、たたかおうとするなんて……。あんなむちゃ、ぜったいもうしないで。したら、もうにどとくちきかないから」


 心配せずとも、魔物の恐怖を知ってしまった今となっては、無茶をしようとはもう思えない。

 ……でも、というか。


「アリアの声が森の中から聞こえたから、俺は森に入ったんだけど。知ってるだろ、子供が一人で森に入るなんてほとんど自殺行為だ。だから無茶しないでとか、アリアに言われる筋合いはないような」


「……うるさい。わたしは、しょうがなかったの」


 後から聞いた話だが、アリアが村を抜け出し森に居たのは、妹の病気を治す為だったらしい。

 アリアの妹が病気がちなのは知っていたが、先日、突然病状が悪化。

 苦しむ妹と必死に看病する両親を見て、アリアは無断で村を抜け出し、万病に効くが魔力の濃い森の奥でしか取れず、幻の薬草とも呼ばれる神気草を取りに行く決意をした。


「せめて俺に先に言ってくれ。言ってくれたら、何か考えたかもしれないのに」


「だって、ついてくるでしょ。いったら。……まぁ、いみなかったけど。なんか、きづいたらいたし」


 すっかり涙の引いた様子のアリアが、髪をいじりながらしれっと言う。


「お前さぁ……」


 これでも、貴方様を助けようと必死だったんすけどね。

 納得いかない俺を見て、アリアはふふんと笑った。


「あれ、だれのとってきたじんきそうでたすかったんだっけ?」


「う……」


 確かにアリアの採ってきた神気草は、当初の目的通りアリアの妹と、そして俺と彼女の背中の傷の治療に使われた。お陰で二人共今こうしていつも通りで居られているが。

 そもそもアリアが森に入らなければ俺もアリアも死に掛けるような怪我をしなかったというのは……今は置いておくか。


「じょうだんよ」


「え?」


「さすがのわたしも、あのときはしぬかとおもった。かんしゃしてるわ」


 アリアは表情を真剣なものにした。

 

短くてすみません。

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