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探索者  作者: 羽帽子
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第79話:「探知スキル……優秀」

「サーシャ! 後ろからもう1匹来るぞ!」


 前方のキラーワスプをファイアアローで倒し、ホッとした表情のサーシャだったが、俺の声に驚いて慌てて背後を振り向く。

 俺とドルチェもすぐにサーシャを守る位置に走った。

 魔法を発動するにはそれなりの集中が必要なので、その間無防備になるサーシャを守る事が重要になってくる。

 どうやら『探知』スキルのお陰で不意打ちを喰らわなくて済んだみたいだ。


「よし! いくぜ! ファイアアロー!」


 魔法の発動と同時に横へと飛ぶ。

 味方の魔法で大怪我をするのは御免だ。

 先程『風トカゲ』を一撃で倒せなかったのが余程悔しかったのか、今まで以上に集中力が高まっているサーシャの放った攻撃がキラーワスプの身体に見事突き刺さった。

 止めを刺す必要も無く、煙になって消えていく。

 ドロップアイテムを拾って俺に手渡してくれたドルチェが感心した顔を向けてくる。


「探知スキル……優秀」


「あぁ、助かったぜ!」


 サーシャも何だか少し尊敬の眼差しを向けている。

 探知スキルをゲットした事によって格段に探索がし易くなった。

 先制攻撃のチャンスが増えるのも嬉しいが、それ以上に不意打ちを喰らう危険性がグッと減った事が何よりも嬉しい。

 魔物の攻撃から彼女達を守るのが俺の役割だと思っているので、ずっと手に入れたかった念願のスキルに改めてフツフツと喜びが湧いてきた。

 盾スキルに続いての神様からの貰い物ではないスキルの取得は自信にも繋がってくる。


「やべぇ……、なんかシュンがカッコよく見えるぞ!?」


「シュンにぃは……最初から格好良い」


 今までサーシャは俺をどういう風に見ていたのかが凄く気になる。

 それにドルチェの言葉は嬉しいが、最初の頃の俺は自分でも情けないと自覚していたので、正直微妙な感じだ。


 その後も順調すぎるくらいスムーズに探索が進み、ボス部屋へと到着した。

 今までの傾向からおそらくボスはキラーワスプと同じハチ型の魔物だと推測できるので、サーシャが見た目にも分かるくらい気合が入りまくっている。


「ブッ放すぜ~!」


「飛ぶ魔物は……苦手」


 逆にドルチェはテンションがちょっと低い。

 ただでさえ小柄なドルチェにとっては、飛行型の魔物は確かに鬼門だろう。

 しかも動きが素早いので、俺も攻撃を防ぐのがやっとだ。

 攻撃してきた時を狙って盾で叩き落そうと試みたがなかなか上手くは行かなかったので、今回は防御に専念しておこう。

 キラーワスプとの戦いと同じく、いかにしてサーシャを守るかにかかっている。

 盾を持っていないドルチェにとってはかなり困難な戦いになりそうだ。


「それじゃ、開けるよ」


 準備を整え、扉を開けて中へと足を踏み入れる。

 すぐにサーシャが杖を掲げて精神を集中させている。

 そのサーシャを守るように俺とドルチェが両脇を固めると、部屋の中央に紫色をした毒々しい風体のキラーワスプに似た魔物が現れた。


「『ポイズンワスプ』……。毒持ちだからドルチェも少し下がって。防御は俺が引き受ける!」


「毒消し薬……ちゃんと用意してある」


 以前ドルチェが毒状態になった時は本当に寿命が縮む思いだったので、それ以来『毒消し薬』は常にいくつかストックがある。

 最悪の事態にはならないと思うが、喰らわないのが一番なので俺も防御に意識を集中させる。


「ファイアアローッ!」


 ドルチェが先制攻撃を仕掛けるがギリギリのところでポイズンワスプにかわされてしまった。

 流石にボスなのでキラーワスプよりもずっと素早い。


「ジャイアントバットの時も思ったけど、……早すぎだろ!」


 ジグザグに軌道を変えながらこちらへ向かって高速移動してくるポイズンワスプの一撃をなんとかやり過ごすが、とてもじゃないが攻撃をする余裕がない。

 ドルチェもあちこち逃げ回る方が逆に危険だと感じたのか、俺の背後に逃げ込んでいる。


「チッ……。あたいの杖の動きを見てやがる。隙が全然ねぇ」


「隙……、あ、そうか!」


 俺は右手に持っていた剣を鞘に戻すと、アイテムボックスからナイフを取り出す。

 あの素早い動きのポイズンワスプ相手では流石に当てる事は無理だが、これなら隙を作るだけなら可能かもしれない。

 問題は投げるタイミングだ。

 ナイフは2本しか持っていないので、ただ闇雲に投げても牽制にすらならず無駄になってしまう。

 攻撃を仕掛けてくる瞬間か、攻撃をした直後が狙い目だろう。

 防御に集中しつつタイミングを計る。

 相当難易度が高そうだがこのままでは一方的に攻撃されるだけだ。

 しかも毒を持っている相手なので、長引いたらそれだけこちらが不利になる。


「サーシャ。ぶっつけ本番になるけど、なんとか隙を作るから……。頼むぞ!」


「おう! やってやるぜ!」


 ポイズンワスプの動きだけに全ての意識を集中させる。

 他の魔物による乱入の心配が無いので、ボス戦で助かったかもしれない。

 的を絞らせないように飛び回っていたポイズンワスプから、一瞬もの凄い殺気がぶつけられるのを感じた。


「……ッ!」


 その瞬間、俺の手からナイフが放たれていた。

 羽を掠めてほんの僅かだがポイズンワスプの身体がぶれる。

 その事が逆に俺に不幸をもたらしてしまった。


「シュンにぃ!」


 攻撃の軌道がズレた為に構えた盾をすり抜けてポイズンワスプの尖った針が俺の右肩を掠める。

 どちらも掠めた程度のダメージだが、向こうは毒持ちだ。

 ドルチェの切羽詰った声が聞こえてくるが、俺にはまだやる事がある。

 攻撃を終えて距離を取ろうと背中を見せたポイズンワスプに向けて2投目を投げる。

 今度も羽を掠めただけだったが……、とうとう隙ができた。


「ファイアアローーッ!!」


 サーシャの魔法がポイズンワスプに炸裂し、地面へと落ちてくる。

 止めを刺そうと剣を抜こうとしたが身体に力が入らない。


「ドルチェ……、とどめだ!」


 俺のところに駆け寄ろうとしていたドルチェにかすれた声で指示を出すと、すぐに彼女は再び飛び立とうとしていたポイズンワスプに渾身の一撃を叩き込んだ。

 それをなんとか見届けるが、視界もグルグル回っていて気持ち悪い。

 アイテムボックスから毒消し薬を取り出すが、手に力が入らないので地面に落としてしまった。

 幸い割れはしなかったが自力で薬を飲むのは難しそうだ。

 あの時のドルチェの苦しみを身を持って体験してしまったが、想像以上の辛さだ。


「シュンにぃ……、口を開けて!」


 ドルチェの声になけなしの力を振り絞って口を開けると、小瓶に入った液体が流し込まれた。

 あまりの苦さに吐き出しそうになるが、ドルチェの瞳に浮かんだ涙を見て一滴残らず飲み干した。

 毒消し薬が飲み薬で本当に助かった。

 もし、これが丸薬とかだったら飲み込む事ができずに死んでしまう人もいたはずだ。


「ドルチェ、シュンを早く安全な場所に移動させてやろうぜ。いつまでもここにいると頭が割れそうになる……」


 ボスを倒した後のボス部屋には瘴気が充満しているので、すぐにでも次の階層の小部屋に移動した方が安心だ。

 俺も立ち上がろうとするのだがまだ身体に力が入らないので、左右から支えられてやっとの事でボス部屋から脱出する事ができた。


 ドルチェの時と違って服を着替える必要がないので、そのまま迷宮の外へ出る事になった。

 「大丈夫だから探索を続けよう」と言っても、きっとドルチェもサーシャも大反対だろう。

 話したりする分には問題ないくらいには毒が消えたのだが、まだかなり身体がダルいので早く宿屋に戻って横になりたい。

 リンがいたら解毒の魔法をかけて貰おうと思っていたのだが、周りを見渡しても姿が見えなかったので、大人しく馬車に乗って街へと戻る事にした。

 明日はドルチェが鍛冶をする日なので、ドルチェもサーシャもしきりに「明日は休もう」と言ってきたが、その言葉に甘えるのは何だかあまりにも情けなかったので断った。

 心配してくれるのは嬉しいのだが、ドルチェだって毒になった次の日も迷宮で大暴れしていたのに俺がのうのうと休むわけにはいかない。


「シュンにぃは……意外と頑固」


 馬車の中でドルチェに寄り掛かっていると溜息混じりに呟いている。

 明日、ドルチェも迷宮に付いてくると言い出したので、ちゃんと鍛冶をするように説得したのだがまだちょっと不安そうだ。 


「アイテム……ぼくが売ってくる」


 それだけは譲れないといった顔なのでお願いする事にしたのだが、『風魔石』を売るかどうかはまだ迷っている。

 他の属性の魔石ならこんなに悩まないのだが、風魔石はどうしても手に入れたい『防音の魔具』の素材だ。

 ドルチェの母親のカリアさんが実は結婚する前は魔具職人だったらしく、鍛冶をする合間にいろいろと魔具についても教えて貰っているので、魔石さえあればカリアさんに手伝って貰って魔具が作れるそうだ。


「探知スキルを覚えたから、今まで以上に属性トカゲは見つけられるよね」


「……『専属』」


「あぁ、専属の話が来たらシェリルのお金の心配も無くなるかぁ……」


 だが、専属の話が来る確証は全然ないので、ここは確実に資金を貯めた方が良いかもしれない。

 今回の『風魔石』を売れば、すぐにでも家を借りる事が可能になる。

 それに、魔石をギルドに売った方が専属になれる可能性も高まるだろう。

 魔石には寿命があり、時間が経てば経つほど値段が下がってしまうので売るつもりなら手に入れてすぐに売ってしまった方がお得だ。

 馬車がダーレンに到着するギリギリまでドルチェと話し合った結果、今回『風魔石』はギルドに売る事にした。


「いつか、思う存分作らせてあげるからね」


「……約束」


 まだまだ楽観はできないが、その日はそう遠くないだろう。



読んでくださりありがとうございました。

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