表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探索者  作者: 羽帽子
69/118

第68話:「お部屋はどうしますか~?」

 翌日、食堂の手伝いを終えたエミリーと一緒に門の前でサーシャを待っているのだが、昨日から頬が緩むのを止められないでいた。

 意味も無くアイテムボックスから盾を取り出しては左手に装備して妙な素振りを繰り返す。


「シュンさん、本当に嬉しそうです~」


 隣のエミリーがクスクス笑いながら優しい目を向けてくれる。

 昨日宿屋に戻ってから『盾』スキルを取得出来た事を話すと、自分の事の様に喜んでくれた。

 その日の夜のサービスは凄かった。

 思い出しただけでも股間が疼いてしまう。

 ドルチェも報告した当初はエミリーと同じように褒めてくれたのだが、あまりにも俺が暇さえあればニヤニヤした顔で盾をブンブン振っているので最後は「うざい……」と怒られてしまった。


「あ、馬車が来ました~! あれにサーシャさんが乗ってるのかな~?」


 乗合馬車を見つけたエミリーがそわそわしだす。

 心待ちにしていたサーシャとの対面に尻尾をブンブン振って若干興奮気味だ。

 馬車が止まりサーシャが飛び出してきて背伸びをしている。


「サーシャ、こっちこっち!」


 俺の声に気付いたサーシャがこちらに走ってくるが門番のガルスさんに制止されていた。

 傍に近付くと「ドリスじゃ顔パスなのに!」と頬を膨らませて探索者確認用の水晶玉に手を置いている。


「お、シュンじゃないか。この元気な嬢ちゃんはシュンの知り合いか?」


「はい、俺の仲間のサーシャです。今日は探索は休みなので街を案内してあげようと思って」


 ガルスさんにサーシャを紹介する。

 門番の人に顔を覚えて貰うといろいろ融通が利くようになるので結構大事だ。

 チェックが済んで街の中に入った所でサーシャとエミリーを引き合わせる。


「初めまして~! エミリーって言います。シュンさんとドルチェちゃんがいつもお世話になってます~」


 ペコリと頭を下げたエミリーの犬耳を見ていたサーシャも慌てて自己紹介をする。


「あ、あたいはサーシャってんだ! シュンはそうでもないけど、ドルチェには世話になりっぱなしだ!」


 何故か胸を張って情け無い事を自慢気に話すサーシャ。

 目をパチクリさせたエミリーがそんなサーシャを見て楽しそうに微笑んでいる。

 俺だってちょっとは世話をしてあげてると思うのだが……。

 ちょっと哀しくなってしまったが、笑い合っている2人を見ると細かい事はどうでもよくなってきた。

 エミリーは今日は午後2の鐘が鳴るまでは一緒に居られるそうなのだが、サーシャがいつ頃まで居られるのかは聞いてなかったので尋ねてみるとちょっと照れくさそうに頭を掻いている。


「あ、いや、それが……親父達が『いつかはこの家を出るんだから今のうちに慣れておけ』って言いやがってさ。今日はこっちに泊まる事になっちまったぜ!」


 旅行どころか自宅以外に泊まるのが初めてらしく、俺達と同じ宿屋に泊まる事になって何故か照れまくっていた。


「お部屋はどうしますか~? 1人部屋も空いてますし、シュンさん達と同じ部屋でも構いませんよ~?」


「いや、エミリー、それだとベッドが2つしか無いんだけど?」


「あたしとシュンさん、ドルチェちゃんとサーシャさんが一緒に寝れば大丈夫じゃないですか~」


 いつも2人部屋なのに3人で寝ているのでエミリーの感覚が麻痺してしまっているみたいだ。

 サーシャの目が点になっている。

 そんなサーシャにエミリーが嬉々として俺達の関係を説明すると、サーシャが「不潔だ不潔だー!」と騒ぐので周りの視線が痛かった。

 何とかサーシャを宥めて話し合った結果、気が付けば俺が1人部屋で寝る事になってしまった。

 どうやら今夜は女性陣だけで交流を深めるらしい。


「部屋割りも決まったし、街を案内するよ。サーシャは行ってみたい所ってある?」


「ん~……、何があるのかすらあたいは知らねぇしなぁ。あ、そうだ! ドルチェって今工房に行ってるんだよな? あたい、そこに行ってみたい!」


 瞳をキラキラさせてそんな提案をしてくる。

 まるで今から恋人にでも会いに行くかのようなはしゃぎっぷりだ。

 ちょっと引いてしまったが俺も鍛冶をしているドルチェを見てみたかったのでOKする。

 するといきなりエミリーが大声を上げた。


「あ~! 忘れてました~!」


 エミリーが何か思い出したのか申し訳無さそうに俺達を見る。


「お父さんから孤児院に居るミナさんとミルさんに伝言を頼まれてたんでした~!」


「伝言?」


「はい、昨日審査の結果がきて2人を雇う許可が下りたんですよ~! 彼女達は3日後には15歳になっちゃうのでその前に来て貰いたいそうです~」


「15歳になったら『孤児奴隷』にならないといけないんだっけ?」


「ですからその前に彼女達を奴隷ではなく養女として引き取りたいみたいですね~」


 エミリーは俺にべったりだし、ターニアさんも近々バードンさんの家に押しかけるそうなので、急に2人も愛娘を取られた形になってしまってゼイルさんもマーサさんもきっと内心寂しいのだろう。


「そのうちあたしとお姉ちゃんの部屋は彼女達に使って貰う事になりそうです~」


 何か訴えるような目をしているので安心させる為に頭を撫でる。


「頑張ってなるべく早く家を借りれるようにするから」


「あ、あたいもその時は一緒だぞ!」


 仲間外れは嫌だとばかりにサーシャがアピールしてきた。

 そんな俺達を見てエミリーは嬉しそうだ。


 ドルチェが居るベルダ工房へ行く途中、昨日忘れていた今週の分のお金をサーシャに渡すと、手のひらに乗せられた銀貨5枚にサーシャが目を見開いて驚いている。


「こ、こんなに良いのか!?」


「これでも家とシェリルを買う分の積み立てを差し引いた金額だよ。ドロップアイテムとドルチェが作った武具を売ったら結構稼げたみたいだね」


 他の探索者達がどれくらい稼いでいるのか分からないが、10階層を突破した事でこれからはもっと沢山稼げそうだ。

 まぁ、殆どドルチェ頼みな所もあるのだが……。


「シェリルってのは? 初めて聞く名前だぜ」


 首を傾げるサーシャにシェリルの事を説明した。

 孤児と聞いてサーシャの瞳が潤んでいる。


「グスッ、……分かった! あたいもその子を仲間にするのに大賛成だぜ!」


 どうやら家族の絆が強い彼女はシェリルと自分の弟妹達を重ね合わせているみたいだ。

 積み立てのせいでサーシャに渡せるお金が少なくなってしまった事を謝る。


「そんなの気にすんなよ! 足りなかったらあたいの分を減らしても良いんだからな!?」


「サーシャ、ありがとう。でも、そんな心配をしないで済むくらいこれから頑張っていっぱい稼ごう」


 そんな盛り上がっている俺達をエミリーが羨ましそうに見つめている。


「エミリーも俺達の立派な仲間だよ。だからそんな顔しないで」


「そうだぜ、エミリー! 疲れて帰ってきた時に『おかえり』って言ってくれる人が居ねぇと張り合いがねぇしな! それにシュンから話を聞いてエミリーの料理を楽しみにしてるんだぜ?」


「サーシャさんも料理出来るんですよね? 今日一緒に作りたいです~!」


 サーシャは自分が料理スキルを持ってるのをエミリーが知ってる事に一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに俺の顔を見て「勝手に『鑑定』しやがって!」と睨んでくる。


「あたいのは田舎料理だから、期待すんじゃねぇぞ!」


 そう言いつつも同年代の女の子との料理に嬉しさを隠せない様子だった。


「それよりも、さっきから気になってたんだけど……。何でシュンはずっと盾を振ってんだ?」



読んでくださりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ