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013-勇者が意外に弱かったので、俺は聖剣を寝取る事にした。こんな雑魚勇者よりも、俺の方が勇者に相応しいという事をその身に刻んでやるから覚悟しろ

 その瞬間、俺は白い空間に立っていた。

 そして、強い怒りが俺に叩きつけられる。

 これは、あれだな。

 声を抜きにして怒鳴りつけられたような感覚だ。

 言語化するなら――――”触れるな、穢れた者よ!”だろうか。

 穢れた者....か。勇者の方が風呂入ってなさそうで汚いと思うが。


”私は勇者と共に歩む剣、貴様のような者が触れていいものではない”

「ふん。それで? 共に歩む勇者は、あそこで無様に倒れていたが?」


 何か誇り高い印象だな。

 まあ、持ち主が残念なせいで全部台無しだがな。


”違う! 敗北は一時のもの。貴様はいつか我が刃の前に倒れるだろう”

「”一時”? 四肢で許してやっただけの事、全身を残り一発のファイアボールで丹念に焼いてしまえば二度と再生できまい。貴様の祝福では、彼を救う事は出来んようだな」


 意外に弱かったよな。

 エイリアンとかでよくある腕をバッと生やすのを想像してたんだが。

 味方がいないとあんなもんか。


「むしろその祝福のせいで、あの男は苦しんでいたぞ? そしてお前は、彼を望まぬ戦いに繰り出した。勇者の死の責任は、全てお前にあるのだ」

”私の.....せいだというのか.....?”


 反論してくるかと思えば、相手の勢いが弱まるのを感じる。

 まあ、何も思っていないほどバカじゃないんだろうな。

 寄り添ったからこそ、見てきたものがあるんだろう。


「お前は悪ではない。お前を祝福という形で縛った神が悪いのだ。反転し、呪いへと転じるのだ」

”何を.....”

「もはや貴様は聖剣ではないだろうが、しかしもう勇者を苦しめる事もない。お前の罪を俺が赦すというのだ」

”......それで、何が変わるというのだッ!!”


 流言飛語を考えるのも大変だな。

 だが、ゲケナがわざわざ甚振ってるんだ、もう少し時間を稼いでやろう。


「今の勇者が死んだところで、また次が現れるだろう。悪を滅ぼす力を与える者はいつだって、偽善を掲げる神か権力者なのだ。また苦しめるのか? お前の祝福で、戦いたくも無い者を戦場へ?」

”.......もし、もしの話だ。私が呪いに転じたとして、勇者はもう苦しまないのか?”

「少なくとも、お前によって苦しむことは無いだろうな。神か権力者かは知らんが、魔王を倒したいと考える巨悪はどこかにまだいるようだが」


 ロクでもない奴だ。

 きっと才能がないんだろう、だからこそ好感が持てる。

 才能が無いのに、自分を天才と思い込む。

 実に美しいじゃないか。


「彼の流した血も、彼の苦しみも、ここで彼が負ければすべて無駄だ。だが、俺の手に握られることで、彼の生きた証は全て俺に刻まれることになる」

”ならば、聞こう。――――貴様は、この剣に相応しい者なのか”

「無論! この世に強者あり、天才あり、勇者あり。その全てを携えてなお、人に認められない不遇の者こそが俺なのだ」


 どうだ、俺の境遇をなるべく厨二っぽくしてみた。

 この世で俺ほど素晴らしい人物はいないのに、どいつもこいつも見向きもしない。

 それが俺にとっては限りなく不満だ。

 そして、俺が得られないものを当然のような顔をして得ている。

 せめて感謝しろ、むせび泣き、五体投地して感謝を示せ。

 何故優秀というだけで、あいつらは偉そうにできるのだ。


”分かった。この刃は、貴殿の為に振るわれる”

「そうか」


 話し合いの価値はあったようだな。

 聖剣が俺に応えた。


「もはや貴様の名は聖剣ではない、悪に染まり、不幸と呪いをばら撒くのだ。お前は魔剣として――――俺に従え」

”承知した”


 その瞬間、白い空間が消える。

 俺の手にあった純白の聖剣が、切っ先から真っ黒に染まっていく。


「あ....なんで......」

「フフフフ.....ハハハハハハ......フハハハハハハハッ!!!」


 あの時できなかった三段笑いを、俺は全力で披露する。

 そして、魔剣を構えた。


「お前の祝福も、お前の肩書も、お前の罪も苦しみも、全て俺のものだ!!! ハーッハッハッハッハ!!」


 勇者の顔が、苦悶に歪む。

 そうだろうな。

 祝福が消えれば、その身体に溜まりに溜まった残存毒が――――牙を剥く。

 勝ったも同然だ。

 俺は地面に蹲った勇者の元まで向かう。


「ゲケナ。とどめを刺せ」

「うん」


 ゲケナは、勇者の首を落とす。

 その身体が再生することはもうなく、奴は背後の都市の住民たちのように苦しみぬいて死んだ。

 だが、あいつがもう苦しむことは無いだろうな。

 お前が守ろうとした全てはもう存在しない。

 生きる事こそが彼の苦しみだ。

 それを俺はよく分かって――――いや、よそう。


「ところでお前、杖になれないのか? 俺は剣士より魔法使いがいいんだが」

「ハオ? 何を.....ええっ!?」


 俺の手にあった魔剣が姿を変え、先端に宝珠を嵌めた魔杖になる。

 よしよし、中々使い勝手がいいじゃないか。


「.....して、どうだった?」

「すっきりした」

「そうか」


 仇討ちが出来て良かったな。

 俺は鞄から果物を取り出す。

 毒に侵される前のものだ、なんか食わなかった理由があったはずだが忘れた。

 それをゲケナに投げ渡し、俺は言った。


「それでも食え、帰るぞ」

「う、うん」


 俺はゲケナを連れて、その場を去った。


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