第42話 アルフ王
神の神殿
数日前より、地下世界の悪魔達が天界へとやってきた。
ただの悪魔ではない。
悪魔の王達である。
その報告を聞いたアルフ王は、顔色1つ変えず、天界を守る兵を向かわせた。
天界に住む非戦闘民達をすぐに緊急避難させる。
この世界が始まって以来、天界で直接の戦闘が行われるのは初めてである。
そんな事態であっても、アルフ王に動揺は見られない。
彼は神より創られし“一の時”より生きる者。
創られた時から、彼は世界を調整することを神の意思として受けて生きた。
彼は天界に妖精と人間を住ませた。
妖精は同じく一の時より創られし者達以外は、全てアルフ王によって作られた。
だが、人間は違った。
アルフ王は人間がこの地にいることを知った時、戸惑いを覚えた。
自分はこんな存在を作ってはいない。
神より創られし一の時から生きる者でもない。
人間とはいったいどこからやってきたのだ?
だが、人間は存在し、それは世界の一部として生きていた。
世界を調整する彼にとって、人間も自分が管理し調整する者達と判断した。
神は悪魔も創られた。
その者達は、地下世界へと堕とした。
その姿、暴力、思想は世界を調整する上で不要だと判断したからだ。
彼にはその力があった。
世界を調整する自分は、まさに神の代行者である。
彼はこの意思を自分に授けてくれた神に感謝した。
だが、次第に彼は崩れていった。
どんなに世界を調整しようとも、人間達も、自分が作った妖精達ですらも、自分の理想とする世界にはならなかった。
彼と同じく一の時より生きる者達にいたっては、彼の言葉をまったく無視する者さえいた。
彼は悩んだ。
世界を調整するという神の意思を授かった自分は、力不足なのだろうか?
自分ではダメなのか……もっと相応しい者がいるのではないか。
彼は唯一、神との謁見が許された者だ。
彼は神に問うた。
私は世界を調整する者として相応しいのかと。
神は何も答えない。
彼は数百年、数千年の時の中で、繰り返される生命の営みを見て調整していった。
自分の導きがなければ、生命は、世界は生きられないと信じていた。
だが、ある日、彼の友人の一言で全てが壊れ始めた。
「君が世界を調整しなかったとして、何か不都合が生じるのかい?」
彼は友人の言葉を聞いて、100年ほど世界の調整をやめた。
そして見てしまった。
世界は彼の調整無しでも生き続けた。
悲しさ、不安、絶望、恐怖、憎悪といった感情は、彼が世界を調整していた頃よりも増えた。
増えたが、世界は生き続けた。
彼はさらに壊れていった。
彼は再び神に問うた。
世界を調整するとは?
世界とは?
生命とは?
神は何も答えない。
彼は気付いた。
自分は世界を調整している。
だが、その自分もまた世界に生きる存在の1つに過ぎない。
自分がいなければ、世界は歯車の1つを失うが、それで世界が壊れるわけではない。
世界は生き続ける。
彼は世界の調整を再開した。
再開したが、彼は壊れていた。
いや……彼は壊れていたのか?
彼も世界に存在する1つの生命とすれば、彼が行うこともまた世界の1つである。
彼は世界が終わりを迎えるように調整を始めた。
そんな彼を見て友人は言った。
「今夜、神の庭園に誰か入っていくかもしれないな~……何かを食べにくるんじゃないかな~」
彼は友人の言葉を聞いても、何も動かなかった。
彼は“人間”の存在が一番不安だった。
人間に祝福が与えられていることが、最も彼の中で不安定要素だったのだ。
その日のよる、蛇の導きによって1組の男女が神の庭園に足を踏み入れる。
そして、知恵の果実を女性が食べてしまう。
女性はその知恵の果実を男性にも食べさせた。
翌日、人間は大罪により天界への道を閉ざされ、聖樹王の祝福を受けられなくなった。
彼は世界が終わることで、自らに寿命を作った。
人間達や、作られた妖精達には寿命がある。
その寿命が終わる時、彼らは世界から解放される。
自分も解放されよう。
彼はそう思った。
この世界を支えているのは、聖樹王。
そしてバハムート。
どちらも神より創られしもの。
どのような神の意思を受けているのか不明だが、世界を調整する自分の力を使えば、聖樹王とバハムートの“命”を減らしていくことは、少しずつ出来た。
彼はその命を自らの寿命と定め、世界を終わらせることにした。
聖樹王とバハムートの命を減らし始めてから、神が揺らぎ始めた。
神と繋がる一の時より生きる者達には、それが分かった。
アルフ王に、神の揺らぎに対する問い合わせをする者達は多かった。
その中には、アマテラスの姿もあった。
だが、アルフ王は神に問題は何もないとした。
最も、神と謁見することを許されているのはアルフ王だけである。
何を言おうとも、アルフ王からそう言われれば、誰も何も言えないのだ。
神の揺らぎに最も懸念を示したのはアマテラスであった。
アルフ王から、自分の妻となれば神への謁見を許してやってもいいと言われたが、アルフ王のことがあまり好きでなかったアマテラスは断った。
そもそも、彼の妻になったからといって、神との謁見が許されるとは思わなかった。
それは彼が決めることではないのだから。
彼女は己の力を高めることに時間を費やし、46年前に信じられないことをやってのけた。
異なる世界からの魂の召喚
アルフ王もそれが不可能だとは思っていない。
自分も力を使えば可能だろう。
だが代償があまりに大きすぎる。
それほどの力を使えば、少なく考えても10年以上は力を失うだろう。
事実、彼女はその後20年近く力を失い眠りについた。
その間、1人の男性が彼女を守り続けたことも、アルフ王にとっては意外な行動ではあったが。
彼女がなぜ人間に、そこまで力を貸すのか理解出来なかった。
だが、理解する必要もなかった。
世界は終わりに向かっている。
それを止めることは出来ないだろう。
世界が終わりを迎えた時……新しい何かが始まるのか。
それは彼にも分からない。
分かる必要はない。
彼は自らの解放に向かって進んでいくだけ。




