第21話 茨の剣
「え?」
お父様ともう1つの魔力を感じて、奥でオーク達のボスとの戦いが始まったと思ったその時、突然現れた大蛇。
まるで山のようなその大蛇に私は恐怖した。
私では絶対に勝てない相手だとすぐに分かったから。
その大蛇にリンランディア様が向かい戦闘が始まった。
リンランディア様の援護無しでも、もうこいつを倒すのは時間の問題と思っていた。
でも、突然ルシラの力が失われた。
「ルシラ?!どうしたの?!」
ルシラの魔力は感じる。
でもおかしい、何か苦しんでいる。
ルシラの魔力が暴れて苦しんでいるのが分かる。
「くっ!」
豚が、刀を失った私に突撃してくる。
豚だけど馬鹿じゃないこいつ、ルシラから力がなくなった好機を逃すはずはない。
電光石火で動く私を捉えることなんて出来ないだろうけど、こいつなんかのことより、いまはルシラが心配。
どうしたの?どうして苦しんでいるの?
私はルシラがいつも私に流してくれる優しい魔力をイメージして、ルシラにその魔力を流す。
でも私の魔力は届かない。
何かに遮られている。
どんどん苦しんでいくルシラ。
ルシラから溢れる魔力が弾け飛びそうになる。
「ルシラ!」
私はルシラを胸の中に抱きかかえて、爆発する魔力を受け止めようとする。
でもその爆発に私は耐え切れず、ルシラを手放してしまう。
「うう……」
暴れ狂ったルシラの魔力に、私は吹き飛ばされてしまった。
そして豚が、私のルシラを握る。
「おまえ……私のルシラに触れるな!」
私はルシラを取り返そうと構えた……その時。
豚に握られたルシラの形が変わっていく。
私の雷神刀のように、ルシラの力で作られているんじゃない。
ルシラそのものが形を変えていく。
「ああ……ルシラ!」
私は変わりゆくルシラをただただ呆然を見ていた。
おぞましい笑い声をあげる豚。
その手には、まるで呪いのかかったような、茨のトゲを生やした恐ろしい1本の剣が握られていた。
美しい刀だったルシラが、恐ろしい茨の剣となってしまったのだ。
私はその姿に涙した。
茨の剣となったルシラを握り、豚が私を襲ってくる。
ルシラの魔力爆発を受けた私の動きは鈍い。
致命傷ではないけど、お腹のあたりに力が入らない。
電光石火での速さも落ちている。
茨の剣が私の皮膚を切り裂く。
剣の軌道を完全にかわしたと思っても、トゲが私の皮膚を突き刺す。
「はぁはぁ……はぁはぁ……」
ルシラから流れてくる無限とも思える魔力に頼っていた罰だ。
ダメージを負ったとはいえ、電光石火を使う度に私の体力はみるみる減っていく。
ルシラ無しで、あの鬼神や白蛇の特訓をしていたベニちゃんとラミアのように、私は自分だけで電光石火を使いこなせていない。
「ルシラ……ルシラ!」
私は何度も名前を呼ぶ。
ルシラはいつだって私の想いに応えてくれた。
いまルシラはきっと苦しんでいる。
ルシラの意思で、あんなおぞましい姿になっているわけがない。
きっと、何かがルシラを苦しめてあんな姿にさせたんだ。
茨の剣で服を切り裂かれて、私の身体には見るも無残な傷が増えていく。
上空ではリンランディア様が、あの大蛇とまだ戦っている。
ベニちゃんとラミアがどうなったのか分からない。
お父様は戦闘中。
きっと、誰も助けにこない。
自分の力で乗り越えないと。
私が貴方を助けてあげる。
私のことをいつも助けてくれた貴方を、今度は私が助ける!
ハイオークキングは、茨の剣を横薙ぎに払ってくる。
彼女はそれを逃げることなく、己の身体で受け止めた。
グサッ!!!!!
彼女の美しい身体を、そのトゲが食い込み切り裂いていく。
彼女を捉えたと思ったハイオークキングは笑みを浮かべる。
そのまま力で押しこみ、トゲを深く深く、彼女の身体に食い込ませていく。
彼女の口から鮮血を流れる。
それでも彼女は受け止め、抱きしめているそれを離さない。
愛しい人を抱きしめるように、強く、強く抱きしめた。
そして愛しいその名を呼ぶ。
……ここはどこだ?
俺はどうなった?
いや、俺は何をしていた?
俺は……何かしていたのか?
わからない、何もわからない
俺は誰だ?
俺はだれ?
俺は……俺は……俺は……
俺が誰だか分からない
分からないけど、誰かが俺を抱いてくれている
何も分からない俺を、抱きしめてくれている
その人のこと想うと、誰か分からないはずの俺が分かるような気がする
自分では自分が誰だか分からない
でもその人は俺のことを想ってくれている
触れて、感じて、想ってくれる
そして、呼んでくれる
俺の名前を
君だけが呼んでくれる、俺の名前
愛しい君がくれた、俺の名前
俺は……俺は……俺の名前は……
「ルシラ!!」
私の胸の中にそのトゲを食い込ませていく茨の剣から、ルシラの魔力を感じた。
茨の剣となったルシラが、抱きしめた私の中でその姿を、元の姿に戻していく。
元に戻ったルシラを抱きしめながら、魔力を流し、ルシラを握る豚の手を吹き飛ばす!
豚は突然のルシラの変化と爆発に、悲鳴を上げて後ずさる。
ルシラはその身を雷神刀へと変えて、私に優しい魔力を流してくれる。
優しい魔力、でも泣いているようにも思えた。
私の姿を見て泣いているの?
大丈夫だよ、私は平気だよ。
ルシラ……苦しかったんだね。
もう大丈夫だよ、私がいるから。
愛しいルシラ。
私の傷を治そうと、ルシラから魔力が流れ続ける。
私はルシラを握りしめ、豚を睨み付ける。
「お前の仕業かどうかは知らない。そんなこと関係ない。お前はルシラの心を傷つけた。許さない!!!!」
アーシュの身体を白銀の雷が纏う。
そして同じ白銀の雷神刀となったルシラを強く握り、構える。
醜い雄叫びをあげて襲いかかってくる豚の王。
アーシュ達は豚の王を斬るために、雷となり駆ける!
それは今までで一番速く、強く、美しく、輝く雷となったアーシュとルシラだった。
ベニとラミアはアーシュを探していた。
2人はハイオークキングに勝利した後、合流したが、アーシュの姿が見えないことに焦った。
上空で戦うリンランディアと大蛇の戦いは、自分達が手を出せる次元の戦いではない。
あの大蛇が何なのか、同じ蛇を種とするラミアですらまったく分からない。
募る不安の中、アーシュを探していると、美しく輝く雷が夜を照らした。
アーシュだ。
2人は疑うことなく、その方角に向かった。
そして辿り着いた時、真っ二つに斬り捨てられたハイオークキングの前で、ルシラを抱きしめて意識を失っていたアーシュの姿があった。
2人はアーシュを抱きしめる。
痛々しい姿だ。
どうしてこんなことに?
ハイオークキングは確かに強かった。
でもこんな状態になるのはおかしい。
そもそも、この異常な傷跡はいったいなに?
疑問は残るが、今はアーシュから感じれた、その暖かい温もりと、脈打つ鼓動に安心した2人。
アーシュの胸の中に、トゲが1本入りこんでいるとは思わず……。




