『危険な関係』の映画
十八世紀のフランスの書簡体小説『危険な関係』は未読(積ん読)ですが、氷栗優がコミック化した『仮面のロマネスク』は宝塚で上演時に読みました。
宝塚のみならず、今年の鈴木京香と玉木宏主演の舞台化作品も観ておりませんねぇ。田舎住まいなもので……。N○Kの朝のドラマで鈴木京香が(ヒロインをいびる)姑役で出演していて、良人が「宮城県出身で綺麗な人が女優で出ていると昔思ったんだが……」と感慨深い様子でした。それだけわたしたちは年を取ったのよ~。
しかし、『危険な関係』でメルトゥイユ侯爵夫人役を演じたのですから、鈴木京香だってまだまだ綺麗です。
『危険な関係』は何回か映画化されています。わたしは二本観ました。一つ目は昭和六十三年のアメリカ映画です。メルトゥイユ侯爵夫人をグレン・クローズ、ヴァルモン子爵をジョン・マルコビッチ、トゥールヴェル法院長夫人をミシェル・ファイファー、後は日本で有名になる前のユマ・サーマンやキアヌ・リーブスが出ていました。庶民はあくせく働き、税金を持ってかれるのに、衣食住満ち足りて、働かなくてもいい人たち。恋愛は暇人の仕事であると、エライ昔の哲学者が言ったとおりの世界です。
二本目は平成十五年の韓国映画です。邦題は『スキャンダル』。私が唯一観たペ・ヨンジュンの主演の映像作品でした。(韓流に興味ないんです)設定をまるきり韓国の李朝時代に置き換えていました。
『冬のソナタ』で人気沸騰中であったペ・ヨンジュンが色事師(ヴァルモン子爵に相当する両班)を演じるので、好評と不評の両方があったようです。
メルトゥイユ侯爵夫人に該当する両班の夫人が、子どもができない為に、夫が年若い第二夫人だか妾だかを家に迎える、その娘に家風を教え込んでくれと言うので、そもそも意に染まない結婚だったのにと面白くない。で、お互い初恋の恋人同士だったのにお家の事情で引き離されて、すっかり退廃的になっちゃったペ・ヨンジュンに、その娘を誘惑してくれ、そうしたら、今度こそは思いを叶えようと夫人が言うのです。役名を忘れちゃったからこのまま説明いきます。若い娘なんか好奇心の塊だから、ちょっと気を引けば落ちちゃうから詰まらないよと、ペ・ヨンジュンが言います。ほかに狙っている女性がいるから、その女性と、若い女性の二人を落としたらご褒美に与ろうと。
ペ・ヨンジュンが狙っているという、トゥールヴェル法院長夫人に相当するのが、役名を忘れちゃいましたが、実に韓国的な設定なのです。「望門寡婦」です。
「望門寡婦」は儒教の影響の強かった地域にあった理不尽な慣習です。日本でも江戸時代の家柄の高い人がそれに縛られた例があったそうですが、ちょっと文献を失くしました。親同士が、子どもたちの結婚を決めて、結納やら持参金やらの遣り取りをします。それで結婚式を挙げていればまだいいのですが、婚約中に男性が亡くなってしまうと、女性は、「貞女は二夫に見えず」の道徳観から再婚を許されず、生涯独身で過さなければならないのです。男性は再婚できるのにねぇ。ろくに顔を知らない男性を夫として、貞節を守る人生。ま、当然親や本人の事情諸々で守られなかった場合もあるでしょう。その映画でペ・ヨンジュンから狙われている女性は、結婚前に夫となる男性が亡くなって、嫁ぎ先の家で貞淑な生活をしていて、周囲から尊敬を受けているのです。亡夫(そういうのも変なんですが)の弟が、「義姉上」と慕っているところがまたまあ怪しげ。
第二夫人候補の若い娘はあっさりと落とされ、ペ・ヨンジュンは「望門寡婦」さんをあれやこれやと口説き、遂には本気になっていくのでした。
ただ、色事師の面目において本気になったとは認めたくないので、「望門寡婦」さんは評判を落とす結果となるのです。で、やたら「義姉上」と慕っていた様子の、いい年齢している義弟からペ・ヨンジュンは刺されて死んじゃいます。
ペ・ヨンジュンが実は本気であったと事実と訃報を聞いて「望門寡婦」も後を追って、氷の張った湖を歩き、水中に落ちていきます。
ペ・ヨンジュン演じる色事師が趣味で描いていた春画が出回り、両班の夫人は逃亡します。そして第二夫人になるはずだった若い娘が、その体にペ・ヨンジュンの子を宿したまま、何食わぬ顔をして両班の奥方になるのです。
う~ん、スキャンダラス。
原作みたいにメルトゥイユ侯爵夫人が天然痘に罹って、容姿が台無しになるラストの映画や舞台の演出はあるのかしら。確か、ジェラール・フィリップ主演の映画では、手紙を燃やしたら急に炎が上がって、メルトゥイユ侯爵夫人に相当する役の女性が顔に火傷をするらしいのですが、ちゃんと観ていません。




