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昆虫の例外

 タイトルからお解りの通り、昆虫の話です。虫の嫌いな方は読まないでください。

 大人になってからゲーテの『ファウスト』を読んだのですが、あんまり記憶に残っていません。ははあ、これが永野護の『F.S.S.』の元ネタになった部分か、結構三人揃った女神ってほかにもいるんだ、って感じでした。『ファウスト』となると、父が講談社の『手塚治虫漫画全集』を持っている所為か、手塚治虫が漫画化した『ファウスト』の諸作品の方を思い浮かべます。

 初期の漫画の『ファウスト』では、メフィストフェレスが蚤を飼っている王様の笑い話をして聞かせる場面がありました。王様が蚤に服を作れと仕立て屋に命じて、眼鏡を三つもかけて縫ったとさ、蚤が増えて、みんな痒くて大変だ、とか言って皆を笑わせます。

 実際の物語にもあって、クラッシック音楽の紹介番組で、ゲーテの『ファウスト』から蚤の歌、と聞いたことがあります。

「蚤、蚤」

 と、男性歌手が面白い仕草や表情で歌っていました。

 ところで、蚤や虱は昆虫です。ダニは節足動物。ちょっと思い出して、家にある昆虫図鑑を見せてもらいに、二男の部屋に行きました。

「蚤や虱なんて、ちょこっとしか載ってないよ」

「完全変態か不完全変態か知りたいんだけど」

 二男の持っている昆虫図鑑は子ども向けのものでしたので、ホントにその他の昆虫と隅っこに載っているだけで、わたしの知りたい情報を得られませんでした。

「虱は紙魚と同じで無変態でないの?」

「そこを知りたいのよ」

 図鑑は諦めて、ネットで検索してみました。最初からそうすればいいって? 書籍があればそこから当たるのが癖なのです。著者や出典、出版社も同時に確認できますから。

 ネットでヒットしたところで、驚いたのは、蚤って完全変態の昆虫だったことです。虱が不完全変態、本の大敵紙魚が無変態の昆虫です。

 卵から幼虫、何回かの脱皮を経て、蛹、成虫になるのが完全変態の昆虫。蛹を経ないのが不完全変態、脱皮のみで、形態の変化が見られないのが無変態。蝶やカブトムシが完全変態で、蜻蛉やバッタが不完全変態。

 で、昆虫は成虫の時点で、体が、頭部、胸部、腹部の三つに分かれ、足が六本、羽が四枚となります。例外も当然おりまして、蚤、虱は、羽がありません。

 寄生するから退化したのでは、と見られているそうです。

 蚤のサーカスが実在しているかどうかは知りませんけど、中野京子の『名画に見る男のファッション』(角川文庫)で、ハンス・ホルバインの『大使たち』という絵を紹介する時のタイトルが『痒くても我慢』なんですね。この絵は、床の部分に変な構図があり、斜めに見ると解る、歪み絵での骸骨が描かれているので有名な絵です。入浴の習慣がなく、元々の動物に付いていたであろう蚤や虱は毛皮のコートに加工されても、そのまま付いてきて、大変痒かっただろうと考察されています。

 現代でも毛皮はブラッシングして、防虫剤を入れておいて、保管してますもんね。自宅で保管が面倒な方々が質屋に持っていってお任せしたりするそうで。

 毛皮のコートは贅沢品です。だからといって普段の衣服も何着も持てない庶民だって、お風呂にそうそう入っていなかったのは同じで、頻繁な着替えをしていなかったでしょう。蚤や虱を取るのは、日本猿のマウンティングでなくても日常やっていたのでしょう。

 虫にたかられたらDDTの散布と戦前、戦後を知っていた亡き祖父がよく言っていましたが、虫だけでなく、人間にも毒性を発揮すると判明したので現在は使用禁止です。しかし、戦後すぐの映像などでは、蚤や虱の退治の為に、GHQの兵隊さんが、日本人にDDTを散布しているのがチラっと紹介されます。

 百年を下らないくらいの過去には、お腹に蟯虫やサナダ虫を飼っていて、肌や服に蚤、虱がいた暮らしをしていた訳です。

 文明って有難いです。

 後日、二男が自身で購入していた全農協で出版されている『昆虫探検図鑑1600』を見付けました。親に内緒にしていたつもりなのです。それを見ますと、ヒトノミはなかったけれどネコノミが写真付きで掲載されていました。見付けやすさは全国で○になっており、幼虫はウジ状とありましたで、変態する昆虫と解ります。虱はヒトジラミと載っておりました。見付けやすさは全国分布ですが、△。ついでに紙魚を見てみました。ヤマトシミとセイヨウシミの二種類がいるとは知りませんなんだ。全国分布で、見付けやすさ○。

 皆様、寄生虫と蔵書の敵の紙魚に気を付けましょう。

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