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The Seven Deadly Sisters

 シェイクスピア作品を翻訳した松岡和子がエッセイか対談の本の中で、「”brother”と”sister”は翻訳が難しい」と語っていました。直木賞作家の阿刀田高も同じようなことを、学生時代に英語教師に説明された、とエッセイに書いていました。(両方ともその本を発掘できなくてごめんなさい)日本語でも漢語表現でも長幼できょうだいを表すのに、英語で”brother”、”sister”は日本語の兄か弟か姉か妹かなじょするべと英語のテストで迷ってしまうではないですか。

 有名な『ハリー・ポッターシリーズ』でも混乱があったとか。父が読み終わったからとウチの息子に『ハリー・ポッター』のシリーズの途中までの本が渡されて積読されています。埃を払ってページを捲ると、主人公の母のリリーとその姉妹のペチュニア、どちらが姉か妹か、巻によって記述が違っています。シリーズが終了し、版を重ねた現在は修正されているのでしょうが、翻訳の途中ではリリーをペチュニアの妹としたり、姉と書いたりしてたんだよう、とわたしはしっかり記憶しました。

 松岡和子は単に”brother”、”sister”とだけで、”young”、”elder”がないとどう訳そうか困る、文章の中で年齢に言及する所があればそれに基づいていく、お芝居で翻訳の戯曲の”brother”、”sister”は、演じる俳優の年齢、或いは演出家の演出プランによって登場人物の長幼を変えられる、と重ねて書いていた覚えがあります。

「兄弟」と書いて「けいてい」と読ませる例もあるし、「きょうだい」って結構難しい言葉でもありますね。また長幼を示す言葉に「伯叔」があります。皆様は自分から見ての親の「きょうだい」を示す「おじ、おば」、どの漢字を使うか説明ができますか?

 自分の親の兄、姉の場合は「伯」を使った「おじ、おば」、弟、妹の場合は「叔」を使った「おじ、おば」です。戦国武将の最上義光の妹の義姫が伊達政宗の母親なので、最上義光は伊達政宗の「叔」じゃなくて「伯」の「伯父」さんじゃあと、誤字に叫びました。

 原題『The Seven Deadly Sisters』の邦題は『七人のおば』(パット・マガー著 大村美根子訳 創元推理文庫)です。「伯叔」入り乱れて、父親の姉妹が七人いるんですよ。親戚は後ろ盾にもなってくれる心強い存在でもありますが、この本の物語の場合、かなり不穏なのです。

 イギリスで新婚生活を送るサリーの所に故郷アメリカ合衆国の友人ヘレンから手紙が届きます。

「あなたのおばさんが夫を毒殺して、自殺したんですって。心から同情しています。平静ではいられないけれど、わたしの友情は変わらないわ、云々」と書かれていました。ヘレンはどの「おばさん」か名前を記していません。サリーの「おばさん」は七人もいて、全員夫婦仲が微妙というか、夫に毒を盛ってもおかしくなさそうときています。第二次世界大戦終了直後くらいの時代設定で、事件記事の検索はできません。明朝図書館に行ってアメリカの新聞を調べてみようと夫のピーターに言われて一旦床に就きますが、妊娠中の精神不安定も手伝ってサリーは眠れなくなります。

 夫のピーターは気を紛らわせる為にサリーに「おばさん」たちの思い出を語らせます。そしてどの「おばさん」が夫を毒殺したのか、ピタリと言い当てます。安楽椅子探偵といいますか、ベッドサイド探偵です。

 サリーの「おばさん」たちがまあ、驚くほど個性的というか何というか、すげえなあ、としか表現のしようがありません。「おばさん」たちの性格が「七つの大罪」に当てはまるとも聞きますが、わたしの印象ではぴったりの女性もいれば、どうだろうと感じる女性もいます。サリーの両親が事故で急死し、幼かったサリーは父ハリーの姉のクララの家に引き取られて成長します。クララは女は(すべから)く結婚して良妻賢母となるべし、以外の信条を一切受け入れない頑固で支配的な女性です。クララの夫フランクはニューヨークで証券マンをしていて、高収入で広い邸宅を構えています。クララとフランクには子どもがいないので両親亡き後、妹六人を引き取って暮らしており、姪が一人加わっても経済的に影響なさそう。フランクは義妹や姪に充分な教育を与えてくれましたし、おねだりする義妹の願いを叶えてさえくれます。年少の叔母はサリーと年齢が近く、姉妹と言っていいくらい。女性ばかりの家庭で、全く和やかでない、火花が飛び散りそうな生活をします。

 精神分析的な意味の恐ろしい母のクララ、いつも不機嫌なアグネス、サレ妻の立場を受け入れざるを得なくなったテッシー、夫はこの上なくいい人なのに結婚に不適応だったんじゃないかと思わせるイーディスとモリー、運命の愛に巡り合ったんだろうけど道義上非難されても仕方がないドリス、マリー゠アントワネットだってそんなに贅沢言わなかったんじゃないと忠告したくなるジュディ。

 極端ではありますが、人間の中にある短所が大きく描かれています。人間誰だって自信満々で支配的に振る舞ったり、自信喪失して縮こまったり、物欲に取り憑かれたり、怒りを抑えられなかったり、恋愛至上主義になったかと思えば性愛を汚らわしいと嫌ったり、何かに依存したりで生きています。

 短所ばかりが目立つ女性たちの配偶者、どんな男性か? となりますが、男性たちは「おばさん」たちの個性を際立たせる為に、フランク以外は「いい旦那さん」以上ではありません。(いや、子どもがいないからと妻の妹や姪を養育してくれるのだから充分「いい旦那さん」か)

 さて、この状況でどの「おばさん」が夫に毒を盛り、自身も自殺してしまうのか、想像できますか?

“deadly”は「致命的な」、「命取りの」を表す言葉。

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