渋沢栄一が亡くなった頃には澁澤龍彦は生まれていたのよねえ
令和三年の二月十四日に始まったNHK大河ドラマ『青天を衝け』は年をまたがず、令和三年中に終了するそうです。江戸時代に生まれて昭和まで生きていた人物で、業績も逸話も沢山ある人ですが、冗長にならないようにとか、いつものスケジュールに戻したいとか、色々あるのでしょう。
前にもどこかで書きましたが、ドラマの中で平泉成が演じていた渋沢宗助、栄一の伯父が澁澤龍彦の高祖父にあたります。ドラマには関係ないけど、わたしには関係事項なので、またここに書いときます。
連載物で1867年のパリが舞台なので、日本語からの参考文献として、『澁澤栄一滞佛日記』(大塚竹松編 日本史蹟協会 国立国会図書館デジタルコレクション)や、岩波文庫の『幕末維新パリ見聞記』(成島柳北「航西日乗」・栗本鋤雲「暁窓追録」 井田進也校注)を使っていました。栗本鋤雲も大河ドラマに出ていました。幕閣で、小栗上野介の近くにいて何かっちゃフランス語を呟く、栄一に遅れてフランスにやってきた人物で、共にさっさと断髪、洋装、明治ではジャーナリストをしてました。
栄一の方の日記で、西洋千八百六十七年八月の項で、八月十五日は聖母被昇天の日でカトリックのお祭りだからと調べたら、それについての記述はなかった、ナポレオン1世の誕生日のお祝いをしていた、とこれも以前に紹介しました。栄一が宗教行事に興味なかったのか、当時は第二帝政でナポレオン1世の生誕祭が優先だったのか、よく解らないのですが、まあ、パリの街がこれで賑わっていたと日記に続いていましたので、そっちを参考にして、主人公たちはお出掛けしました。
「此の日は先帝誕辰の當日にて佛國中の大祭日なり四民各其職業を廢し美服盛飾にて遊息し或は知音を往來し終日群聚して歡を盡す夜に入ば王城の前面よりアルクデトリヨンフまで兩線の市街は瓦斯燈又は小提燈など多く點じ路傍に沿ふ瓦斯燈は更に其數を增し五色の玻璃を以て火色を彩り恰も白晝の如し」(澁澤栄一『航西日記』)
街灯に色ガラスをはめ込んで、綺麗だとかあるので、イルミネーションだ、デートだ、でも人込みで大変だったなんて話で書いていました。ついつい、東北に住んでいると、仙台市の冬の風物詩光のページェントのつもりで一斉点灯の場面なんか思いちゃったんですが、あああ、ガス灯ってあるじゃない、ガス灯はスイッチを入れれば一の二の三で点くのか? サン゠テクジュペリの『星の王子様』でガス灯を点けたり消したりを繰り返す星の話があったじゃないですか。慌ててほかの文献を探りました。栗本鋤雲の『暁窓追録』にガス灯の記録があったっけ?
「気灯の源は巴里の外にあり。大鉄炉を設け石煤を焼き、鉄管を以て地下に通じ、支管旁布し、至らざる処なく、以て其気を通じ毎灯引て以て点明す。其人家に列する者は、大抵夜十二時を限り灯源にて管を鎖せば、一瞥に撲滅し、街上にある者は一斉に鎖滅す。満都百万、一の遅速あることなし。」(『暁窓追録』栗本鋤雲)
え~ん、灯を消すことが載っているけど、点け方がないよ~、とまた探して、鹿島茂の本で、ガス灯は点灯夫が点けて回ったと書かれているのを見付けました。この時代よりも後の生まれのサン゠テクジュベリの作品で、ガス灯を人が点けたり消したりしているのだから、電灯みたいな一斉点灯なんて有り得ないんだ~と、書き直しました。
栗本鋤雲の『暁窓追録』は自分が渡仏した時の巴里や欧羅巴はこんな状況でした、あるのですが、何分短いです。渋沢栄一の日記もパリ万博あたりは新聞記事も引用して詳しいのですが、それからはかなり事務的な記録になっています。
クリスマスはお呼ばれしなかったのかしらと思って見てみると、
「十一月三十日 水 十二月廿五日
此の日ノエルと申キリスト誕生の祭日ニ付御休日」(巴里御在館日記 渋沢栄一)
と、お呼ばれや晩餐は記述なし。勿論、前日もお呼ばれ無し。
「十二月七日晴 水 千八百六十八年第一月一日
第一時國帝江新年祝賀のためチイロリー宮御越尤御狩衣石見守俊太郎御付添コロ子ル御供いたす」(巴里御在館日記 渋沢栄一 変体仮名をひらがなにした)
春の復活祭はどうかしら、と思ったら、
「三月廿日曇 日 四月十二日
此日はキリスト祭日に付來廿五日迄御稽古御休日」(巴里御在館日記 渋沢栄一)
お呼ばれした、宴会をした、街を見物した、の記事はありません。
キリスト教徒じゃないし、もう物珍しさにふらふら見物して回る時期は過ぎたしで、忙しい様子なので、仕方ないかって感じです。
フランスの年中行事や風物詩、カトリックの行事などほかにも調べていますから、史料は渋沢栄一や栗本鋤雲の記録だけじゃないのですが、当時の日記って貴重なので、つい頼ってしまうんです。
連載物が終わったら、史料に首っ引きになりながら物語を綴るのは止めようといつも考えています。でも、歴史が好きなんですねえ。
大河ドラマを観ながら、もういい年齢になったはずなのに、主役は若いままだねえと二男が呟いておりました。そういうもんじゃないですか。逆に還暦とかの俳優が若々しい役をしているのもあるんだからさあ。




