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一筋縄ではいかない語り手ばかり

 図書館で見付けた映画『白い肌の異常な夜』の原作小説、原題は『The Beguiled』、『ビガイルド 欲望のめざめ』の邦題が付けられていました。原作者はトーマス・カリナン、翻訳者は青柳伸子、作品社からの出版になっています。結構分厚いです。四百ページとちょっとあり、書式は二段組。登場人物は九人、その中で唯一の男性のジョン・マクバーニーを除く八人の女性たちが入れ替わり立ち代わり語り手になって物語をしていきます。

 映画化するのに登場人物の役割を変えたり、省略したりは有りがちです。まずファーンズワース女子寄宿学校は姉妹で経営していることになっています。姉のマーサと、妹のハリエット。どちらも独身、未婚。黒人のメイドは映画で名前がハリーとなっていましたが、小説ではマチルダことマッティ。大人はこの三人で、あとの五人は生徒となります。

 南北戦争で多くの生徒たちが親元に戻ったものの、学園に残っているのが、映画で教師だったエドウィナ・モロウ、十七歳の生徒。エミリー・スティーブンソンが十六歳、学級委員的な立場。アリシア・シムズは金髪で青い目の美少女で十五歳、アリスと呼ばれるのを嫌がっている。アメリア・ダブニーが十三歳で、自然科学に興味があり、虫を怖がらないし、カメツキガメを飼っている。マリー・デヴェローが十歳、フランス系で唯一人カトリック教徒、信仰が違うからと余計に反抗的。

 同性愛や深い友情を抱く者はなく、仕方なく学園にいるといった感じの同居生活。生徒たちは思春期の自意識過剰をこじらせた感じで、語り方が偉そうになっています。マーサとハリエットの姉妹もファーンズワース家の込み入った歴史があって、お互い困った性質を持っているとみなしています。マーサとハリエット、マッティはそれまでのいきさつから、かなり冷めた目でそれぞれを見詰めています。人に言えない秘密が一杯です。

 つまり誰も彼もが面倒くさい女なのです。

 アメリア・ダブニーがキノコを採りに行って、負傷したジョン・マクバーニー伍長を拾ってきます。伍長さんは二十歳で、アイルランドからやってきて、お金を得る為に北軍に入った、信条あっての入隊ではないと説明します。

 元の場所に捨ててきたらとか、ここに北軍の負傷兵がいると南軍に知らせたらとか、色々言い合うのですが、伍長さんに治療を施すことになります。マーサ先生は簡単な医術は見様見真似ながら若い頃から経験がある設定です。

 一人称で語るので、当然語り手の主観となり、語り手は喋りたくないことを喋りません。Aが語り終わると、Bが継ぎますが、Bは扉から、或いは部屋の片隅でマクバーニー伍長とAが何をしているのか見ていて、Aが言わなかった出来事を補足して教えてくれます。

 何を見て何を思ったか教えてくれても、何をしたか黙っているので、次の語りを待たなくてはならず、場面が重複していてややこしいというか、まどろっこしい部分があります。

 女ばかりの閉ざされた空間にやってきたマクバーニー伍長は、非日常の存在。厄介に感じながら、アクセサリーを身に着けてみたり、夕食の席でしっかりドレスアップをしてみたりと、いつもと違う気分の高揚があります。

 伍長さんは南軍に連れていかれないように、軍病院よりよほど待遇のよいこの学校で治療を続けてもらえるようにと、回復してくればその状態に合わせて、愛想の良いことを口にします。部屋にあった本を読んで暗唱し、文学が解る振りをしたり、恋人を求めるような言葉を囁いたり。

 やがてマクバーニーはアリシア・シムズの部屋に入り込んだのをエドウィナ・モロウに発見されて、慌ててなだめようとするのを突き飛ばされて階段を転げ落ち、右足を更に負傷。応急処置をしましたが、壊疽を起こしそう、毒が回る前にと、解剖学の本を傍らに切断手術となりました。痛み止めと麻酔代わりに葡萄酒を飲まされて、手術の説明をされても冗談と思っていたマクバーニーは、醒めてから驚き、怒ります。

 年嵩の生徒たちはすっかりマクバーニーに失望。酔って荒れるマクバーニーを誰もが持て余すようになります。アメリア・ダブニーとマリー・デヴェローはまだ味方しようとして、アメリア・ダブニーの秘密基地みたいな場所に身を潜めていたらなんて提案するくらいですが、森の中の穴倉に住めというのかと伍長さん却下。

 その後もごたごたが続き、物語は終幕へ。

 本の表紙が写真です。ソフィア・コッポラ監督が一昨年くらいにリメイクしていました。映画『ビガイルド/欲望のめざめ』のラストの場面のようです。

 ソフィア・コッポラ作品、黒人のメイドを省略しています。ドン・シーゲル監督の『白い肌の異常な夜』と同じく、ほかの登場人物の役割の設定が似通っています。どちらがいいとか言えませんが、興行物として面白いのは『白い肌の異常な夜』、原作の雰囲気を活かし、人助けと優し気な言葉を掛けてくれる客人との綺麗事で済まなくなった悲劇を描き出したのは『ビガイルド……』でしょう。

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