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テニスボールの色

 映画『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』の内容に触れます。

 テニスというスポーツの歴史はかなり古く遡れるらしい。正確な起源は知らないし、調べていない。だが、シェイクスピアの『ヘンリー五世』の冒頭にテニスボールに関しての台詞が出てくるし、フランス革命の関連で「球戯場(ジュー・ド・ポーム)の誓い」をアニメの『ベルサイユのばら』で「テニスコートの誓い」と紹介していた。王侯貴族のヒマつぶしで続いてきた歴史が長い。テニスクラブでは今でもウェアからソックス、シューズに至るまで白、或いは色柄物にしても白を基調とした物と指定されるくらい格式にこだわっているらしい。

 で、テニスボールの色は何色?

 現在は蛍光色の黄、または黄緑になっていると思う。

 昔、テニスボールは白かった。

 わたしが小学生の頃テレビニュースで流れるテニスの映像ではボールが白かった。それが高校生くらいになると、テニスボールは黄色になっていた。

 多分、これはスポーツ観戦がテレビになってきて、白だと土や芝生の色が付いて、選手ではなくて視聴者が見辛いからと変わってきたのだろう。

 先日、DVDをやっと借りて、『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』を良人と観た。テニスボールが白かった時代、1980年のウィンブルドンの決勝戦を中心にした、ドキュメンタリーではない、俳優を使ったドラマ映画だ。わたしはジョン・マッケンローは知っていても、ビヨン・ボルグを知らない。良人はどちらも知っている。良人は二十代の頃に来日した外国人選手の試合を観戦した経験があるし、自身もテニスを嗜んだ。

 シングルスの試合ではテニスコートに出ると選手は一人。コーチも仲間も家族も関係者用の観客席に入り、応援する側になり、アドバイスできない。真正面の対戦相手だけを見詰める。

 この映画は伝説となった1980年のウィンブルドンの男子シングルの決勝戦だけでなく、選手の孤独を痛いまでに描いている。

 映画でビヨン・ボルグは既にウィンブルドン四連覇を遂げた王者で、家から出れば、次は五連覇ですね、期待していますと挨拶され、ファンやパパラッチに追い掛け回される日々を送っている。精神的に辛いのが観ていて解る。支えてくれるのが婚約者のマリアナとコーチのレナート。モナコの自宅からテニスコートに向かい、練習するも、鍵を失くして、どうしようと歩いていると、またも追い掛けられて、カフェに飛び込む。そこのカフェの店主はボルグの顔を知らなかった。一安心とコーヒーを飲むが、財布が無いのに気付き、後払いでいいかと尋ねると、駄目と返事され、働いて払ってと届いた荷物を運ばされる。荷物の間にテニスの記事が載っている新聞があって、自分が出ていないにも関わらず、ボルグは隠すように荷物を重ねる。

 新聞に載っていたのはアメリカの選手のマッケンロー。審判のジャッジに不満があれば抗議し、その態度に審判は注意し、観客はブーイングを浴びせる。マッケンローはどちらにもひるまず言い返す。アル・カポネ以来の最悪なんて書かれる始末。

 ボルグは今でこそ冷静沈着と言われているが、少年時代はマッケンローと同じように悪態を吐いて警告され、相手側から対戦を嫌がられて、テニスを止めなさいとと言われるくらいだった。デビスカップのコーチをしていたレナートに見出されて、徹底したルーティンと、感情をショットに籠めることで、感情の爆発を閉じ込めてきていた。ボルグのガチガチにガットを張ったラケットの毎晩の点検、アンヨで踏んでまで、その強度を確かめる。荷物はマリアナが一つ一つ決まった順序でトランクに詰める。試合会場の土地に着いたら、いつもと同じ車で、同じホテル、同じ部屋に宿泊する。既に強迫観念の域に達しているような気さえする儀式。

 一方のマッケンローもマッケンローなりにルーティンがあるようで、宿泊したホテルでマジックペンをもらってベッド脇の壁に何やら書き込む。対戦相手や、独自の情報や分析があるのか、樹系図のように広げていく。

 口が悪いといってもマッケンローの育ちは悪くないと続く映像で語る。父親は弁護士で、母親は教育熱心。母から成績を尋ねられたり、ホームパーティで、少年マッケンローが客の前で二桁の暗算を披露したりしている。

 テレビの番組で試合中の態度に批判的なインタビューを投げ掛けられて、いつでも俺は真剣なんだとマッケンローは言い返す。父は言葉少なながら息子を理解し、見守っているふう。

 ウィンブルドンで試合が始まり、ボルグは立ち上がりから苦戦しながら勝ち上がっていく。

 一方マッケンローも順調に勝ち進む。準々決勝で、ダブルスで組む相手と試合になる。相手のサポーターが試合前に紛失し、試合終了後に出てくるヒトコマがあり、相手は、「お前は優勝するだろう。だが誰からも嫌われているから、すぐに忘れられる」と言う。マッケンローは相手が控え室から出て行ってから、小さく「済まなかった」。準決勝ではジミー・コナーズと対戦し勝利する。

 そしていよいよ決勝戦。第一セットはあっさりとマッケンローが先取する。ボルグは巻き返しできるか。

 一球一球、ショットの度に一喜一憂しながら、試合の観戦をしている気分になった。途中明らかなミスジャッジがあってもマッケンローは抗議せずに、受け入れ、試合を続行させる。

 試合はフルセットにまでもつれ込む。

 歴史で決まった試合結果でも、見応えのあるテニスシーン、余韻を味わえるラストに仕上がっていた。

「あの試合は伝説なんだ」

 感に堪えない様子で良人が言った。

「ボルグはそっくりだったけど、マッケンローは似てない」

 と続けた。

「そりゃそっくりさんショーじゃないし、ドキュメンタリーじゃないもん」

「ジミー・コナーズは似てなかった」

「そうだねえ、この映画じゃちょい役だもんねえ」

「実際の試合の映像をもっと使えば良かったのに」

 う~ん、どうなんだろう。悩ましい。

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