人はヘンと言うけれど、きっとアイなのよ
岸本佐知子という翻訳家がいて、その人が編訳した本に『変愛小説集』(講談社)があります。よっく見てください。『恋愛』ではなくて『変愛』です。英語圏の短編小説となっています。他人様の庭にある樹木に熱烈に恋した話、妹の人形のバービーとケンと関係を持っちゃう少年の話、戦争で男がいなくなり、また核爆弾と思われる実験で地図上から消えた島で暮らす少年少女の話、などなど。
日本の小説でも同じような短編集があればいいのにと岸本佐知子が願い、恐らくはそのような要望も出ていたのでしょう、日本の作家に依頼しての『変愛小説集 日本作家編』(講談社)が後から出ています。日本作家編は川上弘美、多和田葉子、安藤桃子、津島佑子などなどが名を連ねています。これもまたフツーのボーイ・ミーツ・ガールな話はありません。そんな中で一人見掛けない作家の名前がありました。深堀骨、載せられている小説は『逆毛のトメ』。作家名も小説の題名もヘン。まあ、読んでみるとこれもまたキテレツテンショー。ほかの日本作家がディストピアや新しい世代の新しい愛の形、幻想的な切ない世界を描いている中で、コメディーなのか純なのか、可笑しくて可笑しくて堪りませんでした。
「編者あとがき」で。
『深堀骨は、十年ほど前に、『アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記』という異様に面白い奇想短編集を一冊出したきり行方が知れず、もしや架空の人物だったのではと疑惑を抱いていたが、今回実在が確認されたうえに新作まで読むことができて、望外の喜びだ。』
とありました。
こりはわたしもこの作家の作品を読めとの天からの啓示に違いありません。わたしは地元の図書館に行って、『アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記』(早川書房)を借りてきました。
非常に面白かったです。エンタメ小説、ここまでぶっ飛んでいていいとお勉強にもなりました。わっはっはっは!
マンホールの蓋と心通じ合う女性とか、その名も『飛び小母さん』に描かれた摩訶不思議な夫婦愛とか、一体どんなものか訳解らない『トップレス獅子舞考』とか、江戸時代の鍋奉行さんとか。
出版が二十年近く前ですので、本屋さんに置いていないと思いますが、図書館や古本屋で見掛けられたら、是非手に取ってみてください。むつかしいこと考えず、まず読んで笑ってください。
世の中まだまだ知らないことが多いもんです。




