楽器ケースとか、色々
新聞やwebニュースで、某楽器メーカーが、「理由は申しませんが、楽器ケースに入らないでください。何か事故が起きてからでは遅いのです」と注意喚起をしているのを目にしました。
そうです。楽器ケースは楽器を収納する為にあるのですから、ふざけて違う物を入れて壊したり、事故になったりしたら笑い話にもなりません。
楽器メーカーのニュースでわたしがふと思い出したのは、横溝正史の『蝶々殺人事件』でした。あの作品は金田一耕助ではなく、由利先生物で、コントラバスケースからソプラノ歌手の死体が出てきます。
大分昔に読んだので細部は忘れてしまったけれど、華やかな舞台仕立てだった覚えがあります。
歌劇が用いられるミステリには深水黎一郎の『トスカの接吻』と『ジークフリートの剣』がありました。深水黎一郎、『最後のトリック』の人です。
歌劇の『トスカ』では、ヒロインのトスカが恋人の命を助けようと当局の長官であるスカルピアとの取引を呑み、身を任せる振りをして、「これがトスカの接吻よ」とナイフで刺す場面があるのですが、普通ハリボテ、ばね仕掛けの舞台道具のナイフを使用するのに、何故か本物のナイフが舞台に持ち込まれ、スカルピア役の歌手が刺されてしまう事故で物語が始まります。芸術家探偵の神泉寺瞬一郎が謎解きをしていきます。
『ジークフリートの剣』では、『トスカの接吻』の舞台に出演していたテノール歌手が主役で、探偵役の神泉寺瞬一郎との出会いがエピソードとして語られています。探偵役は脇に回り、とある事件の裏にはこんな事情があったと謎解きをして去ります。『ジークフリートの剣』は謎解き物というよりは、一種職業物、青年の野心と成功の物語です。
芸術家探偵神泉寺瞬一郎物の第一作目は『エコール・ド・パリ殺人事件』。人物紹介や芸術論の開陳を兼ねながら、大胆なヒント提示には初読の際に驚かされました。『トスカの接吻』はその二作目で、『ジークフリートの剣』は四作目だったかしら。
ミステリにありがちな一癖ある人たち、芸術が絡むとまたなかなか味わい深くなります。




