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「月が綺麗」と言うにしても、月の出は何時?

 わたしが連載物の参考史料にしている文献の一つに渋沢栄一の『澁澤栄一滞佛日記』(大塚竹松編 日本史蹟協会 国立国会図書館デジタルコレクション)中の『航西日記』があります。

 渋沢栄一が若き日の頃、幕臣として、徳川慶喜の異母弟昭武のお付きでヨーロッパに行った時の記録です。慶応何年って和暦と西暦が併記してあり、滞在場所のお天気も書いてあるので、その日の出来事以外でも参考になって重宝しております。曜日は載っていないので、これは別の暦換算のアプリを利用しています。


『慶応三年六月廿四日(西洋七月二十五日)曇無事』


 なんて具合です。

 和暦というか旧暦は太陰暦ですので、月の満ち欠けもこれで解ります。

 夏から秋になって、陽が沈むのが早くなってきた、と感ずるこの頃ですが、月は満ち欠けすると同時に、月の出、月の入りの時間も変わっていきます。

 高校で古文の授業で、立待月、居待月、寝待月の言葉を習いました。月の出の時間は欠けるに従って、だんだん遅くなっていき、下弦の月は夜半から有明けに、新月からまた月の出は朝方や昼へと。

 古歌で有明けの月を見るのは独り寝とか、物想う夜だったかしら? そだな夜に「月が綺麗ですね」は無しですね。

『航西日記』の六月廿五日は雨とあり、六月廿六日に「霽」と書かれています。

 何? 「霽」って? 西暦で七月の下旬にヘンな天気になったんですかあ!

 国会図書館のデジタルコレクションからコピーさせてもらった自分の史料では印字が潰れてて、どんな漢字だか読み取れず、もう一回ネット検索して、元の史料を読み込み、拡大してみました。

「霽」は、雨カンムリに斉の字らしいとなんとか読み取れました。そこまで解れば雨カンムリの漢字を調べれば大丈夫です。

「霽」は晴、雨上がりの晴を意味すると判明して一安心。連載物でお出掛けする予定の日は好天です。残念ながら旧暦でこのくらいだと、夜の早い時間はほとんど月は見えませんね。

 連載物の主人公は教養がある振りをしてギリシア・ローマ神話の神様の名前を出しますが、ドイツ語を母語にしています。ドイツ語の月は男性名詞です。だから月を愛でるのに、「かれは美しい、綺麗」と言うことになります。意中の女性に告白するのには向かない気がします。

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