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フランコ・ゼフィレッリ監督の映画

 フランコ・ゼフィレッリ監督の映画『じゃじゃ馬馴らし』の内容に触れます。

 イタリアの映画監督のフランコ・ゼフィレッリの訃報を新聞で読みました。詳細はまだ解りませんが、六月十五日、ローマで死去、九十六歳と報じられていました。

 ゼッフィレッリ、ゼフィレッリ、どちらがよりイタリア語の発音に近い表記なのでしょう。以前、別のエッセイでゼッフィッレッリとかゼッフィレッリ表記した覚えがありますねえ。

『ロミオとジュリエット』は何回かテレビの洋画劇場で放映されていますし、音楽も有名です。『ロミオとジュリエット』がきっかけでゼッフィレッリ監督の映画を観ようと、ビデオを借りに行ったことも多いです。結局、映画館まで行って鑑賞したのは、『トスカニーニ』だけだったなあと思い出しています。

 映画マニアの方はリバイバルで映画館に行った、またオペラ好きの方は演出された舞台をご覧になったという方がいらっしゃるかも知れません。

 エリザベス・テーラーとリチャード・バートンが主演した『じゃじゃ馬馴らし』をビデオで借りて、大笑いしながら鑑賞しましたねえ。ゼッフィレッリ監督のシェイクスピア物、割と台詞や場面を省略したり、古典劇の定型でもある、状況を説明する長台詞を映像で表現したりと、これは賛否両論ございました。

『じゃじゃ馬馴らし』も一部台詞を省略して、突然妹に求婚していたはずの男性が別の女性に鞍替えして結婚しているぞ、となっちゃうところがありました。それに元々の戯曲を映画的に変えていました。

 そもそも舞台に掛ける時に切られちゃうらしいのですが、戯曲冒頭、酔っぱらいのスライという人物が寝込んでいる隙に、ご領主様がふざけて、こいつが目を覚ましたらご領主様と呼んでからかってやれと言い、家来たちもそれに乗っちゃう、そしてスライがお殿様気分で、『じゃじゃ馬馴らし』のお芝居を観る、二重の構造になっています。

 ゼッフィレッリ監督は冒頭を教会のミサから写し、ヴェネツィアのカーニバルのようなお祭だ、との雰囲気を出して映画が始まります。

 気が強くて、口数が多くて、乱暴な性格の姉、エリザベス・テーラー演じるキャタリーナと、おしとやかで、求婚者の多い妹ビアンカ。父は姉の結婚が決まらないうちは妹も結婚させないと宣言します。ビアンカの求婚者たちは、キャタリーナと結婚してくれる男はいないか、いや、そんな男がいるだろうかと言い合っています。そこへリチャード・バートン演じるペトルーチオが、父親が亡くなって地位を継いだ、財産を減らしたくないから、老婆でも醜貌でもいいから持参金のある結婚相手を探しているとやってきます。求婚者たちは、若くて美人だけど性格の悪い、でも持参金は見込めるとキャタリーナを勧めてきます。

 ペトルーチオはそんなこと平気だと、早速求婚しにお屋敷に。

「キャタリーナさんに求婚します。持参金は如何程?」

 実に単刀直入、正直。とーちゃん、怒れよ。しかし、父は姉娘を嫁にもらってくれる男性が現れたと気を悪くしません。

「娘の気持ちも聞いてみないと」

「会わせてください」

 そこでキャタリーナとペトルーチオが略式お見合いになるのですが、ここまで派手にやり合うのか、と思うくらい、言い合った末に、屋根の上まで昇って追いかけっこ。

「来週結婚式にしましょう。お迎えに来ます」

 とペトルーチオは一旦屋敷を去ります。

 そんなこんなで結婚することになったのに、当日着飾って嬉しそうに教会に向かうキャタリーナが可愛らしい。

 ペトルーチオは結婚式に遅刻してきます。戯曲だと、ヘンな恰好してくるのですが、映画ではそれほどでも。ただ、戯曲では台詞で説明されるだけの結婚式の様子がきちんと撮影されています。ペトルーチオはあろうことか祭壇で居眠りし、神父さんに起こされて、結婚には大いに賛成とかいい、キャタリーナは大声で、「結婚してやらあ」。戯曲にないですから、ここは映画での創作で、字幕で読んだ記憶、確かこうでした。

 その後のドタバタ続き。ペトルーチオはお金目当ての冷たい変人なのか、でもキャタリーナは父も周囲の男性たちも妹ばかりを持ち上げる中、ペトルーチオは自分を選んでくれて、結婚した、わたしの夫なんだからと健気さが垣間見えるようになっています。ペトルーチオは自分の言うことを聞けと言わんばかりの横暴さで対していますが、キャタリーナがちらりと見せる健気さや可愛げに気付いています。

 ビアンカが恋人と結婚し、ビアンカの元求婚者は別の女性と結婚します。その祝いの集まりで、どの妻が一番夫に従順か、賭けをして、ペトルーチオが勝ちます。

 ここでやっと夫婦の語らいを初めてするような優しさを見せあって映画は終わります。

『じゃじゃ馬馴らし』は、女性を男性より下に見るのか、男性に従順でいればいいっていうのかと、『ベニスの商人』のユダヤ人差別と同じく、男女差別の作品と問題視されます。

 多分、シェイクスピアの時代から『じゃじゃ馬馴らし』はそんな批評を恐れてか、酔っぱらいのスライを出しているじゃないかと言われています。殿様と騙されている酔っ払いの男性をからかうお芝居の恰好にしているのだ、と。

 ゼッフィレッリ監督もここはカーニバル、お遊びなんだから、眉間にしわを寄せたりしないで笑ってちょうだいといったところなのでしょう。そして、演出もかなり極端、エリザベス・テーラー、結婚式の後にリチャード・バートンの肩に抱えあげられるは、馬で移動中落っこって泥だらけになるは、いくら三十半ばになったからって美人女優にそりゃないでしょうってことをやらされていました。

 現実生活でこの撮影時に結婚していたか離婚していたかは、わたし知りませんが、エリザベス・テーラーとリチャード・バートンの二人を主演に持ってきたのも監督のお遊びだったのでしょう。

 軽快な作品、重厚な作品、色々観客を楽しませたくださった映画監督のご冥福をお祈りします。

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