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正月、炬燵で駄弁

岩崎都麻絵「新年明けましておめでとう」


惠美子「明けましておめでとうございます」


都「数え年で知命に達したから元気ないのかしら?」


惠「そんなことないですよ。早く日常に戻ればいいなと願っているだけです」


都「蜜柑食べ過ぎると肌が黄色くなると言われて、試してみようとパクパク食べていたのも子どもの頃の話。永遠の二十八歳も、吸収の良すぎる果糖には注意のお年頃。炬燵でぬくぬくが丁度いいです

 映画の『ボヘミアン・ラプソディ』を観にいって思い出して、青池保子の『イブの息子たち』を読み返したわね、懐かしい」


惠「飛行船のヒンデクブルクに対抗するのが同じく飛行船のレッド・ツェッペリン号というのがまたねえ。マーキュリーちゃんもいれば、キッスらしきメンバーやらなにやら、当時作者がロック好きなのだとよく解ります。

 ちょっと小耳に挟んだ話で、『イブの息子たち』、わたしが持っているのは大昔古本屋で揃えた秋田書店の単行本で、発行年月日は昭和五十年代です。ここ何年かで愛蔵版だか、新装版でも再販されていて、一部台詞や登場人物名が差し替えられているそうです」


都「そこらへんは仕方ないでしょう」


惠「うん、時代背景を鑑みてとだけでは済まないし、まだ作者が生存しているし、それほど重要な部分ではないからね。

 小学生の国語の教科書で、「キュリー夫人」の伝記が載っていて、それを習っていた時に、マリーの知性ある美しさになんたらかんたらで、ピエール・キュリーは求婚したとかの記述がありました。

 その時の先生は女性だったのですが、知性美に対する言葉として白痴美なる言葉を児童に教えてくれました。

『イブの息子たち』の主要登場人物の一人が悪口で、「白痴美」とやたら言われているのが、「幼稚美」と修正されているらしいです」


都「あはははは、小学校の先生が児童に教えた言葉も現在使うのには考慮が必要なよくない言葉になっちゃったんだ。

 でも『白痴』自体なら、ロシア文学の棚にどんと鎮座ましましているじゃないの」


惠「あの題名を原語どおりに『イジオッド』としてもさ、中身を読んでいると、主人公のムイシュキン公爵が周囲の人たちから馬鹿にされる場面があるし、ほかの登場人物たちにしても常軌を逸していると評されるくらい極端な行動をしたり、失礼な発言をしたりしています。ほかの言葉に置き換えたり、ぼかしたりする程度では済まないですよ」


都「『白痴』を読んでいると、ムイシュキン公爵は病気の治療の為に世間知らずで、純真無垢で、莫迦なのは自分を常識人と信じている俗物たちに思えてくるわ」


惠「でもムイシュキン公爵はやっぱりまあ、アレなのよね」


都「社会生活を普通に送れないって意味でね。

 それにしてもさ、あんた連載物の登場人物に『白痴』に出てくるアグラーヤ・イワーノヴナ・エパンチナの名前を借りちゃったけれど、メインヒロインの名前がなんで熊から派生したベルナデットになっちゃったのよ」


惠「最初はレオノールだったのですが、これは光や陽光から派生したらしいので、アグラーヤの輝きと被るのでやめました」


都「それでお(くま)さんになっちゃったの?」


惠「せめてお(ゆう)さんと呼んで頂戴。それに漢字のほうからいうと、烈火が付いているので、これも火や光を意味しているので、いいんです」


都「フランス人の名前に漢字を出されても困るんだけど」


惠「いいじゃない。前漢時代の武将の霍去病(かくきょへい)なんて、なんで名前に病が入っているのかと思っていたら、病が去るから、無病息災を願ってらしいと聞きました。それでも名前に病を入れるのかと感じました」


都「霍去病は早死にしたでしょ」


惠「それも病気でね」


都「あんたたちは初詣も行ったし、なんちゃって風だけどきちんと新年の仕来りもしたんだから、後は心掛け次第でいい年になると思うわよ」


惠「そうね、是非そうありたいものです」


都「炬燵でだらだらしてないで、早く連載物を書き上げなさい」


惠「だからあ、日常生活が戻ってこないと、落ち着いて考え事もできないのよう!」

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