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漂泊する創作者

 良人と映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観に行きました。拍手や発声可の応援上映ではなく、普通の上映。映画は静かに見るものだと良人は言いますし、わたしも歌舞伎の掛け声と似て、タイミングがずれたらこっ恥ずかしいし、ずっと手拍手や声出しをしていたら疲れるだろうと思いました。『バーフバリ』を何回か観に行った長男も、映画は静かに観たい派で、一回も応援上映に行っていないですね。

 以前岡田准一がMCのNHKBSの『ザ・プロファイラー』でフレディ・マーキュリーを取り上げていたのを観ています。フレディがアングロ・サンソン系イギリス人ではないのは知っています。太陽の沈まぬ国だった大英帝国が生んだ人とも言えます。出生地は当時イギリス領だったアフリカの島の一つザンジバル。両親はインド系の移民。

 映画は自宅からライヴ・エイドの会場に向かうフレディのシルエットから始まります。舞台に昇る時、フレディは後姿のまま両手を大きく広げます。まるで翼を広げて羽ばたくように。

 暗転。

 世の中に拗ねた少年ぽさを残す青年。空港で飛行機から荷物を下ろす仕事をしています。厳格な父に反発していて、夜にバンド演奏のある店に通っています。「スマイル」という名のバンド。青年はバンドのメンバーを追い掛けようと、店の廊下に出て、お喋りしている女性の一人にふと目が留まります。見詰め合い、言葉を交わします。青年は外に出て、機材を運ぶ車に座り込むバンドのドラムとギターを担当に話し掛けます。

「(褒めてくれて)有難う。でももうお仕舞さ。先刻ヴォーカルが辞めちまった」

「ヴォーカルならここにいるよ」

 青年は自分を指します。

「その前に歯を治せよ」

 ドラム担当は歯学を学んでいました。

「過剰歯で口腔が大きいから音域から広いんだ」(医学的根拠はともかく、本人はそう信じていた模様)

 青年は歌います。ドラムとギターはその歌唱力に顔を見合わせます。

 これでヴォーカルのフレディ・マーキュリー、ドラムのロジャー・テイラー、ギターのブライアン・メイ、そして新たにベースのジョン・ディーコンが加わり、「クイーン」の伝説が始まります。

 店の廊下で出会った女性ともフレディは再会し、親交を深めていきます。

 公開中の映画ですので、紹介はここまでにします。

 映画を観終って、わたしは良人に言いました。

「フレディ、胸毛が少ない」

 良人は良人で、

「ブライアン・メイ、本人が本人役で出ていたのか?」

()(さか)、でもどっちかっていうとフレディ役よりほかのメンバーたちの方が似てた」

「そうだね」

 いえ、フレディ役のラミ・マレック(映画『ナイト・ミュージアム』でエジプトの王子を演じていた俳優さん)は大熱演でしたし、付け鼻、義歯までしてなりきっていました。ただフレディのヴィジュアルは今でも観ようとすれば観られますし、神聖視しちゃっている側なので点が辛くなっちゃうのです。

「映画で『手を取りあって』を流してくれなかったねえ」

「本国やアメリカよりも日本で当たったってやらなかったなあ」

 撮影のスケジュールやエキストラ集め、予算の問題なのでしょうが、非常に残念でした。メジャーデビューに成功してレコード会社のエライさんが「日本ツアーに」と言っていますし、フレディの部屋の壁にタペストリーみたいに着物を飾っていましたし、玄関先にお(ふだ)が貼ってありました。フレディの部屋着のガウンが長襦袢ふう。

 劇中ブライアンの発案で足を踏み鳴らし、手拍子を打ちながら、『ウィ・ウィル・ロック・ユー』の作曲に繋がっていく場面は、応援上映でなくても思わず足拍子をしてしまいそうになりました。

 ラストのライヴ・エイドの舞台、大空に突き抜けていくようなフレディの歌声。音痴の身には羨ましくてたまらない。

 ビートルズのジョン・レノンとはまた違った形で、クイーンのフレディ・マーキュリーはその早すぎる死で、ファン以外の人たちに強い印象を残し、伝説となりました。

 ところで、フレディのヒゲ、あれは反っ歯を目立たなくさせる為じゃないの? 違う方向のイメージチェンジ?

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