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亭主の好きな赤烏帽子

 流水(ながみ)りんこの漫画『インドな日々2』(朝日ソノラマ)で、インド国内を船で移動中に初対面の白人の青年に、“Are you Japanese?”と尋ねられてつい“Yes.”と答えてしまった話がありました。相手はペラペラと英語で話し続けます。相手がオーストラリア人であるくらいしか解らず、全く英語が聞き取れず、「あなたの英語が解らない。もっとゆっくり話して欲しい」と告げました。青年は諦めずに、今度は歌い始めました。

 呆気に取られていると、その歌に聞き覚えがあると気が付きます。

「それはクイーンの『手を取りあって』ですか?」

 正解でした。このオーストラリア人はクイーンの『手を取りあって』に日本語の歌詞があるので、日本人である彼の女に教えてもらいたかったとずっと訴えていたのです。

 もし流水りんこがクイーン好きでなかったら、一人カラオケし始めた変な外国人旅行者で後ずさりされるところでした。その話の中で、イラン・イラク戦争中とあるので、劇中1980年代、フレディ・マーキュリーはご生存中でした。

 この漫画を雑誌掲載時(平成十四年、2002年)にわたしはクイーンを知りませんでした。

 そもそもロックを聞いていませんでした。小学生の頃は当時の女の子同様ピンク・レディーが大好きでしたが、中学頃から所謂歌謡曲やポップスは聞かなくなりました。原因のほとんどは、隣の飲み屋の毎夜の酔っ払いのカラオケ。父の楽曲コレクションには古いフォークや歌謡曲、ラテン音楽などありましたが、ロックやクラッシックはありませんでした。わたしはクラッシック音楽を少し聞くくらいで、専ら実家でピアノをジャカジャカ弾いておりました。今はピアノを弾いておらず、指が動きません。

 ということで、良人と出会ってから、ロックなる音楽ジャンルを聞くようになりました。矢沢永吉や忌野清志郎、ビートルズと色々と聞かされて、まあ、忌野清志郎はRCサクセションの『ぼくの好きな先生』を聞いたことがありましたので、好きになりました。

 クイーンは、その漫画を読んだ後、テレビでクイーンの特集があったので、良人がビデオを録画し、ともに観て、楽曲を聞くようになりました。

 クイーンの演奏VTRを初めての視聴。でもなんとなくイギリス本国よりも日本でのツアーで熱狂的に迎えられたのが解るような気がしました。初来日の時の映像を見て実感。ドラマーが、金髪に青い目でヤンチャっ気のあるハンサムボーイのロジャー・テイラー、鋭角的で端正な顔立ちのギタリストのブライアン・メイ、優しげで甘めのハンサムのベーシストのジョン・ディーコン、まだ長髪でユニセックスなイメージのヴォーカルのフレディ・マーキュリー。漫画家の青池保子が自身の漫画の中でクイーンを思わせるキャラクターを登場させています。少女漫画的な魅力を含んでいるように映る、生身の男性。そして見た目だけではないと証明するクイーンのサウンド。

 クイーン恰好いいじゃない!

 わたしにとってフレディ・マーキュリーは後天性免疫不全症候群の影響の肺炎で亡くなった歌手でしかなかったのが、仰ぎ見る歴史上の人物の一人になったのでした。

「ロックだっていいだろう」

 と言う良人に、わたしも、

「ベートーヴェンだっていいわよ」

 と言います。

 映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観に行きたいと言い出したのは、わたし。亭主の好きな赤烏帽子のはずだったのに、わたしが観に行きたいとはしゃいでいました。全く人生何が起こるか解りません。

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