四つの部屋
映画『フォー・ルームス』の内容に触れます。
先日、遠距離通勤の良人が帰宅して、夕飯の準備をして、気を利かせたつもりで、その時生放送をしていた侍ジャパンとMLBの野球の試合にテレビチャンネルを変えました。席に着いた良人は、「野球よりこっちの方がいいな」とチャンネルを変えました。画面はテニスの試合、錦織圭とロジャー・フェデラーです。生放送ではなく、既に結果の出ている試合の録画です。錦織圭が勝ったので、観たいと思ったのでしょう。
良人が食べている間、わたしもぼけっと観ていました。
それにしても、フェデラー、アメリカ合衆国の映画人、クエンティン・タランティーノと似ていると、顔を見る度思います。
クエンティン・タランティーノのファンではないし、映画もほとんど観ていません。印象が強烈といいましょうか。アントニオ・バンデラス主演の『デスペラード』、ティム・ロス主演(主演兼狂言回し)の『フォー・ルームス』くらいしか見たことないんです。
『デスペラード』はちょい役で出て、あっという間に殺されてしまうのですが、それまでけたたましいばかりに喋る喋る、なんだったんだあれは? と本筋で関係ない部分で印象的。
『フォー・ルームス』は、アメリカの四人の映画監督が集まって制作したオムニバス映画。大晦日の老舗ホテルでティム・ロス演じるベル・ボーイが各部屋のお客様のオカシナ事情に巻き込まれるコメディ映画です。二十年以上前ですね。
一話目は新婚さん用のスイートルームに集まった現代の魔女集団の儀式。これは女性の監督さんで、ティム・ロス以外全員女性の出演者。
テッドと言う名前の役のティム・ロスのベル・ボーイ、新婚さんスイートルームをご予約の女性が来て、その荷物を持とうとしますが重くて持ちあがりません。
「骨があるのよ」
女性は荷物をひょいと持ち上げます。
「何が入っているんですか?」
「ドーヴァーの白い壁よ。毎年泊まっているから、部屋の説明は不要。後から仲間が到着するから案内してね」
次に着いたお仲間はラバードレス姿のマドンナと、不良少女。マドンナはどうやら女性同性愛者役でその少女は保護観察中で、マドンナは愛人兼保護責任者のよう。荷物を部屋まで運んで、チップを待つテッドにマドンナはわざとらしく胸の谷間にお札を。テッド、パッとお札を抜き取ります。
続くお仲間は素晴らしい量のトランクを台車に乗せて、テッドに運ばせます。金髪の白人女性、元々人を使うのに気にしない性質らしく、テッドがふうふう台車を押しているのに本人は白い猫を抱いて、可愛いわとあやしています。
スイートルームの備品が勝手に廊下に出されて、部屋の中をいじっているようです。新婚用の部屋に女性ばかり集まって何をしているだろうと、廊下に出ると、ネイティブ・アメリカンらしき女性が裸足、自然木そのままみたいな杖を突いて、勝手に来たわと続いて部屋に。
次に若く可愛いのだけど、田舎臭くて垢抜けない感じの女性が到着します。テッド、彼の女も部屋に案内。
「遅かったじゃない」
「お産に時間が掛かったのよ。なかなか胎盤が出なかったの」
「空手チョップをすればいいのよ」
「それだと出血が多くなるのよ。胎盤を埋めて記念の植林をしたの」
女性たちの会話についていけないテッドに、親分格の女性がサービスを頼みます。
「ナントカカントカの塩、魚の目玉、etc」
テッド、訳が解らないまま、お客様のご要望にお応えする為に一旦退室。
で、この新婚用スイートルームに集った女性たちは魔女だったのです。
お風呂に石板やお呪いの道具など置き、風呂桶にはお湯が満たされ、怪し気な色です。
親分格――司祭役の女性が母乳を、マドンナが処女の血を、金髪女性が男の腿からしたたった汗を、ネイティブ・アメリカンの女性が涙を風呂桶に入れました。残る一人は、散々悩んだ末に、告白。
「ごめんなさい。熱くなって、恋人のものを飲んでしまいました!」
一斉に悲鳴が上がります。
「なんてことなの」
「そういう時は手でやるのよ!」
さて、母乳、血、汗、涙、の次に、大小便を除いて、人間の体液ってなんでしょう。大人のあなた、状況的になんだか解りますね。
そこへ塩やら、魚をテッドが運んできます。
魔女たちは泣いているその女性を示し、「彼の女を笑わせてちょうだい」と部屋を出ていきました。
部屋に残った魔女一人は言います。
「わたしたちの信奉する女神が新婚の夜に、ここで夫とともにライバルの所為で石に変えられてしまったの。わたしたちはその呪いを解く為の儀式をしていたのだけど、わたし、必要な物を持ってこれなかった。だから、あなたが最後の望みなの」
自分のナニが必要なのか理解したテッド、ギョギョギョです。
どーするテッド、魔女の集会の犠牲になるのでしょうか。
第二話は、ご夫婦の修羅場に巻き込まれます。椅子に縛られ、猿ぐつわの妻と、苛つく夫の取り合せに、何故か間男と決め付けれらたテッド。
とんでもない状況から逃げようとしての悪あがきが笑えます。妻の愛を試そうとしていたのだろうけれど、莫迦にするんじゃないよと妻の逆襲付きです。
第三話の担当はロバート・ロドリゲス。大晦日パーティーに一家で招待されていたが、気の変わった両親から留守番を命じられた幼い姉弟(小学生の低学年から中学年かな?)。テッドはベビーシッター代わりに、時々様子を見に来て、寝かしつけろと、アントニオ・バンデラス演じる父親からチップ交渉をしながら、依頼を受けます。面倒くさいので、早く寝かしつけたいテッドと、眠る気のない姉弟の二人。何だか、部屋が臭いと二人が大騒ぎしはじめます。部屋の悪臭の原因と、部屋が子どもの悪戯のお陰で大騒動になっている所にアントニオ・バンデラスが酔いつぶれた妻を抱えて帰ってきます。きゃー、怖い。
このエピソードからロドリゲス監督は『スパイ・キッズ』の構想が浮かんだそうです。
第四話目がクエンティン・タランティーノ監督で、クエンティン・タランティーノ主演です。クエンティン・タランティーノはハリウッドで今人気者の俳優という設定。ああ、喋る喋る、うるさいくらい喋る。ブルース・ウィリスがマネージャー役で顔出し。
スタッフの一人が、クエンティン・タランティーノの言い出した賭けに乗るので、それに手を貸して欲しいと依頼してきました。
そんなこと嫌です、とテッドは断りますが、クエンティン・タランティーノは説得しながら、百ドル札をポンポンと重ねていきます。テッド、遂に肯きます。
何の賭けかといえば、スタッフがライターに十回連続して火を付けられたら、クエンティン・タランティーノの車をもらえます。(どんな車種かは忘れました)一回でも失敗したら、小指を切り落とす。勿論今の医術なら指の接着手術は可能だし、小指だ、男性の大事な所じゃない、とクエンティン・タランティーノは、わあわあと主張していきます。賭けに乗ったスタッフも、俺の車は姉貴のお古のH〇NDAだ、これで高級車がもらえるんなら、怖くないと言います。
すっかりお金の額面と、雰囲気に呑まれたテッド肯いて、でっかいナイフを持ってスタッフの左小指にスタンバイ。
カチッ。
不発。
バシン!
テッドは札束を持って部屋を退散。扉を閉めます。扉の向こうでは悲鳴と怒号が飛び交っています。
テッドはお客様の無茶なご要望にお応えし、チップもいただけて満足して、新年を迎えられます。
クエンティン・タランティーノ、画面に出る時間は短くても、覚えちゃいましたよ。




