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映画『戦慄の絆』

 クローネンバーグ監督の映画『戦慄の絆』の内容に触れます。

 デイヴィッド・クローネンバーグ監督の映画は『戦慄の絆』しか観ていません。有名な『ザ・フライ』も観ていません。『戦慄の絆』は『ザ・フライ』の発表直後の作品、主演のジェレミー・アイアンズはわたしにとってこれが初見。ジェレミー・アイアンズはこの後、『ダイ・ハード3』のテロリスト役、『ライオンキング』の主人公の叔父役の声を担当します。

 元々この映画を観に行こうとしたのは図書館で『キネ旬』の記事を目にしたからです。難解、そしてジェレミー・アイアンズの双子の演技が素晴らしいと書かれてあったので、学生時分の生意気気分で映画館に行きました。怖い場面を文字で読むのは平気だけれど、映像で観るのは大嫌い。ホラー映画が大の苦手のくせに、挑戦しました。

 怖かったです。ヴィジュアルも怖かったけれど、心理的にズズンとくる恐怖でした。

 エリオットとビヴァリーは一卵性双生児の男性で、二人して産婦人科医を開業しています。エリオットとビヴァリーはずっと一緒。少年の頃、人体の不思議や性的なものに興味を持ち出して、近所の女の子にお誘いの言葉を掛けてみるのも一緒。

「言葉の意味、解って言ってんの!」

 と女の子にあしらわれても、へへんといった感じでまた医学の入門書みたいなのを覗きこみます。

 長じて二人して医者になり、エリオットは陽気で野心的、ビヴァリーは内向的で真面目、感じやすい、性格の違いがはっきりしています。エリオットは研究発表に積極的で学会との付き合い方も上手、ビヴァリーはこつこつと治療に当たり、治療結果をエリオットの研究に役立てているような役割担当しているように見えます。(エリオットもきちんと診療はしていますけど、そんな印象になります)

 さて、女優のクレアが不妊の相談で、ビヴァリーたちの診療所で診察を受けます。クレアは子どもが欲しいと願い、ピルの服用をしないで来ていたが、一度もそんな気配がなかったと言います。診療してみて、子宮の中が三つに分かれている珍しい形ゆえの着床やその後の胚の発育が不能での不妊と判明します。

 診断結果にショックを受けるクレア。そんな女性に興味を持ってエリオットがビヴァリーを装って、クレアと付き合い関係を持ちます。

 どういう意図なのか観客はヘンな感覚を持ちます。その後ビヴァリー本人がエリオットと交代するようにクレアと付き合います。ベッドにクレアの両腕を医療用のゴムチューブでぐるぐる巻きに緊縛して、これまた医療用の固定ハサミで止めてのプレイ。(伸縮性の強いゴムチューブでの緊縛プレイは血行障害を起こしかねないので、真似はやめましょう)行為が終わるとすぐさま解いて、やさしく胸に抱き直します。

 ビヴァリーが家に戻ると、エリオットがどうだったと尋ねてきます。ビヴァリーは答えません。

「おまえが話せばおれも体験したことになる」

「話さない。秘密にしておきたいんだ」

 クレアは仕事仲間から言われます。

「あなた、この頃マントル兄弟と付き合っているんですって?」

 兄弟? クレアはビヴァリーと交際しているのであって、兄弟ではなかったはず。不審に思って、クレアはビヴァリーと会う約束をして、確かめたいことがあると告げます。

 クレアは待ち合わせのレストランで、初めて、自分が交際していたのは双子の兄弟だと知ります。そっくりの男性が二人います。エリオットが、最初に君と寝たのは僕で、後は弟と交代した、気付かなかったかい? と打ち明けます。

 当然クレアは怒ります。そして、今まで素知らぬ振りをしてわたしを騙していたのねと、クレアはビヴァリーに水を掛けて、憤然と去っていきます。

 悪戯がばれちゃったねといった呆れ顔のエリオットがビヴァリーを見て驚きます。ビヴァリーは泣いていました。

「僕は彼の女を愛しているんだ!」

 ビヴァリーは誤解を解こうとクレアの許に行き、仲直りができました。

 ビヴァリーはふと気付くと、クレアとベッドにいたはずなのに、エリオットも一緒にいるのに驚愕します。ビヴァリーはエリオットと腰の所で繋がっています。

「兄さんが見ている」

「わたしが引き裂いてあげる」

 クレアが繋がっている箇所に噛みつき、引きちぎろうとします。

 悲鳴を上げるビヴァリー、なだめようとするクレア。夢だったのです。

 エリオットはクレアに再び近付きますが、クレアはエリオットを寄せ付けません。

「ビヴァリーはあなたと違うわ、孤独で苦しんでいる」

 クレアは女優の仕事があるので、長期の不在になります。ビヴァリーが寂しさに耐えかねて電話をしますが(携帯電話の無い時代です)、間の悪いことにクレアの男性マネージャーが電話を取ります。ビヴァリーはクレアにほかに男がいるのかと落ち込みます。

「今までなんでも共有してきたじゃないか」

 エリオットは自分の愛人をビヴァリーに勧めます。三人でチークダンスを踊っていると、すっかりドラッグ中毒になっているビヴァリーが突然倒れます。エリオットは愛人を押しのけて必死の看病。

 映画の観始めは、兄弟の区別がよく解らなくて混乱しますが、中盤以降は、それぞれが錯乱していくので、その心理状態に混乱していきます。

 エリオットが学会で発表している最中に泥酔したビヴァリーが現れ、この研究結果は自分のものだと叫んだり、手術中に危険な行動を取ろうとしたりと、医者としてガタガタ、エリオットは取り繕う為奔走していきますが、やがて、エリオットもビヴァリーと同じになろうとするのか、ドラッグに手を出します。

 クレアから電話に出たのはマネージャーで、かれはゲイなのよと説明されてビヴァリーは安心しますが、再会したビヴァリーが変容しているのにクレアは不安を抱きます。ですが、クレアには何もできませんでした。

 すっかり荒み切った兄弟二人。特殊撮影を使っていると知っていながらも、ジェレミー・アイアンズの演じ分けと、シンクロする兄弟の仕草や台詞、ぞっとなります。

「双子の分離手術をする」

 ビヴァリーはエリオットに……。

 翌日目覚めたビヴァリーは兄を探します。

「エリー? エリー?」

 返事はありません。ビヴァリーはクレアの許に行こうと電話を掛けますが、何も話せず受話器を置きました。そして部屋に戻り、エリオットの側に横たわります。まるで、双胎の胎児がうずくまるような二人の死骸。

 切ろうとしても切れない絆。

 宗教的に、絆は悟りや信仰を阻むものとされますが、この世に生きるものが否定しきれるものではありません。時にそれは共存と共栄を呼び、共倒れをも呼びさえします。




















 三十年も前の映画の話を書いたのは何故ですかって?

 フランソワ・オゾン監督の映画『二重螺旋の恋人』を『婚約者の友人』に続いて、仙台市での上映を見逃しちゃったのよう!

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