我が家で起こった出来事、それをそのまま伝えるぜ
暦の上では秋だけれど、まだまだ暑い日、姑が日が陰る頃合いに散歩に出掛けた。そして、花を摘んできて、花瓶に活けて玄関に飾っていた。わたしは夕方、厨房に行くのに、その花を見付けた。
ああ、この黄色くて小さな花が連なっているのは女郎花かな、と思った。女郎花の切り花を水に活けてはいけないと、本で読んでいたはずなのに、この時はとんでもないことになるとは予想もせず、そのまま夕食の準備を始めた。
準備を終え、家にいる家族で夕餉を摂った。遠距離通勤の良人は、帰宅してからの夕食となる。一度食器を洗い、片付ける。その後玄関先や風呂場、寝室を行き来していて、変な臭いがしていると気付いた。何が原因なのだろう、玄関先にゴミや汚れた服を置きっぱなしにしていないのに、なんでこんな汗臭いような臭いがするのだろう。もう暗いから、明日確かめて大掃除か、やれやれ、といった気分だった。
しばらくして、良人が帰ってきた。
只今の次に玄関が臭いと言ってきた。何が原因だかさっぱり解からないと答えた。良人はとにかく消臭スプレーを玄関に振りまいた。
翌日の朝になっても臭いは漂っているままだ。汗と脂が混じったような変な臭い。
ああ、困ったと思いつつ、朝飯前にまず玄関掃除だと、バケツに水を汲んで来た。わたしが起きて、何かしら始めたのに合わせるかのように、姑も起きてきた。
「お早う」
「お早うございます。臭いが気になるからまず玄関を掃除しますね」
「玄関のタイルを磨くなら、外掃除用の束子は裏口の方にあるよ」
「そうでしたね。取ってきます」
などと、わたしが準備の為に外を行き来しているうちに、姑から呼ばれた。
「惠美子さん、解かったよ」
「どうしたんですか?」
「臭いのはこれだから、捨てて」
姑から渡されたのは女郎花だった。姑は花をわたしに渡して、花瓶を洗いに行こうとしている。
「これって女郎花ですよね?」
「そうなの、これ昨日の散歩で見掛けて摘んで来たんだけど、臭うとは思わなかった」
「そうかあ、女郎花を水に活けると悪臭を漂わせるって本当だったんだ」
わたしは女郎花の花束を外に置いてあるゴミ箱に捨てた。後はついでなので、玄関をしっかりと掃除した。
掃除を終えてから、以前読んでいた本を取り出して、女郎花の頁を姑と確認した。『うまい雑草、ヤバイ野草』(森昭彦 サイエンス・アイ新書)に「収穫を許さぬ秋の花乙女」と載せられている。花瓶に挿すと、その水がすさまじい腐敗臭を漂わせるとあるのだ。実体験してようく解かった。女郎花は野に咲く姿を楽しむもので、家に持って帰ってきてはいけない花。
原因が判明したので玄関はもう大丈夫とメールで良人に報告していたが、帰宅した良人は、「まだ気になる」と消臭スプレーを発射した。
春の七草と違って、秋の七草はその姿や風情を楽しむものと言われているが、女郎花のこの臭いまでは「野草のヤバイ特性」知らせる本を読むまで知らんかった。
女郎花が手折られるのを拒むのは、都から来た美男に恋して捨てられた、美しく純朴な田舎の娘の死をきっかけに生まれた花という伝承があながち嘘ではないのだろうと思わせる。




