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「どうしたら騎士になれるの?」
「明日の演習に参加するんだよ。君は再度評価される。……その結果がどう転ぶかは分からないけど」
「詳しく」
「四人中の三人が、君を落とすのには惜しいと判断したんだ。ガイル隊長だけが頭が固くて『騎士と死ぬ覚悟のない者が騎士になる資格はない』なんて言ってさ、あ、これは秘密ね」
貴族の団長様め。私の騎士ライフを奪うなんて!
というか、そういうのは多数決で決めるべきじゃない? ガイル団長の権力強すぎない?
「明日新入騎士たちの演習が山で行われる。ガイル団長以外の三人の強い意向により君はそこに参加できることになった。控え目に言って、かなりハードな演習だけど、そこで成果を上げれば、君は王宮騎士団に入団できるということだ。ちなみに、これも平民と貴族の合同演習」
「参加しないなんて選択肢はないわよ」
私は強気でそう言い返した。
まさに敗者復活戦じゃない。絶対にガイル隊長を認めさせてみせる。
「だと思ってた」
オーカスはそう言って、目を細めて笑う。「合同演習なのね」と私が呟くとオーカスは私をまじまじと見つめながら言葉を発した。
「君が騎士団の在り方を変えたんだよ」
「……私が?」
「エド様が入団試験を見たいなんて言い出さなければ、平民と貴族が混ざることなんて絶対になかったんだ。そして、今回の演習もだ。君の騎士としての素質を再評価するために新たな合同演習が生み出された。君を中心にこの入団試験は動いているんだよ」
その発言に私は思わず口を開いてしまう。
こういうのって、私が世界中心だと思っていたけれど、実際はそうじゃなかったって大人になって気付く、みたいなパターンが多いのに、まさかの逆パターン!?
全員巻き込み事故みたいなことになってるじゃない。というか、もはやこれはエドの権力乱用よね?
「そんな要に私がいるなんて」
「君は特別だからね」
「…………特別になりたいって思っていたのに、特別になった瞬間、普通に戻りたいって思ってしまうのはどうしてなのかしら」
「天邪鬼すぎるね」
「仰る通り」
オーカスに一刀両断されてしまった。
あれほど「顔がかわいすぎる私はここにいるべきじゃない!」って言い張っていたのに、今、私は多くの人間の動きを、制度を変えてしまうほどの力を持っている。……実際に持っているのはエドなんだけど。
権力を持つ者は実際にどれだけの影響力があるのか自覚しておかなければならない。……私はそこに対しての意識があまりにも薄かったのかもしれないわ。
……権力って怖いわね。
「まぁ、けど人間だからそんなものじゃない? ……あ、人間でもないのか」
こいつ、わざと喧嘩売ってきているのかしら?
「特別になれて嬉しいに決まってるじゃない。ずっと願ってたんだから」
私はニコッと作り笑顔を浮かべる。
そんな私の皮肉を無視して、オーカスは話を元に戻した。
「合同にしたおかげで平民と貴族の良さをそれぞれお互いに知ることができたっていうのもあるから、別に悪い話ではないんだよね。ただ、身分さでの問題は起こり得るってことだね。貴族は良い人ばかりじゃないから」
「そんなの逆も然りよ」
私がそう返すと、それはそうだ、とオーカスは楽しそうに笑った。




