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私は一人王宮を出ようとした。
不合格だったのだから、これ以上ここにいる意味はない。いればいるほど、虚しくなるだけだ。
「王子様からの熱い告白はどうだった?」
私が王宮を出ようとしたのと同時に後ろから声をかけられ、振り向く。
「……オーカス!?」
「久しぶりだね。元気だった?」
「え、ええ。貴方は?」
「僕は大変だったよ。……それで、試験に落ちたんだって?」
「……からかいに来たの?」
私は思わず強くオーカスを睨む。
落ちたことの事実は受け止めているが、それを笑いに来られたのならまた話は別だ。こちらの態度も変わって来るわよ。
「そこまでデリカシーのない人間ではないさ。ただ、君が落ちるなんて、と思って」
「エド様から全部聞いてるんじゃないの? ……ていうか、熱い告白ってなに!? あれは別に告白とかそんなんじゃないでしょ」
自分でも早口になっているなと思った。オーカスは私の言葉に目を丸くしていた。
なにこの感じ……。私が変なこと言ってるみたいになってるじゃない……。てか、聞かれてたんだ。
「君、もしかして馬鹿なの?」
「ちょっ」
「一国の王子が平民の君に『妃になれ』って言ってるのが、どれぐらいとんでもないことかってぐらい理解出来るだろ? そんなクソ面倒くさいことにわざわざ首を突っ込むなんて、愛しかないだろ」
「……てっきりビジネスパートナー的なことかと」
「はぁぁぁ、本当に馬鹿だね」
オーカスは呆れた様子で盛大にため息をついた。
そこまで言われる!? 「好きだ」なんて言われていないんだから、分からなくて当然でしょ!
「愛は見えないんだから、ちゃんと言葉で表してもらないと!」
私が勢いでそう返すと、オーカスは更に呆れた様子で私を見つめる。もはや、諦めに近い表情だ。
「言葉でも行動でも示しているだろ」
「………………たしかに」
オーカスの言う通り、エドは言動でちゃんと愛を示しているかもしれない。
もしかして、私ってめちゃくちゃ鈍感な女だったってこと……? なんだかそっちの方がショックだわ。
「逆に君がそこまで王子に入れ込んでいないことが良いのかもしれないけど……。妃になりたい女なんてごまんといる。ましてや平民に対して、そんなチャンスがあるなんて言われたら血眼になって狙いにいくだろ」
「私が妃になれることって……」
「心配するな、と殿下に言われただろ? なら、大丈夫だ」
「そうだけど……」
「そんなことよりも、君が今から騎士になれる方法が一つある。僕はそれを伝えに来たんだ」
それを、早く言え!!!




