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「ジョルジは『お前は俺の跡継ぎだ』なんて当時は言わずにちゃんとリチャードを騎士にするために支えようとしたのよ。貴女も薄々気付いているかもしれないけれど、ジョルジは指導者として完璧でしょ? 他が足元にも及ばないほどに」
「元々何かをやっていたんですか?」
「彼の父が王宮騎士だったそうよ。……戦いで早くに亡くなってしまったそうだけど。すごく厳しい父だったって。自分のことを騎士にさせたがっていたって言っていたわ。本人は全く別の道で花を咲かせたけれど。メニューの構造を今でも覚えているぐらいだから、相当鍛錬を積んだんでしょうね」
今日になって初めて知る話が多い。
こんな不思議な屋敷を作る人だ。大工といえども、ほぼ芸術家だもの。そりゃ、騎士には向いていないわよね……。
「ジョルジさんはリチャードを強制的に鍛えたりはしなかったんですか?」
「彼は諦めた人をわざわざ引き止めたりしないの。それが、リチャードはそれが余計に心にきたそうよ。……だからこそ、『跡継ぎになる』って心に決めて、それ以降は絶対に弱音を吐いたりせずにジョルジの背中を追っているわ」
「ジョルジさん、リチャードに色々と教えている時の表情がまさに『父』って感じですもの」
たまたま見かけたことがある。
材料の説明をしている時だったか、リチャードは真剣な表情でジョルジの話を聞いており、ジョルジは丁寧にこれはこうとかあれはどうとかを言っていた。
その光景が「親子」っていう感じがしてすごく良かった。
私の言葉にナタリーは笑みをこぼす。
「貴女といる時もそうよ」
「……え?」
「リチャードが『父さんはルナに期待してる』って嫉妬していたぐらいだもの。けれどすぐに『けど、父さんの気持ちは分かる』なんて言って、リチャードも貴女の実力には目を瞠っていたわ。それぐらいルナはすごいのよ。だって、あんなに張り切っているジョルジを見たのは久しぶりだもの」
きっと、リチャードが騎士を目指したぶりだろう。
私はナタリーの言葉に胸が熱くなった。リチャードがそう思ってくれていたことも、ジョルジが私に期待をしてくれていたことも、嬉しかった。
少なくとも、ウエスト家には顔が良いだけの女じゃないって証明できたんじゃないかしら。
ナタリーはまた話を続けた。
「私はいつまで続くかしらなんて言っていたのよ。ごめんなさいね。貴女がこんなにも根性のある子だと思わなかったわ。見くびっていたみたい。…………けれどジョルジはね、『彼女は諦めないよ』って貴女を最後まで信じていたわ。私、びっくりしちゃって……。ジョルジがそれほどルナ・グレイディという人間を買っていたことに私も嫉妬しちゃったわ」
「そんなこと……、全然知りませんでした」
「そりゃそうよね。だって、貴女の前では鬼教官だもの」
ナタリーはどこか嬉しそうにそう言って、また笑った。
私はその期待に応えたい。絶対に騎士団に入ってみせるわ!




