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私はジョルジの目をしっかりと見て、言葉を発した。
「苦労なんかじゃないです。騎士になりたいと本気で望んでいるんです。あるのは志だけです」
その言葉にジョルジは目を見開いた。リックも隣で驚いた表情で私を見ている。七歳と言えども、私の言っていることの異常さは理解しているのだろう。
「一から何もかも手に入れてみせます」
私は続けてそう言った。
ジョルジは私から目を逸らさずに「リチャード」と息子の名を呼んだ。続けて「本当に恐ろしい者は誰だか分かるか?」と質問する。
リチャードはなにも答えず、一呼吸置いた後にまたジョルジが口を開く。
「こういう子だ。よく見ておけ。……何もかも失って、何も持っていないことを自覚した人間だ。嘲笑されるような馬鹿者になるか、それとも……とんでもない者に化けるか、だ。どちらにしても面白い。……いいだろう、入団試験までこの私が面倒をみてやろう」
私は突然のジョルジからの許可に「え」と思わず声を漏らす。
まさかのオッケーをもらってしまった!? しかも、面倒まで見てくれるの!? ……絶対に忙しいはずのジョルジが直々に?
「だが、一つ条件がある」
「なんでしょう」
「絶対に途中でやめるな。私は決して手を緩めたりはしない。それを約束できぬなら」
「受けて立ちます」
私は嬉々たる声で返答し、笑みを浮かべた。
ジョルジは「明日、日が出た頃に庭へ来なさい」と言って、食事に戻った。
意外とすんなり私のことを受け入れてくれた……? リチャードの話からすると、もっと手強い相手だと思っていたわ。
……ここで気を緩めちゃダメね。もしかしたら、私をこの家から追い出すために超過酷な訓練が待ち受けているかもしれない。
「良かったわね、ルナ」
そう言って、ナタリーは私に笑顔を向けていた。
とりあえず、一件落着! あとは、入団試験のみ!!
「意外でしたわ。ルナの件、もっと嫌がるのかと……」
ナタリーはソファに座り、コーヒーを口に運ぶ。ジョルジはナタリーの言葉に少し間を置いて答えた。
「『美貌だけが取り柄の娘』と耳にしたことがあったが、確かにその通りだった。だからこそ、その容姿にあぐらをかいて、リチャードの恋心につけこんでいるのかと思ったが、そうではなかった。……ああいう覚悟を持った目をした奴を一度見たことがある。そこに賭けたくなったのさ」
ジョルジの言葉にナタリーは少し目を丸くした。
「あら、前回は誰でしたの?」
「君だよ、ナタリー」
家を出たばかりの時のナタリーは庶民の世界で生きていくという覚悟があった。後に退けない状況というのは、人を強くするのだろう。
ジョルジはそんなことを思いながら、座っているナタリーの元へ近づき、頬を優しく撫でる。
気弱そうに見える彼女がこんなにも度胸があるとは誰も思うまい。
「前回の賭けはどうでした?」
「勝ったよ」
ジョルジはそう言って、優しく微笑んだ。




