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リチャード母がリチャードに私の事情を説明する。そして、ここで少し遅れてだが、リチャード母が自己紹介してくれた。名はナタリーという。
ナタリーと呼んで、と言われたけど、夫人と呼ぼう。
リチャードはナタリーの話を聞き終えると、私に真剣な瞳を向ける。
「そういうことなら、いくらでも止まってくれ」
「ジョルジに聞かな」
「親父のことなら大丈夫だ」
この男、当主の許可なしに勝手に決めようとしている!?
そんな強気でナタリーの言葉を遮っているけれど、なんだか不吉な予感しかしない。ナタリーへと視線を向ける。彼女はどこか諦めた目をしていた。
ちょっと……、貴女の息子でしょ? 諦めるの早すぎない?
「ルナ、安心しろ。俺が必ずなんとかする」
「あ、ありがたいんだけど、私から話すわよ」
リチャードの優しさには感謝している。けれど、リチャードがジョルジを説得するのは良くない気がする。私の印象が悪くなるというか……。むしろ、住みづらくなりそう。
まぁ、でも二人が味方なのはすごく心強い。
リチャードは私の返答に難しい表情を浮かべる。父親に対して良い印象を抱いていないように思えた。
「頑固親父だから……。ルナのイメージもあんまり……」
リチャードは言いにくそうにする。
そりゃもちろん私の良くない噂は耳に入っているだろう。
説得するのは大変ってわけね。……大変であれば大変であるほど燃えるじゃない。戦ってやろうじゃないの。
…………却下された時のことはまた後で考えよう。
「それでも私が話すわ」
「……なんかルナ、雰囲気変わったか?」
流石私に好意を抱いてくれているだけのことはある。雰囲気の違いを気付いてくれるなんて!
五年間も神界で鍛錬を積んでいたからね、とは言えないものね……。
「色々あったからね」
そう言って、私は作り笑顔を浮かべた。
どこか意味深な空気を漂わせておくと、より一層ミステリアス感が出て良い。
「……というか、ルナ、王宮騎士団に入団したいのか?」
リチャードは急に険しい表情になる。
その反応をされることはもう想定内だ。さっきもナタリーがその話をしている時に、一瞬理解していない顔をしていた。リチャードのそんな様子を無視して、ナタリーは説明しきってしまった。
私は「そうよ」と短く答えた。
理由は細かく伝えなくてもいいわよね……。エドの話を持ち出したらややこしくなってきちゃうし……。あ、けど、私が王宮から来たって………………。
「そういえば、どうして貴女は王宮の馬車に乗って来たの?」
ああ、やっぱり聞かれた。
ナタリー、なんてタイミングがいいのよ。もしかして、私の心の中でも読んでるの?




