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私は顔が良いだけ  作者: 大木戸 いずみ


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 よし! 気合入れていくわよ!

 私は手に持てる着替えだけを借りて、王宮を去った。 

 短い間……、短すぎる間だったけれど、お世話になりました。

 馬車に揺られながら、これからのことを考える。もしかしたら、リチャードに断られるかもということを視野に入れとかなければならない。

 大工と言えば聞こえはただの平民っぽいけれど、彼の家はかなり良家だ。父親は街一番の腕の持ち主、稼ぎは大工の中ではトップだ。彼の父を一度見たことはあるが、かなりいかつい見た目をしている。

 ……重要なのは母親の方だ。リチャードの家を選んだ理由は母親にあるといっても過言ではない。

 彼女は元令嬢だ。噂によれば家族の反対を押し切って平民と結婚したという。下級貴族の娘だとかなんとか……。

 家族とは縁を切ったらしいが、血の繋がりはある。いざという時に連絡は取れるはずだ。

 王宮騎士団のメンバーは貴族だ。もしかしたら、嫡子じゃないパターンの王族も混じってるかも。 

 平民はどれだけ優秀であっても、平民だけの騎士団が形成される。エドはそれを懸念していたに違いない。だから、コネ入団を提案したのだろう。

 平民だけの騎士団が劣っているというわけではない。だが、貴族だけで形成されている王宮騎士団――第一騎士団は最も王族の近くで働ける。

 平民だけの騎士団は第二騎士団になる。王宮騎士団といっても、やはり平民と貴族では質が違うらしい。

 実際に彼らにあったわけではないが、裕福で、昔から一流の剣術を教育される貴族たちと荒っぽく自己流でのし上がることの多い平民では確かに色々なことに対する感覚はずれているだろう。

 みんな同じ入団試験に受かっている。ということは、平民たちの方が優秀な気はする。

 まぁ、これは優劣の問題ではない。大切なのは、どっちの方がエドの近くにいられるかということ。

 そう、私はリチャードの母親の苗字を借りようとしている。

 貴族の苗字を借りるなんて難しいことは百も承知だ。だが、貴族と繋がりがあるのとないのとではかなり違う。……貴族に養子に入る作戦は難航しそうだが、やってみる価値はある。

 私は馬車から窓の外を眺めた。もうすぐ街に入る。


「戻って来た……」


 この短期間で私は数人分の人生を終えるほどの経験を積んだ気がする。毎日ずっと忙しかった。

 ……少しだけ休もう。

 私はリチャードの家に着くまでの時間、眠ることにした。

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