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私は話す前にケーキを食べ終えた。エドもそれは許可をしてくれた。
何もなくなったお皿にフォークを丁寧に置き、紙ナプキンで口を少し拭く。そして、私は口を開いた。
「クイーンの元へ来い、と言われました。私の弟が生きている、と。あと、王宮の窓ガラスの脆さを理解していたのは……キュディスに教わったからです」
私がそう言うと、少しの間沈黙が流れた後、エドは大きな声を出した。
「知識の神か!?」
「はい。そのキュディスです」
そりゃその反応になるわ。神様から教わったって現実的じゃ無さすぎるもの。……けれど、今の私なら信じてもらえるだろう。
エドは信じられないという表情を私に向けつつも、ゆっくりと納得しているような感じではある。
神の血が流れていることも、神界へ行ったことも、証明してみろ、と言われれば無理だ。だが、エドは「証拠をみせてみろ」なんて言わない。
「それは確かに王宮のことを詳しく分かっていても不思議ではない」
「あ、でも王宮の構造は分かっていないんです。ジャティスに聞いても教えてもらえなかったんですよ。『自分で確かめてみろ』なんて言われて……。そう簡単に王宮なんて行けるわけな」
「おい、待て。ジャティスは工芸の神のジャティスか?」
「はい、そのジャティスです」
私の言葉を遮って、眉間に皺を寄せているエドに向かって頷く。
どうしたんだろう? どこか痛いのかな?
察しの悪すぎる反応を脳内でとりながら、エドの言葉を待った。私は冷めてしまった紅茶を口に注ぐ。
「……ああ、ようやく理解してきたぞ。通りでお前は並外れたことをしでかすわけか」
「あの人たちスパルタだったので。日々鍛錬の積み重ねでようやくこれ状態ですよ。……てか、あんなに頑張ったのに神の力をなにひとつ使えないなんて悲しくないですか? おまけに『顔が武器』だなんて言われて。分かってるわよ! こっちは十六年もこの顔に頼って? 縋って? あやかって? 生きてきたんだから! 遺伝に感謝よ!」
私が独り言を勝手にヒートアップさせている時に、エドは何か考えごとをしていた。
……なんだかとっても恥ずかしい絵面になってしまってる。落ち着け、私。
一度深呼吸をして、もう一度紅茶を口に含んだ。
「鍛錬もそうだが、今、ルナがその強さを持っているのは、お前が天才だからだろ」
「……て、んさい?」
「天才」
「誰が?」
「ん」
そう言って、エドは私を指さす。
人に指をさすのは失礼だと教わらなかったのだろうか。やっぱり、王子だから許されてきたのだろうか。
「聞いてましたか? 私はもうそれはそれは鍛錬を積んで」
「それだ」
エドはまた私の話を遮って、強い口調でそう言った。




