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私は顔が良いだけ  作者: 大木戸 いずみ


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 私は顔が良いだけ。

 それだけで良かった。楽に生きることができた。顔が良いのだから、もう他は自分になにも望まなくていいと思えた。

 学もなくていい、性格も悪くてもいい、お金もなくていい。だって、顔が良いのだから。

 



『もしその顔を失ったら、君はどうするんだい?』


 神界にいる時に、キュディスにそう聞かれたことがある。

 顔を失ったら? ……そんなこと考えたこともなかった。顔を失うことなんてありえないもの。


「何も持っていない空っぽの人間になっちゃうのかも。そのまま廃人に……なんて可能性もありえるよね。最悪な人生を歩むことになりそう」

『何も持っていないことが悪いことではない。何も持とうと思わないことの方がよっぽど悪だ』

「…………たとえそれが権力であっても?」

『欲を持つことは悪いことではない。欲があるからこそ、人間は進化する』

「それで不幸な人が現れたら? 何も持たないことを選択した人間の方が無害じゃない?」

『そうなれば、文明など生まれないだろう。犠牲は常につきものだ』

「それはそうだけど……、それでも欲を持たない方が世界は平和じゃない? 人間から『欲』を奪えば良いのに。神様ならできるんじゃないの?」

『欲は人生においてスパイスみたいなものだよ。ないと味気ないが、あると刺激的だ』

「……スパイスを持たない人間なんて見ていて楽しめない、と?」


 私がそう言うと、キュディスは何も答えずにハハッと笑った。

 神視点というのはあまり分からない。けれど、私も味気ない人生に嫌気がさしてしまう気持ちはある。

 今、こうして神界で色々なことを学び、身につけていっていることは楽しい。

 だけど、家族が殺されるのはまた話が別だ。そんな刺激は求めていない。……………………家族が殺される?

 …………そういえば、私、家族が殺されたんだった。……でも、弟は生きてるって。  


「ルイが生きてる!」


 私はそう叫んだのと同時に、勢いよく体を起こし目が覚めた。

 あの仮面男との戦いが終わってすぐに寝てしまったんだっけ……。私は寝る前の出来事を思い出す。

 辺りを見渡すと、エドと会話した部屋だった。ソファまで誰かが運んでくれたのか、ご丁寧に毛布まで掛けてくれている。

 ……誰もいない? まさかここに置いてけぼりにされた?

 私がそんなことを思っていると、ガチャっと部屋の扉が開いた。


「起きたのか」


 起き上がった私を見て、エドは少し驚いた後、安堵の表情を見せた。

 その表情だけで私のことを心配してくれていたのだと分かった。

 いつどこでみても常にイケメンはイケメンなのね。私はそう心で呟きながらエドの顔を眺めていた。

 

「具合はどうだ?」

「全回復しました。ありがとうございます。……ここに運んでくれたのってエド様ですよね?」

「ああ。……もうエドとは呼ばないんだな」


 私が元気になったと知ると、エドは意地悪な笑みを浮かべた。

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