52
私は顔が良いだけ。
それだけで良かった。楽に生きることができた。顔が良いのだから、もう他は自分になにも望まなくていいと思えた。
学もなくていい、性格も悪くてもいい、お金もなくていい。だって、顔が良いのだから。
『もしその顔を失ったら、君はどうするんだい?』
神界にいる時に、キュディスにそう聞かれたことがある。
顔を失ったら? ……そんなこと考えたこともなかった。顔を失うことなんてありえないもの。
「何も持っていない空っぽの人間になっちゃうのかも。そのまま廃人に……なんて可能性もありえるよね。最悪な人生を歩むことになりそう」
『何も持っていないことが悪いことではない。何も持とうと思わないことの方がよっぽど悪だ』
「…………たとえそれが権力であっても?」
『欲を持つことは悪いことではない。欲があるからこそ、人間は進化する』
「それで不幸な人が現れたら? 何も持たないことを選択した人間の方が無害じゃない?」
『そうなれば、文明など生まれないだろう。犠牲は常につきものだ』
「それはそうだけど……、それでも欲を持たない方が世界は平和じゃない? 人間から『欲』を奪えば良いのに。神様ならできるんじゃないの?」
『欲は人生においてスパイスみたいなものだよ。ないと味気ないが、あると刺激的だ』
「……スパイスを持たない人間なんて見ていて楽しめない、と?」
私がそう言うと、キュディスは何も答えずにハハッと笑った。
神視点というのはあまり分からない。けれど、私も味気ない人生に嫌気がさしてしまう気持ちはある。
今、こうして神界で色々なことを学び、身につけていっていることは楽しい。
だけど、家族が殺されるのはまた話が別だ。そんな刺激は求めていない。……………………家族が殺される?
…………そういえば、私、家族が殺されたんだった。……でも、弟は生きてるって。
「ルイが生きてる!」
私はそう叫んだのと同時に、勢いよく体を起こし目が覚めた。
あの仮面男との戦いが終わってすぐに寝てしまったんだっけ……。私は寝る前の出来事を思い出す。
辺りを見渡すと、エドと会話した部屋だった。ソファまで誰かが運んでくれたのか、ご丁寧に毛布まで掛けてくれている。
……誰もいない? まさかここに置いてけぼりにされた?
私がそんなことを思っていると、ガチャっと部屋の扉が開いた。
「起きたのか」
起き上がった私を見て、エドは少し驚いた後、安堵の表情を見せた。
その表情だけで私のことを心配してくれていたのだと分かった。
いつどこでみても常にイケメンはイケメンなのね。私はそう心で呟きながらエドの顔を眺めていた。
「具合はどうだ?」
「全回復しました。ありがとうございます。……ここに運んでくれたのってエド様ですよね?」
「ああ。……もうエドとは呼ばないんだな」
私が元気になったと知ると、エドは意地悪な笑みを浮かべた。




