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「この子、あんな戦いの仕方どこで覚えたんだろうね」
オーカスはさっきの出来事を思い出しながら、感心するようにそう呟いた。
仮面の男が消え去った後、その場に駆け付けた衛兵たちに「侵入者が入って来た」とだけ報告をしてその場を丸く収めた。
侍女長が窓ガラスの破片を見て顔面蒼白だったのはなかなか面白かった。今にも発狂しそうな勢いだった。
あれをルナが壊したなんて言えば、間違いなく牢獄行きだ。生涯かけても払えない額の金額を請求されるだろう。
窓ガラスなんかよりも、手のひらに火傷を負ったルナの方が心配だった。俺はすぐに彼女の手を魔法で治癒した。
ルナは痛そうな表情を一切見せずに「魔法ってやっぱり凄いんですね」と呑気なことを言っていた。
治癒を終えた瞬間、彼女は倒れるように眠ってしまった。きっと、戦いで神経を張り巡らせていて疲れたのだろう。
俺たちは先ほどまでルナと話していた部屋に入った。俺はルナを部屋の奥にある長いソファに寝かした。
残った四人でソファに座り、一息ついた。セスとリックは俺と座ることを遠慮していたようだったが、「身体を休めろ」と言って無理やり座らせた。
あの仮面の男の魔力に反して動こうとしたのだ。相当な気力と体力を使ったに違いない。
あの場に仮面の男は結界を張っていた。あいつが去ったのと同時に結界は消えたが、わずかに魔力が残っているはずだ。今はそれを騎士団に調べさせているところだ。
「てか、ドミンが燃えるってよく知っていたな」
オーカスがまた呟く。ドミンは紫の花の名だ。
確かに彼女があの花の作用を知っていたことは驚いた。花瓶を投げてくれと言われた時は何も考えずに体が勝手に動いていたが……。
あの状況でどう戦うかを瞬時に判断し、優勢となった。その才能には目を瞠るものがある。
「彼女が大きくジャンプした瞬間、女神が飛んでいるのかと思いましたもん」
「……性格は腐ってるけどな」
「おい、リック」
「本当のことだろう? 宿で初めて出会った時のことを思い出してみろよ。殿下にあんな失礼な態度をとった女だぞ。忘れたのか?」
「それは……、けど、全然印象が違うくないか? 今日の彼女はまさに戦士だっただろ?」
セスの言葉に納得してしまったのか、リックは黙り込む。
俺は部屋の奥で眠っているルナへと視線を移しながら、二人の会話に割り込んだ。
「お前たちが動けない状況で動けたこと、そして、仮面の男が発していた意味不明な言葉を理解していたこと。ルナは俺たちに何か隠している」
「……そもそも家族があんな殺され方されるっておかしいですもん」
「あの男の狙いが彼女だったってことも重要ですよ。彼、チェイスの一味ですかね」
セスとオーカスが会話を続けた。
何者なのだ? とずっと思っていたが、本当に彼女の正体が分からない。敵か味方さえも分からなくなってきた。
「他国のスパイって可能性はないですか?」
リックは険しい表情を俺たちに向けた。




