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私は顔が良いだけ  作者: 大木戸 いずみ


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「お前と戦うのは今度のお楽しみだ」


 仮面の男はそう言いながら、私の方をチラッと見た。何か言おうと思ったけれど、言葉が出てこない。

 ……私はエドがいなければ死んでいた。そう思うと、自分が情けなくてしかたがなかった。


「戦う価値も攫う価値もない」


 その言葉にカチンと来た。それほど弱い自分が許せなかった。

 なんのために神界で鍛えてもらったのよ。こんな調子じゃ復讐なんてできない。

 仮面の男はまた訳の分からない言葉で「ああ、けど勝手に判断するなとクイーンに怒られるな」と発して、舌打ちをする。

 私は履いていたハイヒールを脱ぎ、握りしめた。硬く尖った武器になる。ヒールを彼の顔に当たるように、思い切り靴を彼に向かって投げつけた。

 パリンと一部だけ仮面が欠けた。左の目元が現れる。……真っ白い肌に黄緑の瞳が光って見えた。まるで悪魔のような目をしていた。その視線に背筋が凍った。

 負けない、と心で自分を鼓舞して、彼を睨む。


「宣戦布告よ」


 私ははっきりとした口調でそう言った。

 魔力もなにも持たない私が魔法を使うものに喧嘩を売るなんてどうかしている。けど、もう私の世界はどうかしまくっている。

 喧嘩する相手がひとり増えたぐらいで、無茶苦茶な人生には変わりない。

 どうにでもなれ、……いや、どうにでもしてみせる。

 セスもリックもオーカスもそしてエドもみんな目を丸くして私を見つめている。仮面の男も突然の衝撃に驚いたのか、私が仮面を割ったことに驚いたのか、固まっている。


「私に戦う価値がないなんて言わせない」


 私はもう一方のハイヒールを脱いで、ギュッと握りしめた。

 傍から見たら、なんて無謀な戦い方なのだろうと思われそう。……けれど、太刀打ちできないと思いたくない。


「その自信は一体どこからくるんだ? 過剰な自信は身を滅ぼすぞ」

「油断も身を滅ぼすことになるわよ」

 

 私がそう言い返すと、彼の瞳の中に少し私に対しての興味が生まれた気がした。


「その靴ひとつで俺に勝とうというのか?」


 ……本当にその通りだ。……頭を使って。神界で学んだことを活かしなさい。どうして私に魔法が使えないの、って嘆く前にできることはまだあるはず。 

 確かキュディスとイザベラに教わったことを思い出して。知識も戦い方も私は知っている。後はアウトプットするのみ。


「もちろん」


 私はそう言って、微笑んだ。

 そして、勢いよく彼に向かって走り出していた。……よくよく考えたら、私は男が使用していたと思われる動きを封じる魔法にかかっていなかった。

 つまり、私は魔力がないこと以外は王族だ。神の血がこんなところで役に立つなんて……。

 突然向かってくるとは思わなかったのか、男の動きが少し遅れる。


「だから言ったのに、油断大敵だって」

「これぐらいは誤差だ」


 彼がそう言った瞬間、私は全力で靴を投げた。今度は大きな窓ガラスに向かって……。

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