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大きくため息をつく。
幼き頃に友を失い、今は家族を失い……、ルナの人生は彼女の表面からだけでは到底想像できないものだ。
人生と戦い続けている彼女に少しでも休める場所を与えたい。
「平民に恋する王子様……、なんかロマンチックですね」
「だから」
「ですが、正妻にはなれませんよ」
俺がオーカスの言葉を否定しようとすると、彼は被せて強くそう言い放った。
……そんなことは分かっている。貴族でない人間が王妃にはなれない。
「そういうのじゃない」
俺はオーカスと目を合わさずにそう言った。
ルナの幸せを願うだけであって、彼女とどうにかなりたいわけではない。
俺の部屋に短い沈黙が流れた。オーカスは全て見透かしたような目で俺を見ている。
「そこに関しては僕が首を突っ込むことじゃないので。……あ、そういえば、チェイスの追加の情報がありまして。やっぱりメグが関わっているようですね。彼女の魔力を感知したって情報がありました」
メグ……、王家を裏切った王族だ。
彼女がチェイスを作り上げた張本人だ。彼女を筆頭に数名の王族がチェイスに入った。魔法を扱う面倒な組織だ。何人の組織になっているのか未だに不明だが、予測ではかなり大きい。
そのリーダーが直接ルナの家族に手を下したのか……?
「ルナとメグの接点を調べてくれ」
「承知いたしました」
オーカスは頭を下げて、この場を後にした。彼が部屋を去った後、本棚へと近付いた。
昔、母がよく読んでくれた本を手にする。随分と古びた本だ。ずっと丁寧に扱ってきたおかげで、今もまだ読める状態だ。
この本は遥か昔、神と通じることができた男が書いたという。
俺は「神々と人間」という表紙に書かれた題名を指でなぞった。
内容はほとんど神についてだ。人間について書かれているのは、神が王族にとある力を与えたということだけだ。その力が「魔法」だ。
魔法は王族の特権なのだ。だからこそ悪用はしてはいけない。国の繁栄のため、民のために使わなければならない。
むやみに子孫を残せばいいものではない。父の女好きには皆困っている。母も愛想を尽かしている。
尊敬できるところはないが、腐っても国王だ。逆らうことはできない。
一番好きな神のページを開く。美の女神――ラディだ。
初めてこの神の存在を知った時から、ずっと惹かれている。
……この本に書かれているラディの絵、ルナに似ているのだ。面影があるなんてものじゃない。そっくりだ。
一体どうなっている。
ルナとラディが繋がっているのか……? だが、相手は神様だ。そんなはずはない。
ラディが発言した内容へと目を向ける。俺のお気に入りの言葉だ。
俺は、美しさを武器に生きているラディが好きなのではない。彼女の美しいものの捉え方が好きなのだ。
「美しいと思えば、それは誰がなんといおうと美しいのだ」
本に書かれている言葉を読み上げた。
人の数だけ美しさは存在する。美の神がそう言っていることがどこか嬉しい。




