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オーカスはなぜ自分がカレンを運ばなければならないのだ、という表情をしつつも俵担ぎで彼女をベンチまで運んでくれた。
「傍から見たら、気色悪い趣味の持ち主だと思われるぞ」
「じゃあ、傍から見られないように周囲に注意を払っておいてください」
「……全く王族をなんだと思ってるんだ」
オーカスは呆れたようにため息をつく。椅子に座らされたカレンは私を睨みつけていた。私はニッコリと微笑み返して、口を開いた。
「嫌いだなんて面と向かって言われると傷つくじゃない。私たちお互いのこと何にも知らないのに」
正直なところ、面と向かって言ってくれるカレンの方が陰で言ってくる奴よりもずっと良い。
「知りたくもない。……あんたみたいな美女、本当にムカつく。オーカス様もあんたの顔が良いからその奇行を許しているんだ。その舐めたような態度もおおめにみてる。だが、これがあんた以外なら? とっくに衛兵に連れられて殺されている」
確かに彼女の言っていることは一理あるのかもしれない。
オーカスが人を顔で判断するとは思えないけれど、それは「私」だからそう思うだけであって、カレンからしたらやっぱり私は贔屓されているのかもしれない。
顔が良いと得だ。それは経験的に知ってはいる。……けれど、そのせいで幸せになれないこともある。
「家族が殺されても、こうやって王宮で過ごせることができる。……平民には夢の中の夢の話だ」
「…………そうね、私はこの顔を持っていたおかげでここに来れたのかもしれない」
私は静かにそう言い返した。
「私は苦労して今の立場を手に入れた。あんたごときに潰されてたまるものか!」
「そんな大きな声を出さないで。……耳が痛くなる」
「この……、クソ女! 王子を誑かしてただで済むと思うなよ!」
どんどん口が悪くなる。
オーカスは黙って私たちの様子を見ている。この人は本当に傍観者でいるのが楽しいのだろう。
私はそんなことを思いながら、大きくため息をついた。カレンを腕を縛っていた布を取る。突然の私の行動に彼女は驚いた表情で私を見ていた。
地面に落ちていた先端の尖った少し大きめの石を私は拾い、彼女に差し出した。
「顔に少しでも傷が入れば、私の価値は下がる。……ほら」
カレンに石を受け取るように促す。彼女は戸惑いつつも石を手にする。
「……どういうこと?」
「私のこと嫌いで、許せないんでしょ? なら、制裁するチャンスを与えてあげる」
「何を言って……」
彼女は目を見開き、固まった。私は彼女の手首を掴み、私の頬の横に持ってきた。




