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私は顔が良いだけ  作者: 大木戸 いずみ


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 ウロウロするな、と言われた王子の言葉を破って、私は王宮散策を続けた。

 顔のせいで良くも悪くも目立ってしまう。

 噂と言うものは一瞬で広まるのだろう。「王子が連れて来た謎の女」という肩書がある。使用人から見れば、私はどこかの貴族に見えるかもしれない。

 …………それにしても、大きい家だこと。

 歩いても歩いても端に辿り着かない。王子の陰は私のことを天井から見張ってるようだし……。


「あ、いいこと思いついた!」


 いい案が浮かび、思わずニヤッと笑みを浮かべる。

 この陰を捕まえよう!!

 ……そうと決まれば、天井へと繋がる入り口が絶対にどこかにあるはず。

 工芸の神に教えてもらった知識がこっちにはある。絶対に見つけ出せる。……この王宮の造りまでは教えてもらわなかったけれど。

 私は人気(ひとけ)のないところを探し、とある行き止まりの通路を見つけ、壁をじっと見つめた。

 大きな窓から日の光が当たっているだけの通路。窓の下には棚が一つある。中を開けると空っぽだった。

 なんにもない……。この棚に仕掛けらしいものは見つからないし……。ただの棚だ。あたかもここを普通の場所だと見せるためのフェイク棚ってとこかしら。

 ……………ということは壁?

 私は壁を丁寧に触り始めた。どこかおかしなところはないかと神経を集中させて、ゆっくりと隅から隅へと確認する。

 コンコンッと鳴らしながら違和感のある音はないか、壁に触れた手の感覚、神経と言う神経を尖らせる。

 こういう場所に人は隠し通路を作る。人通りのある目立つところには作らない。

 ……私の勘が絶対にここにあると言っている。

 この王宮にはいくつかの隠し扉があるはずだ。そのうちの一つはここに違いない。

 誰かに見つからないうちに探し出さないと!

 今の私はどう見ても不審者だ。見つかったら即捕まって、部屋に戻されるだろう。…………てか、陰は絶対この様子を見ているのに止めないんだ。……確かに姿を現すとマズいもんね。

 むしろ自分の陣地に誘い込んで私を殺した方が手っ取り早いかもしれない。

 

「え、怖すぎ」


 私は思わず小さくそう呟いた。

 その恐怖と誰かが来てしまうという焦りで私の感情は右往左往していた。それを更に煽るかのようにコツコツと廊下を歩く音が聞こえてきた。段々大きくなってる。

 こっちに来てる!!!

 どうしよう……。棚に隠れる? ……無理だ、小さすぎる。

 私は壁に耳を当てながら、おかしなところはないか必死に触り続けた。

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