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私は顔が良いだけ  作者: 大木戸 いずみ


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「私、人間界に戻ったら、二十一歳ってことよね」

『ここでは時が止まっているのだ。戻ってもあの事件の日のままだ』


 キュディスの言葉に私は一瞬思考が停止した。

 なんて便利なのだろう、神の世界。

 ……そういえば、私、遺体をそのままにしてきた。なんて最低なことをしたのだろう。

 ちゃんと綺麗なお墓に入れてあげないといけないのに……。

 あの時はそれどころじゃなかった。私の中にぽっかりと穴が空いて、生きる気力を失っていた。

 人間界に戻ったら、すぐに家族の元へ行こう。

 きっと、あの光景は何度見ても耐えられない。それでも、私は前に進まないといけない。

 このまま現実に向き合わないような人間になりたくない。


『彼女は復讐で身を滅ぼすタイプじゃないと思うわ』


 シャーロットの耳元で何か呟いていたが、聞き取れなかった。


『今のルナの魅力に勝てる人間などいるのか?』

『……いるわけないでしょ。神の血を半分継いでいる上に、私たちが教育したのよ? 誰も敵うわけないわ』


 ジャティスの言葉にイザベラはフフッと満悦な笑みを浮かべた。

 私は未だに神の娘だという実感がない。

 だって、神の力など何もないもの。教わってすらない。


『その力はいつか自力で開花させる日が来るわ』


 柔らかな声でイザベラは私にそう言った。

 美の女神ラディの娘だということを忘れるな、と目で私に伝えていた。

 開花させる日が来るのか自分では分からないが、開花できずとも、私には四人の神様から教わった多くの知識や技術、体術がある。

 それを活かせばいい。


「本当にお世話になりました」


 私はそう言って、深く彼らにお辞儀をした。

 言葉にできないほどの感謝を込めた。ここに来なければ、私は人の道を外していたかもしれない。

 過去を恥ずかしいと思えるのは、成長した証だ。学ぶことをの楽しさを知った。

 彼らが今どんな表情で私を見ているのか分からない。

 ただ、この場所に漂う空気感はとても優しく穏やかだった。

 私はゆっくりと顔をあげた。


「じゃあね、みんな」


 これが最後の別れではない。だから、悲しくはない。

 私はそう自分に言い聞かせて、泣かないようにした。最後は笑顔で終わりたい。

 笑顔を保っていたのに、四人の方が泣きそうな顔をしていた。

 その表情を見て、思わず笑ってしまった。神様もそんな人間らしい顔をするのだと……。

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