12
「私、人間界に戻ったら、二十一歳ってことよね」
『ここでは時が止まっているのだ。戻ってもあの事件の日のままだ』
キュディスの言葉に私は一瞬思考が停止した。
なんて便利なのだろう、神の世界。
……そういえば、私、遺体をそのままにしてきた。なんて最低なことをしたのだろう。
ちゃんと綺麗なお墓に入れてあげないといけないのに……。
あの時はそれどころじゃなかった。私の中にぽっかりと穴が空いて、生きる気力を失っていた。
人間界に戻ったら、すぐに家族の元へ行こう。
きっと、あの光景は何度見ても耐えられない。それでも、私は前に進まないといけない。
このまま現実に向き合わないような人間になりたくない。
『彼女は復讐で身を滅ぼすタイプじゃないと思うわ』
シャーロットの耳元で何か呟いていたが、聞き取れなかった。
『今のルナの魅力に勝てる人間などいるのか?』
『……いるわけないでしょ。神の血を半分継いでいる上に、私たちが教育したのよ? 誰も敵うわけないわ』
ジャティスの言葉にイザベラはフフッと満悦な笑みを浮かべた。
私は未だに神の娘だという実感がない。
だって、神の力など何もないもの。教わってすらない。
『その力はいつか自力で開花させる日が来るわ』
柔らかな声でイザベラは私にそう言った。
美の女神ラディの娘だということを忘れるな、と目で私に伝えていた。
開花させる日が来るのか自分では分からないが、開花できずとも、私には四人の神様から教わった多くの知識や技術、体術がある。
それを活かせばいい。
「本当にお世話になりました」
私はそう言って、深く彼らにお辞儀をした。
言葉にできないほどの感謝を込めた。ここに来なければ、私は人の道を外していたかもしれない。
過去を恥ずかしいと思えるのは、成長した証だ。学ぶことをの楽しさを知った。
彼らが今どんな表情で私を見ているのか分からない。
ただ、この場所に漂う空気感はとても優しく穏やかだった。
私はゆっくりと顔をあげた。
「じゃあね、みんな」
これが最後の別れではない。だから、悲しくはない。
私はそう自分に言い聞かせて、泣かないようにした。最後は笑顔で終わりたい。
笑顔を保っていたのに、四人の方が泣きそうな顔をしていた。
その表情を見て、思わず笑ってしまった。神様もそんな人間らしい顔をするのだと……。




