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060 スタンピード?!

アンヌは両手を掲げて、舞い踊るピクシーと戯れていた。


「うーん。ちょっと、もったいなかったかな?」


ピクシーを手離したことに、少しだけ後悔する。

アンヌに聞いたところ、飛行能力や哨戒能力、消費MPの面ではマルファスの方が使いやすいそうだ。でも、あの雷撃魔法は凄いよなぁ。


気を取り直して、北条に渡す魔石を選ぶ。


「これを考えてるんですが、どうでしょう?」

『バカか、やめろ』

「え?」


俺が魔石を北条に差し出すと、生涼が口を挟んでくる。

その声が聞こえていない北条は、受け取った魔石を自らのスマホに取り込んだ。


「衝撃魔法ですか。津神さん、これはお返します」

「はぁ。使えない魔法ですか? これ?」


「違います。これは津神さん向きの攻撃魔法だからです。ちゃんと理解して選んでます?」


「え? そうなんだ。いやぁ、よく分かんなくて」


そのままスマホから取り出して、北条は俺に魔石を返してきた。

そして、ため息をつきながら言った。


「後で、一覧を開いて見せてもらっていいですか? よく考えずに扱うのはマズイ」

「はぁ、すんません」


「衝撃魔法がどんなものか、教えてあげますよ。魔法として取得してみてください」


俺は言われるがままに「衝撃魔法(中)」を魔石から取り出して、魔法として取得した。

それから、北条に連れられて、射撃訓練場へと移動する。


俺は、ギルドアプリで衝撃魔法対応の人工魔石が埋め込まれた弾丸を購入する。

その他にも、グロッグ用のスイッチデバイスも購入し、銃と一緒に北条に渡した。

受け取った北条が、カチャカチャと銃を弄ってセッティングをしてくれている。


「こっちの魔石弾は、デバイスとの同調が終わってます。マガジンに込めていってください」

「はい」

「通常弾用のマガジンとは別にしたほうがいいですよ」

「え? は、はい」

「込め終わったら、ギルドアプリで衝撃魔法の設定をやります」


ギルドアプリで、発射された弾丸が魔法に反応するように設定を行った。

通常は、魔物に着弾した弾丸だけを反応させる。だが、それだと訓練で使えないからだ。


「訓練が終わったら、設定はOFFにしておくこと。事故で反応させないためです」

「了解です」

「じゃあ、撃ちますか。的ではなく、奥の土嚢を狙ってください」


ニヤリと笑いながら北条が射撃を促す。


俺はビビリながら単発を土嚢に撃ち込んだ。土嚢に小さな穴が空いている。

トリガーから人差し指を離し、トリガーガード側面に付けたスイッチを押す。


何も起こらなかった。


「えと、不発かな? アレ?」


「津神さん、この場で、震脚を踏んでもらえますか」


「へ? えっと。魔法は?」

「まぁ、いいですから、言う通りに。思いっきりですよ」


意味ありげな笑顔を気にしながら、俺は北条から距離を取った。


俺は大きく息を吐いてから直立する。それから、肘を折った腕を腰に当て、拳を握りこんだ。

今度は大きく息を吸い、右足を踏み出す。

上げた足の着地直前に肩を入れて踏み込む、一気に息を吐き出した。


コンクリートの床がズンと重く振動、その直後。


パンッ!


土嚢の着弾腔が、破裂するように爆発した。


土嚢の穴は人頭大に広がっている。中の土がこぼれ落ちていた。

煙は出ていない。まるで、圧縮された空気が土を破裂させたように感じた。


『ほう。こっちじゃ、こうやって使うのか。便利なような、面倒なようなだなぁ』


「どうです? 驚いたでしょ? でも、すごい威力です。ゴブリンなら即死ですね」


「無属性の攻撃魔法か」

「これなら、スライムにも効きますわ」

『いつまで、口開けっ放しで驚いてんだよ?』


生涼の言葉で、我を取り戻す。傍観していた美杉とアンヌが声をかけてきた。


みんなが、衝撃魔法の説明をしてくれた。

衝撃魔法は、使用者の持つ物理的攻撃力を魔法化して遠方で発動させるモノとのことだ。

消費MPも少なく、肉体を鍛えれば鍛えるほどに威力が上がるため、脳筋専用魔法と呼ばれていた。俺向きとは失礼な話である。


魔法は、属性相性によって与ダメージが変わりやすい。

一撃で致命傷をあたえることもあれば、相性の悪さからダメージを与えられないこともあるのが魔法だ。

衝撃魔法は属性が無く、どんな敵にも一定のダメージを与えられるが、一撃必殺的決定打にはならないと考えられている。


その上、取得コストが高いため、冒険者には人気がないとのことだった。


「津神さんは、Dランクで、すでにBランクなみの物理攻撃力を持っています。これから、もっと強くなると考えれば、悪くない選択だと思います」

「涼のMPで連発できるとしたら、これくらいだろうな。10mm弾の威力と合わせれば、現状でも十分使えると思うぞ」


「これって武器の攻撃力も上乗せできるんですか?」

「いえ。武器の分はダメらしいです。ただ、攻撃力をブーストするアイテムを使っている場合、その分の上乗せは可能ですね」


『銀狼革の手袋を試してみるか』


生涼の声が聞こえているアンヌの目が再び光った。


俺は、手袋を召喚して装着する。

魔力を何度か通したためか、最初より俺の手に馴染んでいた。


『津神家直伝パンチが、この手袋でどれくらい強化されるか、良い実験になるだろう』

なるほど。


俺は、無傷の土嚢を選んで、グロックで撃った。

銃のスイッチを押して、みんなから離れる。


大きく呼吸をしてから、より大きな歩幅で足を上げる。

土嚢を穿った着弾腔に向かって、縦拳を突き出した。

震脚と同時に、空間を突き破るように撃ち込む。


スドンッ!


土嚢の袋の切れ端、土や小石が、20m離れた射撃位置まで飛散してきた。

子供なら立ったまま入れそうな大きな破砕腔が、積まれた土嚢に空いている。

奥の強化コンクリートの壁が露出していた。

空いた穴を埋めるように土嚢の束が上から崩れていく。


『ふふん。まぁ、こんなもんだろ。今のお前がこのくらいなら、俺が使えば、この地下室が崩れて埋まるくらいの威力が出たはずだ』


「ば、バカじゃねーの? マジ?」

『ガントレットなら、もっと力が出るぞ』


そ、そんな破壊力は必要ないです。


美杉たちを見ると、3人揃って口を開けて固まっていた。


「えと、こんな感じみたいです」


「す、すごい」

「こ、この威力なら、属性効果は必要ないですね」

「おい、涼、その手袋の力か? それのブースト効果だろ。なんだ、それは?」


右手を上げて、拳を見ると、手袋のナックルガードが淡く光っていた。


「生涼の異世界装備のひとつだそうです。木野の生霊が、異世界から持ち込んだそうで」


美杉が、俺の手を取って手袋を調べ出した。


「他にもあるのか?」


「アンヌさんのピクシーも、異世界から持ち込んだモノかと」

「うーん」


美杉は、手を離して、考え込んでしまった。

やばい。木野の危険人物度が上がってしまう。

アンヌは、異世界産が嬉しかったのか、小躍りしながらピクシーと戯れている。


「み、美杉さんには、こういうのどうでしょう?」

「ま、待て。よく見せてくれ」


アプリの所持魔石一覧を開いて美杉に見せる。

心配になったのか、北条も覗き込んできた。


「ポーション精製機? は? ポーション精製だと!?」

「そんなものが?!」


「えと、珍しいモノなんですかね?」


俺の一言に、美杉と北条が目を見開いて言った。


「おい。北条、ダメだ。こいつ」

「ええ。教育が必要です。魔石も、すべて没収するべきかもしれません」


「いや、それはマズイ。木野に知られたら、敵対されるかもしれん」


「そ、それは、確かに。こんなモノを津神さんに、あっさり渡すような人物です。他に、どんな力を持っているか」

「うむ」


別の意味で木野が問題視されるキッカケを作ってしまったかもしれない。まぁ、いいか。


「えと、今日の事は、見なかったことに」


「なるか!」

「そんなぁ」


「まぁ、いいから、ポーション精製機を出してみてくれ」

「はぁ」


俺はポーション精製機を、その場の床に召喚した。

武器や防具類と違い、こういったアイテムは出してしまうとアプリに戻せない。


床に鎮座するポーション精製機は、存外に大きかった。

高さと長さは1m、幅50cmの金属の直方体だ。

上部には、ポーションの原料を入れるボール状の穴があり、その上に攪拌用なのか回すハンドルが付いている。

その下あたりに、大きなガラス瓶がセットされていた。瓶は横から取り外せる。


「なんか、でっかいコーヒーメーカーみたいっすね」


「う、うむ。説明書的な物はないのか?」

「あ、ここに」


上部に、1枚の紙がセロハンテープで留められていた。外して美杉に渡す。

紙には、女子中学生が書いたような文字で、機械の使い方が書いてあった。


生涼に聞くと、この機械は魔法少女カオルが作った物らしい。

異世界では、錬金術を学んだ者が、ポーションを職人的に手作りしている。

職人によって効能は様々で、中には詐欺的に効き目の薄い物が高値で売買されているらしい。

その実情を嘆いたカオルが独学で完成させた機械だと言う。


「カオルは、お前より、よっぽど役に立ちそうだよね」

『あっちでも、魔王を倒した後は、あいつの方が良い扱いを受けてたんだよね。内政チート的な活躍もしてたし』

「それが今や、お前とエロチャットかよ?」


「異世界ではどうか知らんが、こっちで回復薬は貴重だ」


「そうですね。奈良支部が古来より受け継いだ原液を希釈して売っている物、長野支部がアルプスのダンジョンの地下水から作っている物が有名ですが、どちらも高額です」

「他は、効き目が弱かったり、回復効果が一定じゃなかったりだな。冒険者ギルド以外で出回っている物は詐欺まがいの物も多い」


美杉と北条が、こちらの世界の実情を教えてくれる。

するとアンヌが言い出した。


「これで作ったポーションを売れば、東京支部孔雀院冒険者オフィスの利益になるんでしょうか?」


「え? あぁ。まぁ、そうなるな。TOPに販売許可を出してもらってからの話だが」

「あら、やっぱり、上前はハネられますの?」

「いや、その言い方はダメだよ、アンヌくん。あまりにも畏れ多い」


「ふーん」


何やら思案するアンヌ。


「どっちにしろ。私のボーナスには影響しますよね?」


「え?」


美杉の疑問を無視して、アンヌは手書きの説明書に目を通し出した。


「あら、サクユリの根が原料に使えるんですね。これ、伊豆諸島で採れますわよ」

「そ、そっか。確か、新島で大きなクエストの依頼が入ったばかりだったよな?」


「はい。新島で、夾人虫のスタンピードが予測されています。TOPのいる本部依頼ですわ」


「きょうじんちゅう? それって、魔物ですか?」


俺の質問には北条が答えてくれた。


「夾人虫とは、魔素の影響で巨大化した蟹のことです。一般的にはモンスターと呼んでいる種類ですね。魔石が採れません。死体が縮まないので、死骸の片付けが大変なんですよ。スタンピードとは、大量発生のことです」


「でも、カニなんですよね。食べられる?」

「ええ、カニですからね。資料では、美味であったと」


「決まりましたわ!」


突然、アンヌが叫んだ。


「はい?」


「行きましょう! 新島へ!」


「はぁ」


「ポーションの原料を採取します! 私のボーナスのために! ついでにカニも食べ放題ですわ!」



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