観察、考察、対処。
ヨウサの背から生えた剣が連なって出来た触手のようなそれは、一瞬前までネロが居た場所の空を切る。
「空間切断」
「ッ!」
ヨウサの背後に現れたネロの剣が、ヨウサの首を斬り落とす。
「クキャキャッ! 消し去ってやるぜッ!」
宙を舞う鉄の兜。それはそのまま、胴体の上に落ちる。
「……ぁ?」
カラン、聞こえた音は想像よりも軽かった。そして、そのままカラカラと兜は転がっていく。空の中身を晒しながら。
「んだと……?」
さっきまでは確かに、中身が入っていた。なのに、今は空っぽだ。
「こっちも、だな」
胴体の方も見るが、そっちも完全に空っぽだった。
「鉄騎剣鞭」
呆然とするネロの背後から、二本の鉄の剣が連なって出来た触手のようなそれが迫り、背中をぐちゃぐちゃに引き裂こうとした。
「ッ、っぶねェ……」
「不思議か? 俺が無傷で居ることが。刎ねた兜の中身が空だったのが」
続けて迫る別の二本の鉄剣の触手。しかし、今度は転移も使わずに危なげなく回避する。
「あぁ、不思議だな。不思議でしょうがねぇ。その入れ替わりがどういう原理なのか、な?」
「……気付いていたか」
ヨウサの言葉に、ネロはクキャッと笑った。
「いいや、ブラフだぜ?」
「ッ」
同時に迫る四本の触手は、突っ立ったままのネロの体に当たらない。まるで、突然ネロと触手の間に距離が出来たかのように。
「だが、そうか……入れ替わりか」
そのタネが割れたとして、どう対処する? いや、まだだ。まだ、情報が足りない。
「知る必要がある。何回使えるのか、有効距離はどの程度なのか、発動速度はどうか……それと」
空いた距離を一気に詰めてくるヨウサ。ネロは振り回される四本の触手を転移も使わずに身のこなしだけで避けながら、ヨウサがそこに入るのを待った。
「肉体が激しく損傷しても、入れ替わりは使えるのか……とかな」
ヨウサが踏み入った場所は、さっきネロが一歩も動かず触手を回避したその空間。拡張された空間だ。
「閉じろ」
「ぐッ、ぅ、ぉ――――ッ」
閉じた……いや、元通りになった拡張されていた空間。その内側に居たヨウサはぐちゃりと鉄の鎧ごと潰れ、そして……ガシャン、という音と共に無傷で空っぽな全身鎧が転がった。
「なるほどな。これでも入れ替わりは出来る、か」
言いながら、ネロは周囲を見渡す。と、後ろ側に潰れたヨウサが転がっているのが見えた。
「入れ替わりは出来ても、傷が治る訳ではないんだな」
空間転移。ネロは潰れたヨウサの前に現れる。
「さぁ、再生は間に合うか?」
空間を切り裂く刃が、原型を無くしたヨウサに振り下ろされる。グロテスクになった体の中から覗く濁った眼がネロを睨む。
「また、か。時間を置かずとも連続使用は出来るらしいな」
ガシャン、代わりに現れる空っぽの鎧。そして、後方にはまた少しずつ原型を取り戻していくヨウサが映る。
「しかし、現れるのはいつも俺の後ろ側……これは、関係あるのか?」
少しの間思考に耽っていたネロはあることを思いつき、ヨウサの前に転移した。
「まぁ、試してみるか」
なんとか認識できる血まみれの足を地に突き立てながら身を起こすヨウサ。その背から、スラリと鉄の剣が連なった触手が数本、伸びていく。
「ほら、よ」
ネロが、黒いオーブを布袋から取り出し、割った。
「ッ!」
「どうだ、どう出る?」
割られたオーブから膨大な闇が溢れ、それは外側へと拡散すると、ネロとヨウサを覆うようにそこそこ広いドームを形成した。
「マザーから貰ったんだがな、こいつはただ周囲の音と視界を切るためだけの代物だ」
「……ッ」
闇のドームの中から逃げ出すべく後ろに飛び退こうとするヨウサ。しかし、その為の足が胴体と離れた。
「逃がさねぇよ。先ずは、足を削ぐ。次に、腕だ」
ヨウサの両腕を、空間の刃が斬り落とす。
「ッ、鉄騎剣鞭!」
「やっぱり、な」
振り回される触手を、ネロの剣は斬り落としていく。
「こんだけのピンチだ。なのに、入れ替わりを使わねえ」
腕も、足も、触手も、削がれた。
「鉄騎招――――」
「させねえよ」
剣がヨウサの口の中を貫き、そのまま上まで突き抜ける。
「つまり、お前は視界内の騎士としか入れ替われない……だろ?」
剣が薙がれ、眼窩ごと眼球は削り取られた。しかし、ヨウサは僅かに笑みを浮かべ、ゴフッと血を噴き出して口を開いた。
「あ、ぁ……見事、だ」
発される言葉とは逆に、悪あがきのようにドームの外から無数の鉄騎士が流れ込んでくる。
「そいつァ、どうも」
ネロの剣は、ヨウサの首を刎ね飛ばした。
「後は処理、だけだな?」
飛び掛かってくる無数の鉄騎士と、首を分かたれたヨウサを見てネロは息を吐いた。





