黒斑
第一層を突破したレヴリス達は、止まることなく第二層の奥へと進んでいく。数々の罠を超え、魔物を超え、辿り着いたそこは次のボス部屋だった。
「また重厚な扉がしてありますけど……行っちゃいます?」
レヴリスが問いかけると、リーノが首を振った。
「いえ、報告によると既に何組かが塔の内部に侵入できているそうです。合流を待ってもいいかと思いますが」
リーノの意見に静かにタキンが頷き、ケイルがつまらなそうな顔をする。
「いいけど、暇じゃね?」
「……暇かも知らんが、さっきの戦闘を考えれば慎重に行くべきだ」
タキンの重低音に、ケイルは溜息を吐いて諦めたようにそっぽを向いた。
「なんだよ、待機すんのか? 俺らだけで行っても良いんだがな」
「そうだね。僕も退屈なのは嫌」
退屈を嫌うドレッドとブレイズが進もうとするが、レヴリスが進行方向に立ち塞がる。
「待って下さい。私の指示に従うって約束したはずなのです。だったら、ここで待つのです。せめて一組は待つべきなのです」
「……しゃあねえな。一組だけだ」
何故か偉そうに言うドレッドだが、レヴリスは何も言わずに頷いた。
それから数分後、後ろ側から新たな仲間達が現れた。
「へいへい、どうぞよろしくな。旅人ども」
先頭に立ち、真っ先に挨拶したのは今回金で雇ったならず者達の実質的な支配者。赤黒い染みがマダラ模様を描いている茶色い外套を纏った中年の男。
「黒斑のボスをやってるズカラ・エルブランだ。まぁ、気軽にズカラって呼んでくれや」
自己紹介をしたズカラの後ろから、七人の男が歩いてくる。うち二人はズカラと同じような浮浪者のような様相で、残りの五人は立派な装備を纏っている。
「あぁ、先に紹介しとくとこっちの二人も俺と同じ黒斑のメンバーだ。こいつはエグナ、こいつはエルピア。どっちも腕は良い」
二人は会釈もせずにズカラの両脇に立った。続けて、後ろの五人が前に出る。全員がプレイヤーのようだ。
「そっちの挨拶は終わりで良いな? つっても、俺らは挨拶する必要もなさそうだな……そっちの二人以外には」
五人のリーダーらしき男は、ドレッドとブレイズを見た。
「あ? テメェも死闇の銀血か? 挨拶なんて要らねえよ。人が集まったんならさっさと行こうぜ。暇してんだ、こっちは」
「そうだよ。この緋禍无を磨くことくらいしかやることが無いんだ。良い加減に体を動かしたい」
座り込み、目を瞑っていたドレッドは立ち上がり、直ぐに大剣を持った。ブレイズは責めるような目で彼らを見ながら、布を収納し手元で磨いていたレイピアを構えた。
「そうかよ。挨拶が要らないならさっさと行くか。クランマスターもそれで良いな?」
「はい。十分な戦力なのです」
頷くレヴリスに進み始める全員だが、意外な者が足を止めた。
「そういえばよ、黒斑っつーとサーディアじゃ一番有名なクズどもだろ? そこのボスが直々に来るなんて、意外だな」
ドレッドだ。以前からズカラの存在を知っていたドレッドは、サーディアから殆ど動かないというズカラが今回の作戦に加わっているのを意外に思った。
「あー、いつもなら来ねえわな」
ズカラも足を止め、語り出す。
「サーディアでシマを張ってたんだが、烈血に荒らされてこれ以上続けられそうに無くてなぁ……だから、違う場所に移る為に金を稼ぎに来たんだよ。正に渡りに船って話だ」
リーノがあるワードに耳を取られ、眉を顰めた。
「……烈血?」
思わず尋ねるリーノに、ズカラは意外そうな顔をする。
「なんだ嬢ちゃん、知ってんのか? 旅人どもはそういう話はあんまり知らねえって聞いてたが意外だな」
「一応、興味を持ったことは調べるようにしているので」
ズカラは笑い、リーノの肩を叩く。
「ハハッ、そいつは良いことだ……さて、烈血だったか? まぁ、正確にはそうアイツが名乗ってるだけで本物かなんて知らねえが……前から目障りだったんだが、ちょっと前から本格的に暴れ始めやがってなぁ。俺の部下じゃどいつも歯が立たねぇんだよ。クソムカつくが、勝てねえもんはしょうがねぇ。さっさとトンズラこいてまた新しい場所で雑魚を脅していきゃぁ良い訳だ」
「……そうですか」
冷たい目でズカラを見ながら、リーノは静かに距離を離した。それから直ぐに、ドレッドがズカラに話しかける。
「それとよぉ……ズカラ。黒斑のボスは、元はテメェの親父だって聞いてたが今はどうしてんだ?」
「いや、オヤジはもう居ねえな」
ズカラはあっさりと首を振る。
「あ? 死んでんのか?」
「あぁ。親父は俺が殺してやったからな」
平然とズカラは言い放った。





