黒い男、シン。
♦︎……ネクロ視点
やぁ、ネクロだよ。相変わらず部屋は暗めだし、暇だよ。
「これで十五組目かな」
あれからそこそこの時間が経ち、圧倒的物量によって僕が用意した魔物たちも何度か潜り抜けられることになった。そして、今回の侵入者は記念すべき十五組目ということだ。
「お、続けて十六組目だね。組って言っても一人だけど」
また、彼らの侵入に乗じて入ってきたのは一人の男だ。全身黒い服で身を包み、黒い片手剣を持っている。名前は……シン、と言うらしい。
「んー、合流しそうだね」
シンという男はツカツカと前方の集団に近付いていき……彼らが振り返ったところで、最も近くに居た男の首を斬り落とした。
「……へぇ」
突然の出来事に目を見開く男たちだったが、直ぐに己の武器を構え、シンに向き合った。
『テメェ、どういうつもりだ。俺たち同士での争いは無し。そういうルールだろ』
問い掛ける男に、シンは表情も変えずに答える。
『人に迷惑を掛けない、なんて最低限のルールも守れないお前達に合わせてやる義理がどこにある?』
『テメェ……ッ!』
怒りに表情を変える男達。しかし、シンは溢れる怒気に怯んだ様子も無い。
『大体、俺はPKが嫌いだ。だが、だからと言って効率を落としてまで諍いを起こすほどじゃない。それでもお前達に斬りかかったのは……お前達の内三人に恨みがあるからだ』
元は六人で固まっていた彼らだが、中でも三人に恨みがあるらしい。というか、この口振りからしてシンという男はPKでは無いようだ。
『A-keep、五十ロゴ、アイダイム。お前らだ。他の三人に恨みは無いが……どうせPKなんだろう? 謝罪は要らないな』
そこまで話を聞くと、男達も和解は不可能だと察したのだろう。先手を取るべくいきなり斬りかかった。
『遅い』
最初に斬りかかった男だが、剣がシンに触れるかどうかという瞬間……シンの姿が消えた。次の瞬間、その男は首から血を噴き出していた。
『ば、馬鹿な……速すぎんだろッ! 何をしやがったッ!』
『バフだ』
短く答えると、シンはその男の喉笛を切り裂いた。喉から血を噴き出し、男は膝を突く。そこにトドメを刺そうとシンが剣を振り下ろすとするが、二人の男が立ち塞がった。A-keepと五十ロゴだ。因みに、膝を突いているのがアイダイムだ。
『そう簡単にやらせねぇよ……てか、ぶっ殺すわ』
『あぁ、やらせん。加えて言えば、ぶっ殺す』
怒りを表情に滲ませる二人は、シンの剣を防いだ後、直ぐに襲いかかった。
『ほらほら、どうよ。平衡感覚狂うっしょ。そのまま死ねや』
『どうだッ、息を吐く間も無いだろうッ! そのまま死ねィッ!』
A-keepは短杖を振るい、魔術をかけてシンの平衡感覚を狂わせた。そして五十ロゴは手に持った刀で高速の斬撃を繰り出し続ける。
『……悪いが、慣れてる』
しかし、シンは五十ロゴの刀を剣で弾いて打ち上げると、そのまま五十ロゴの首を斬り落とし、平衡感覚が狂ったままにも関わらず、離れた距離にいるA-keepに一瞬で距離を詰めて胸に剣を突き刺した。
『嘘、だろ……普通、そんなに、動けないっしょ……』
『色々なゲームをやっていれば平衡感覚を壊されることだってあるだろう。だから、慣れてるだけだ。ついでに言うが、あの程度の斬撃なら深呼吸する余裕もある』
言い切って、シンはA-keepにトドメを刺した。
『今だァアアアアアアッ!!』
が、剣を振り抜いたその瞬間に背後から一人の男が襲ってきた。彼はシンの恨みとは関係無い相手であろうノプという男だ。気配を消したままひっそりとシンに近付いていた彼は、毒がたっぷりと塗られていそうな液体塗れの短剣をシンに向かって突き出した。
『悪いが、既に気付いてる』
しかし、彼の企みもシンの前では無に帰した。ノプの刺突はあっさりと避けられ、そのままガラ空きになった背中に魔術で作られた鉄の槍を突き刺された。
『……テメェ、魔法も使えんのな』
ポーションで回復し、血を流しながらも立ち上がった男が睨みながら言った。
『あぁ、そういうジョブだからな。……いや、こういう情報は言わない方が良いのか。忘れてくれ』
『……ケッ、ムカつくやつだなテメェ。だがよ、最後に聞かせろ。恨みってなんだよ』
『このゲームじゃないが、お前達にPKされたことがある。その恨みだ』
ん、別のゲーム? 知り合いかな?
『は? 別ゲーだと? んなもん、何で分かんだよ』
当然の疑問を投げかける男。
『体の動きと、癖だ。見てれば分かる。それだけだ』
『テメェ、何言っ』
言葉の途中で、アイダイムは事切れた。背後から首に突き刺さった闇の棘が原因だろう。
と、シンは振り返ってこっちを向いた。
『ネクロ。強くなるきっかけを与えてくれたお前には感謝しているが、同時に恨みもある。つまり、遠慮なく殺しに行く』
同時に、映像と音が遮断される。
「あ、潰されちゃったね」
実は、さっき取得した使い魔というスキルによってダンジョン内や外の様子を観察していたのだが、入り口を観察していた使い魔がシンに気付かれて破壊されてしまった。
何はともかく、面白くなったね。
間に合ったぁ!





