ゴブリン vs ベルセルク
狂戦鬼のアレスの前に立ち塞がった高身長で細身の黒いローブを被った男。
「新手か? 仲間か?」
尋ねるアレスに、男は気持ち悪く笑みをこぼす。
「クキャッ、そのくらイ解析すれバ分かるだろ?」
微妙に片言だが、男は語りかけた。それに従い、アレスが解析をかける。
「へぇ、ハイゴブリ────ッ」
「クキャッ!」
解析をかけた瞬間、ディスプレイが表示された瞬間、アレスの首が半分まで斬り裂かれた。正に首の皮一枚繋がったというところだろうか。
「クキャッ、惜しカったナ」
いつの間にか背後に立っていた男……ハイゴブリンのネロが笑いながら言った。アレスは慌てて振り返りながら飛び退いた。
「あァ、痛ぇ! 最高だ……最高に、してやられたなァ」
「テメェらはヨク解析を出会い頭にカけるよナ? だがアレって一瞬視界の一部が塞がるンだってナ? 半透明だが、視認性ハ確実に落ちル。それに、現れた文字に集中しちまウ。だから、その隙ヲ突くくらい簡単ダロ?」
素直に悔しそうにするアレスに、ネロはくつくつと笑いながらフードを取った。現れたのは人のようなゴブリンだった。身長や佇まいは人のようだが、耳は尖っており、肌は緑色。といっても、通常のゴブリンのような真緑では無く、少し黒っぽい暗い緑色だ。
「ゴブリンの癖に人の言葉を喋れるなんて不思議だな」
「人と俺タチは声帯ガ似てるからナ。知能さえあれば真似するノは余裕ダ」
と、ネロが言った瞬間、周囲から様子を窺っていたゴブリン達が一斉に襲い掛かった。
「奇襲のつもりかァ? その程度じゃッ!?」
全方位から飛びかかるゴブリン達に、アレスは両手の斧を一周させることで対処しようとしたが、突如目の前に現れたネロに足を蹴られ、体勢を崩してしまう。
「ぐッ、あァッ!? 痛えッ、痛えなァ! クヒヒッ!」
地面に倒れてのしかかられ、ゴブリン達の持つ小型の武器に身体中を切り刻まれ、滅多打ちにされ、悲鳴をあげるアレスだが、完全にその口元は笑ったままだ。
「お返しだァッ! 蛮鬼狂叫ッ!」
アレスの体から真っ赤なオーラが弾け、アレスを囲んでいたゴブリン達が身体中に細かい切り傷を負いながら吹き飛ばされる。
「クキャ」
しかし、ゴブリン達から少し離れたところでそれを見ていたネロは、彼らが弾き飛ばされると同時に空間魔術で接近し、空間魔術を付与した剣を振り下ろした。
「ッ!? あっぶねェなマジでッ! お前、どうやって近付いたんだ? ズルしてねェ?」
「クキャッ、さァな? そレより俺はテメェの勘の良さノ方がズルいと思うンだが?」
言いながら、ネロは空間ごと削り取る防御無視の危険な刃を振り下ろす。
「あァ、勘の良さか? リアルだと痛みも温度も感じねぇからな。きっと、俺の体が俺を死なせないように鋭く気を張ってくれてんだと思うぜ?」
「クキャッ、殆ど何言っテるか分かンねぇなァ」
しかし、アレスはその刃を決して斧で受けることなく避けていく。未だに空間魔術の存在に気付いていないのに、である。これはやはり、凄まじい勘が彼の中にあると断言して良いだろう。
「……なぁ、さっきから俺ばっかり傷が増えてんだがよ。お前もちょっとは当たってくんねェか?」
悪態を吐きながらもアレスは両手の戦斧を振り回す。その度に鋭く速い血の刃が飛ばされるが、ネロには当たらない。代わりに周りを囲んでいるゴブリン達を斬り裂いていく。
「クキャキャッ、嫌に決まっテるなァ? その代わり、俺はテメェみたいな再生力ガねェんだ。どーダ? ビョードーだろ?」
と、態とらしく言いながらネロはアレスの肩を次元の刃で斬り飛ばした。
「へへッ、そうだなァ! ビョードーだなァ! じゃあ、平等に斬り飛ばしてやるよッ!」
斧を振り回すアレスに一歩引いたネロ。しかし、それを、知っていたかのようにアレスが片手の斧を投げた。回転する斧はネロの肩の一部を斬り飛ばした。
「チッ、やるじゃネェか……まぁ、良い。これでビョードーだなァ、クキャッ!」
お互いに一歩も引かない戦いに、周りのゴブリンやプレイヤーはただ、眺めているしかなかった。





