森の奥へ走れ
♦︎……カルブデッド視点
レヴリスと別れ、それぞれ違う道で塔を目指している俺だが、さっき決めた通り五人一組のグループで動いている。
「お前ら、何回も言うが絶対離れんなよ」
「へぇへぇ、分かってますよい。あ、敵の反応はねぇですぜ」
一人は、慇懃無礼で軽薄な態度の男。いぶ吉だ。俺たち死闇の銀血の一員でもある。狩人系のジョブである罠師に就いている珍しいプレイヤーで、普段はエリアに罠を仕掛けてパーティを一網打尽にすることを趣味としているらしい。
「つーか、大将。俺はこういうオンミツコードー的なのは苦手なんだが、大丈夫なのかよ?」
「あぁ。息を潜めろって言ってる訳じゃねえ。ただ、騒いだりせずに敵が居ねえ道を行くだけだ」
明らかに世界観が違う戦国時代かのような鎧を着ているのはゴンドウだ。こいつも俺たちの仲間だ。ジョブは大武士で、正面から突然名乗りを上げて襲ってくる大薙刀使いが居たらコイツだ。
「……私も、集団行動は苦手ですよ?」
「構わん。戦闘になったら勝手に集団からは離れてもいい。代わりに、お前に出来る形で支援はしてくれ」
リャンドリだ。こいつは元々どこにも所属しないソロのPKだったのだが、誰にも存在を気付かれることなくパーティのメンバーを一人ずつ殺していく見事な手腕がレヴリスの目に留まり、スカウトされた。
自分のことを語るのが嫌いで、ジョブも教えてはくれないが、アサシン系だと思われる。
「ふぅふぅ……でゅふふっ」
「おい、どうしたお前」
「いやいや、なんでも……でふふっ」
このとても気持ち悪い男はウモキラだ。エリアボスに挑んでいるパーティに奇襲を仕掛け、全滅させるのが趣味らしい。ついでにエリアボスを倒せることもあるらしく、最高だと語っていた。
「おっと、大将。そこ、敵の罠ですぜ」
「……これが、罠?」
罠師のいぶ吉が罠だと言って注意したのは、どうみてもちょっと伸びているだけの木の根に見えた。
「へぇ、罠です。これに引っかかると上から酸か何かが降ってきやすね。まぁ、相手はドルイドか何かでしょうなぁ。あっしも一瞬気付きやせんでした」
確かに、言われてみれば上の方に大きなウツボカズラのような物がある。あれから酸が降ってくるのだろう。
「まぁ、こういうこともありますんで、こっからはあっしが先に歩きやしょう」
「あぁ、頼む」
こいつ、思っていたより優秀かも知れない。俺は躊躇なく先頭を譲った。
「ぁッ!」
なんだ。後ろから、嗚咽のような悲鳴のような声がした。思わず振り返る。
「なッ、ウモキラッ!?」
首が、無かった。
「おいおい……いつやられたんだ?」
「気配はしやせんでしたが……」
ウモキラの首が、綺麗に刈り取られていた。数秒経ち、ウモキラの体が粒子と化して消えていく。
「どっからだ……どっから来やがるッ!」
全員で背中合わせになり、周囲を警戒する。死角はないが、どこから来る?
「なッ」
現れた。突然、視界の端に何か黒いものが映った。
「ぐぁぁッ!?」
斬られた。いぶ吉の喉笛が引き裂かれ、地面に倒れ臥す。
「喰らえッ!」
俺は構えていた剣を、相手の詳細を確認することもなくその黒い何かに向けて振るった。
「……は?」
すり抜けた。俺の剣が、奴をすり抜けた。それと同時に、ようやくその敵が視界の中心に収まる。
「……彷徨う剣客」
黒い布に覆われた、黒霧の体。足などは無く、ただ黒い霧の腕に鈍い銀色の剣が掴まれているのみだ。頭部と思われる部分には、紫色の光が目の代わりのように輝いている。
「なるほど、な」
霧の体に、物理攻撃は効かない。判定がある布の部分も、即座に再生してしまう。
「おいおい、こっちにプリーストはいねぇんだぞ……どう倒す?」
既にこっちは二人やられてる。突然目の前に現れた力のタネは割れてねぇし、倒せるビジョンは一切湧かねぇ。
「……消えた」
ボーッとこっちを見ていた亡霊の剣士は、突然姿を消した。いぶ吉の死体は既に粒子と化している。
「いぶ吉もウモキラも一発で持っていったところを見ると……暗殺術か?」
どちらも不意打ちだったから、暗殺術ならば説明はつく。あれは、大体奇襲や急所狙いだと威力が上がるからな。
「おい、大将。これどうすんだ? 俺にはさっぱり分かんねぇんだが」
「あー、そうだな。超頑張れば倒せねぇことはないかも知れないが、出来ることなら逃げてぇな」
言いながら、背中合わせの態勢になる。もう、いきなり目の前に出てくることは知っている。不意打ちにも対処できるはずだ。
「……来たッ!」
目の前だ。またもや突然現れた。剣を振り上げている体勢で、それは現れた。
「うッ、らぁッ!!」
剣で受け、弾き返す。よし、防御には成功した。次は反撃を……ッ!?
「ぐふッ、カハッ……は、速ぇ、速すぎる……」
亡霊の剣士は、打ち上げられた剣を直ぐさま返し、即座に俺の胴体を斬り裂いた。そのままトドメを刺そうと剣を振り上げる。
「俺は武士ッ、名はゴンドウッ!! 喰らえぇえええええッッ!!!」
血涙を流し、大薙刀と体から血のように赤いオーラを発するゴンドウ。大薙刀の刃には炎が纏わり付いている。
『我が名は……イシャシャ』
「喋れんのかッ!?」
意外にも名乗りを返したイシャシャを自称する亡霊の剣士は、俺にトドメを刺すことをやめてゴンドウに向き合った。
『……推して、参る』
くぐもった低い声で言うと、イシャシャは大薙刀を簡単に回避し、お返しに赤いオーラを纏った剣を喰らわせた。
「ぐはァッ!?」
ゴンドウが血を吐き、膝を突く。
「つーか、今の……上級剣術か?」
俺の言葉を証明するように、イシャシャが斬り裂いたゴンドウの腹部は、傷跡に沿って赤いオーラが纏わり付いており、数秒ごとにダメージを与えながら傷口を広げている。
「ぐッ、ぬぅ……もう一度だッ!」
『……無為』
イシャシャはスラリと大薙刀を避け、また斬撃を入れる。
「ぐッ、ぬぉおおおおおおおおッ!!」
『……終い』
ザシュ、立ち上がったゴンドウの首を、無慈悲な斬撃が斬り裂いた。
『……あと、二人』
紫色の光が、俺を捉えた。
「ゴンドウには悪いが……こっちは完全に整えさせて貰ったぜ」
今の時間を使って、俺はポーションによる回復とスキルによるバフを両方済ませておいた。この状態で遅れを取る気はねぇ。
「本当は闇属性の方が得意なんだが、しょうがねぇ」
俺は火と闇が得意だ。しかし、こいつに効くのは光だからな。
「ラゼィクシード・ライト、エレメンタルスラッシュッ!!」
俺はバターのような光り輝く物体を刃に溶かし、光輝を放つ剣で亡霊剣士に斬りかかった。
『────緋蔭流、火閃』
剣を振り上げている俺の胴体を、赤い閃きが駆け抜けた。
「……ぐッ、ぁあ」
体が、内側から燃え盛るように錯覚する。痛覚設定は切っている筈なのに、なんなんだ、この感覚は。
『……これが、剣術だ』
もう、ダメだ。俺は死ぬ。そう悟った時にはもう、亡霊は俺から視線を外していた。
「……ぁ、っい」
俺の視界に最後に映ったのは、不意打ちとばかりに飛びかかった攻撃が軽くあしらうように避けられ、数秒と経たない間に細切れになっているリャンドリの姿だった。
遅れましてすみません。昨日、登山に連れていかれまして、疲労と痛みで碌に書けませんでした。行者道とかいう、初心者に絶対通らせちゃいけないルートを通らせた友人は絶対許しません。
ていうか、なんなんですかあれ。道の幅が50センチくらいなのに、足踏み外したら即死なんですけど!?? 皆さま、山は安全なルートで行きましょう。死にたくなければ。





