卵より出でし竜
不思議な卵より生まれたそれはそれは竜だった。体の構造はメフィラに近く、四足を持つ。フェニックスに似た二対の翼を持ち、鱗は黒、翼は紫と赤、爪と牙も赤く、瞳は黄金色に染まっている。
但し、そのサイズは竜形態のメフィラと比べるべくも無い。
「ぎゃおっ!」
その竜は、一番最初に目に付いた僕に飛びつき、頭を擦り付けてきた。
「やぁ、こんにちは。僕が君の保護者、ネクロだよ」
「ぎゃお」
幼竜は僕の胸に抱きついたまま頷いた。凄い、生まれたばかりなのに言葉が分かるのか。……いや、これはドラゴンとしての能力か。ドラゴンは生まれつき言語を直感的に理解できる。というか、言葉に込められた意思を間接的に読み取っていると言うべきだろう。
「じゃあ、名付けから入るけど……取り敢えず、解析だね」
スキルを使うと、僕の目の前に半透明の板と文字列が表示される。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Race:幼竜・金蝕 Lv.1
Job:──
Nameless
HP:32
MP:57
STR:31
VIT:28
INT:31
MND:27
AGI:25
SP:0
■スキル
□パッシブ
【炎属性耐性:SLv.2】
【闇属性耐性:SLv.2】
【HP自動回復:SLv.1】
【MP自動回復:SLv.1】
【高速再生:SLv.1】
□アクティブ
【火吹き:SLv.1】
【爪術:SLv.1】
□特殊スキル
【幼竜】
【暗蝕】
【歪曲する金色の空】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
流石はドラゴンだね。レベル1なのに一桁台のステータスは無いし、なんなら50を超えてるのもある。僕の初期ステとか全部一桁だったのに、種族格差って酷いね。
ていうか、特殊スキルの量が多過ぎる。上から、種族スキル、メフィラ由来の力、首飾り由来の力だろう。やっぱり、僕も火を出して正解だったね。
「んー、名前は……マグナで」
「ぎゃぁ!」
深い理由は無いが、名前はこれにした。語感が良いからと言うのもある。まぁ、マグナも右腕……前足を上げて喜んでいるので良いだろう。
「ネクロさんっ、その子めちゃくちゃ可愛いですね!」
珍しくエトナは僕の命名にも触れず、小さな竜をジッと見た。
「可愛いだけじゃなくて強いよ。ほら、抱いてみる?」
僕はまるで赤子を抱かせるようにエトナにマグナを渡した。……いや、実際赤子ではあるか。
「わぁ、可愛いですっ! ほら、マグナちゃん! 私がママですよ〜!」
「……ぎゃお」
マグナは鬱陶しそうな表情で僕を見た。助けを求めているのだろうか。ていうか、僕の代わりに刷り込もうとするのやめてもらえないかな。
「お前ら、可愛がるのは良いが、そろそろ従魔にしたらどうなんだ」
人形態のメフィラが呆れたようにそう言った。確かに、このままじゃ僕はマグナの保護者という肩書きを得ただけで終わる。
「あぁ、それもそうだね……じゃあ、おいで」
僕が言うと、マグナはスススッとエトナの腕を抜け出して僕に飛びついてきた。
「ぎゃおっ!」
「あぁ、うん。元気があって良いね」
僕は胸に張り付くマグナを片手で支え、もう片方の手で頭を撫でた。
「じゃあ、行くよ」
僕はマグナを地面に置くと、姿勢を低くしてマグナの前足を握った。
「『我は汝が魂を認め、汝は我が魂を認める』」
マグナの手を通じて、竜の魔力が伝わってくる。それと同時に僕の体から魔力が抜けていく。
「『我等は永きを共に生きる友であり、我が生涯をかけて汝に寄り添い生きることを誓う』」
少しづつ、マグナの存在が近づいてくるのを感じる。
「『偉大なる竜よ、契約せよ。大いなる翼で空を舞い、熱き炎で仇敵を焼き尽くせ』」
竜と人の魔力が混じり合う。奇妙な心地良さに思わず目を閉じる。
「『竜誼の契約』」
瞬間、僕の手から竜の手に魔力が迸り、マグナの額に蒼く光る紋章が現れた。
さぁ、これで契約が結べたはずだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Race:幼竜・金蝕 Lv.1
Job:──
Name:マグナ
HP:32
MP:57
STR:31
VIT:28
INT:31
MND:27
AGI:25
SP:0
■スキル
□パッシブ
【炎属性耐性:SLv.2】
【闇属性耐性:SLv.2】
【HP自動回復:SLv.1】
【MP自動回復:SLv.1】
【高速再生:SLv.1】
□アクティブ
【火吹き:SLv.1】
【爪術:SLv.1】
□特殊スキル
【幼竜】
【暗蝕】
【歪曲する金色の空】
■状態
【従魔:ネクロ】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
竜専用の契約だったけど、上手くいったみたいだね。これも結構特殊な契約で、術者と竜の体が触れ合っている時……つまり、術者が竜に騎乗している時、お互いの能力が上昇するというものだ。
まぁ、僕のステータスなんて伸びてもしょうがないけど、マグナのブレスとかが強化されるのは結構良いことなはずだ。
……とはいえ、このサイズじゃまだまだ乗れないね。まぁ、竜は肉体を急成長させる手段が色々あったはずだから大丈夫だとは思うけど。
「まぁ、こんなところで……そろそろ僕たちは帰ろうかな」
「待て、人の子よ」
この剣山からどうやって帰ろうか悩みながらも取り敢えず言ってみたが、呼び止められてしまった。
「その竜は置いていけ。私が育てる」
「……何言ってるの?」
僕は眉を顰めて言うと、メフィラは落ち着いた口調で話し始める。
「これは竜の間では常識だが……竜は、竜でしか育てられない。私がその子を育てなければ、その子は飛べず、火を吐けず、ただ体が強いだけのトカゲになってしまう」
直ぐに否定しようと思ったが、僕は記憶の片隅でとある話を思い出した。そういえば、チープもそんなことを言っていたはずだ。
曰く、もしお前が竜を使役したとして、自分の竜から子が生まれても自分で育てようとは思うなよ。必ず親に任せろ。そうしないと、使い物にならなくなるらしいからな。
あぁ、お前のアースとかいうやつは普通のとは色々違うから知らん。まぁ、そいつに任せるのが安パイだとは思うが。……と。
「……うん、分かったよ。でも、あんまり長いと困るな」
「大丈夫だ。この私ほどになれば……そして、これだけ優秀な竜ならば一週間もあれば事足りる。まぁ、かなり詰めてやることにはなるかも知れんが」
言いながらメフィラはマグナを見た。
「マグナ、あのお姉さんが一週間だけ預かって強くしてくれるらしい。どうする?」
「……ぎゃぉ(……やる)」
マグナは決意の篭った目で僕を見た。と、そこにメフィラが近付いてくる。
「話は決まったようだな。……まぁ、任せておけ。私の力も当然混じっているようだからな。それの使い方も教えてやろう」
「……ぎゃぁ、ぎゃお(……またね、お父さん)」
マグナはメフィラの足元まで歩いていくと、振り返って僕に手を振った。
「……うん、またね」
あれ、親元を離れる子を見る親の気持ちってこんな感じなのかな。まだ産後十分も経ってないんだけど。おかしいなぁ。
僕は何となく納得いかない感情を押し殺し、微笑んで手を振り返した。
更新遅れまして申し訳ございません。ステータス考えるのに悩みまくっちゃいました。結果、割とチートになりました。まぁ、メフィラとアムナルフの力を受け継いでいるのであのくらいはいってもいいでしょう。





