巨人狩りの六英雄①
悪魔が曲を奏でている頃……壁上で、巨人を見据える者達が居た。
「デッカイのう……コリャ儂でも斬るのに時間が掛かるなぁ!」
「……私は、ハデスと戦いたかった」
「そりゃ儂もじゃいッ」
「三郎丸殿、ニノ殿、先ずは眼の前の破壊の権化をどう処理するか考えようじゃないか」
二人を諌めるのは、魔力を封じられた魔術の王…〝プロフェス〟。
「さぁ、賛同も得られた訳だし、早速会議と行こう、先ずは我々の手札から」
そう言うと、プロフェスが他の面々に目を向ける。
「先ず前提として、あの巨人を倒すには火力が居る、ノーマンと三郎丸、ニノ殿は必須だろう。」
「じゃあ俺と……ジャックは巨人の気を引くか」
「プロフェス、主は敵の動きを観察し、弱点を探れ、あのデカさじゃ、複数の弱点が有っても不思議じゃない」
「それと、有効打は聖属性だな、元が死骸で相手は悪魔の作り物だしな」
「……まぁ、今出来るのは此処までかねぇ?」
――カチャッ――
「それじゃあ、さっさと斃しに行くか、のう、ニノ、ノーマン」
「勝ったら次はハデス」
「異議なし」
そして、巨人と英雄達の舞踏会が始まった。
●○●○●○
「――ほぉ!…どうやら本格的に舞踏会が始まるようだ♪」
――ギィンッ――
「グッ…ウォォ!!!」
「喧しい」
――ドッ――
血まみれの傀儡を殴り付ける……今はコイツ等どうでも良い。
「アナテマと五人の守護者……是非、是非とも鑑賞したいマッチアップだ♪」
――ガラッ――
「……どうした……ただ腕が千切れただけじゃないか、もう終わりか?」
「グゥッ……ァァァッ……!?」
「……ハァ、やはりつまらんな、お前は」
――パチンッ――
悪魔の歌と共に空に〝楽器〟が漂う。
「疾く失せろ」
そして、楽器はアーサーへ向けて空を裂く。
――ドッドッドッドッ――
土煙が空を舞い、その中を更に楽器が突き進む……そして、曲は終わる――筈だった。
「………ッ――お前はッ!?」
悪魔が目を見開き、その動きを一瞬止めた。
「今だ殺れぇッ!」
「ッ!?」
「フッ!」
ジリィンッ――
ハデスの首を、横から女が狙う、それを寸での所で防いだ、その瞬間。
――ズシャアッ――
その瞬間……悪魔の首が撥ねられた……背後に居た、白い剣の青年によって。
「京馬……」
「無事かアーサー!」
「皆……すまない……」
静寂の中で、アーサーの手を、黒い盾の大男……〝ガチタン〟が掴む――。
「そうだ、そうだな、そうだとも……お前達が居た、居たなァ?」
頭も、身体もグズグズに溶かし、ソレは寄り集まり形を作る。
「忘れていた……何と言うことだ、こんなにも素晴らしいお前達を、よもや忘れてしまうとは、何たる屈辱か……」
――グプッ、ドプッ――
「〝月の処刑人〟……〝悪夢狩り〟……俺を殺せる〝正しい資格者〟……」
――ギョロッ――
「ッ……」
「面倒な付属品も付いてきたが……いや良い、今の俺は気分が良い、下らん人形遊びにも飽きていた所だ」
――カランカランッ――
「本当はコレも……相応しい持ち主に与えたかったが……お前達には必要無いだろう」
「アレは……?」
「――ッは!?聖剣!?」
「〝食え〟」
二振りの聖剣を魔剣が喰らう……。
「さぁ遊ぼうッ、お前達の進化を見せろ!」
○●○●○●
――ズドォンッ――
大地が揺れる、大地を殴り砕いた腕が、ゆっくりと引き上げられる。
「ヒューッ、スリル満点じゃないの、なぁジャックちゃん!」
「いやいやいや、怖すぎッ、私ホラー苦手なんだけどォ!?」
『―――ッ!!!!』
暴れ狂う巨人、それの脚を、腕を躱す二人の影……ジャックと、テスト。
「……〝開放〟」
――ガシャァァァンッ――
そして、その巨人の腕を破砕する、破壊の左腕を携えた無情の男、ノーマン。
『ふぅむ……ダメージは通っている、しかし致命傷に成ってはいないな』
――グチュチュッ――
千切れた腕に、人の腕が、腕の束が伸びる……そして、それが千切れた巨人の腕にくっつき、元に戻る。
『12………ふむ、成る程…〝三郎丸〟、〝ニノ〟……アレの脚を落としてくれ』
「「了解」」
――ズパァァンッ――
――ブチブチブチッ――
「〝裂き嵐〟」
「〝斬々舞〟……なんちゃって」
『24……成る程、同時に複数箇所の再生は時間が掛かるか』
「プロフェスさんよぅ、相手の殺し方分かったのかねぇ、奴さん全然死ぬ気しないんだが?」
『ふむ……1つ、魔物には〝魔核〟が有る……いや、魔力有る者と言った方が正しいかな……ともかく、其処は魔力の貯蔵タンクで有ると同時に肉体に魔力を流す為の制御装置だ』
「其処を壊せば良いの?」
『大体の魔物はそれで殺せる……だが、相手はアレの創造物だ、魔核が複数存在する可能性を考慮したまえ』
プロフェスの言葉と同時に五人の動きが変わる。
「〝影裂き〟」
ジャックの聖剣が、巨人の引っ付いて間もない右足を断ち切る。
「〝穿ち風〟」
左脚を、テストの脚撃が、骨の装甲ごと砕き貫く。
「〝裂き嵐〟」
三郎丸の太刀が巨人の右腕を抉り切り、寸断する。
「〝斬々舞〟」
巨人の左腕をニノの連撃が斬り離す。
「……〝開放〟」
そして、ノーマンの左腕が、崩れ落ちる巨人の、その頭蓋を砕き壊す。
散らばる骨の散弾が、大地を傷付け、巨人の身体が崩れて行く。
「……は?……コレで終わり?」
『いや、そう言う訳でも無さそうだ』
――グチュッ……ジュルッ……――
骨が、肉が、肉の山が、幾つもの生命が音を立てて混ざり合う……不快な音が世界に響き、そして屍肉の山から黒い瘴気が溢れ出す。
●○●○●○
ソレは……〝怒り〟で在った。
たかが塵如きに、己の愉悦を邪魔された怒り、己の攻撃の1つも当たらない事への怒り、そして。
――ドクンッ――
己の、アナテマへの不甲斐なさへの怒り。
滅ぼす者で在りながら滅ぼす事も出来ず、主の命が在りながら何一つ果たせていない……己への、憎しみ、殺意。
――このまま終わってたまるか――
認めない、このまま果てる事は認めない……絶対に。
――グチュ、グチュチュッ――
考えろ……己の形を。
より、破壊に特化した身体を。
瘴気の嵐の中で、ソレは変化を始める。
六の腕を持ち、身体を堅い骨と筋肉で覆い、五人を見逃さぬよう六の目、そして。
――ガシッ――
6の、屍肉の槍を持って、その変異を終える。
「マジか……」
「ほぉ!……コリャ阿修羅か?」
「いや、どちらかと言えば……」
『まるで〝六腕の巨王〟だな……』
六腕の巨人が吼える、その六つ目は、己の壊すべき五人の敵を睨んでいた。




